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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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154 2026年5月20日(水)_04 会議の真似事03

闇。


廃墟のようでいて、時間が崩れている場所。


空間だけが在り、音が波紋のように広がる。


くすくす。


空間そのものが、愉快そうに震える。


奈良透。


――ナイアルラトホテップが囀る。


「さぁ、楽しく反省会をしようじゃないか、みんな」


軽い。


だが、底がない。


「悲しいかな、ボクラグが人間に討たれたよ。

ああ、水底の蜥蜴王。ずいぶん派手にやられたね」


闇の奥で、腐臭を帯びた執念が軋む。


イゴーロナク。


「欠員か。

彼奴の執念より、人の執念が勝るとは愉快。

……だが、それが“あの箱”なのは不快だ」


見えない指が、何かを撫でる。


撫でられた部分が腐る。


「忌々しい箱だ」


水底から泡立つ声。


グラーキ。


「信徒は再利用できる。

絶望は熟成させたほうが甘い」


ぱらり。


湿った紙の音。


「そして、あの箱の指揮官達も。

私のしもべとして弄びたい」


ぬるり、と胎動。


エイホート。


「迷宮は広がる。

宿主は尽きない」


眠たげな声。


ツァトゥグァ。


「……蜥蜴、いなくなった?

ごはん、減る?」


乾いた声。


シャウルス。


「父のために、信徒の再配分を命ずる。

道化、名簿を整理しろ」


そして。


蜘蛛の糸のように冷たい声音。


アトラック=ナチャ。

携帯ゲーム機を握りしめ砕く。


「……混沌、お前、仕込んだな?」


一瞬。


闇が凍る。


奈良が拍手する。


ぱち。

ぱち。


「やだなぁ。露骨なことはしないよ。

一緒に戦っていたじゃないか」


微笑む。


だが笑っていない。


「ねぇ、気づいてる?」


闇が歪む。


「人間はね。

殺せば増える。

絶望させれば強くなる。

守らせれば――壊れる」


静寂。


「今回は“観測”だ」


その言葉が固定される。


「どこで折れるのか。

どこまで守るのか。

どこで怒りを飲み込むのか」


アトラックが低く問う。


「今回ボクの糸を全て回避した影、……あれが戦鬼か?」


奈良は嬉しそうに頷く。



「うん。 2,277,600年踊っていた子さ」


声が遠ざかる。


「憎しみは育てるものだよ。 いきなり滅ぼすなんて、もったいない」


闇が、ゆっくりと閉じる。


最後に、道化の声だけが残る。



――そして


――静かに


――世界が閉じる。



バリン。


小さな音。


宇宙規模の遮断。


位相が断絶する。

本来は人類の英知。


奈良、ナイアルラトホテップはそれを自分の為だけに使った。


邪神たちの気配が消える。


観測不能。

干渉不能。


世界は奈良ひとりの実験室になる。


「守護神になりかけた箱。

戦鬼、浮雲。

材料は揃った」


時間がねじれる。


「輝くトラペゾヘドロンは、1999年に幽世へ封印された。

届かない」


間。


「だから――代用品だ」


闇の奥で、概念が撫でられる。


負の記録の堆積。


「守護神になりかけたヒヒイロカネの箱。

“山形ロボ”」


金色の格子が浮かぶ。


祈りと血でできた箱。


「……トカゲを生贄にしてまで存在を希薄化させた、

僕の愛おしい復讐者――浮雲平輔」


トカゲ。

ボクラグ。


爆ぜる光。

削れた因果。

消えなかったもの。


「2,277,600年分の敗北」


空間に数字が刻まれる。


「失敗」


ひび。


「後悔」


滴。


「恨み」


黒く、重い。


「流し込む」


金色の箱へ。


負の記録が液体のように浸透する。


ヒヒイロカネが震える。


守護神の傾きが反転する。


「生まれる」


立方体の輪郭。


だが歪む。


辺が泣く。


光が屈折する。


「輝くトラペゾヘドロンのフェイク。

歪んだ立方体」


内部で啜り泣く。


「啜り泣くプリズム――The Weeping Prism」


星の名が砕ける。


「エリスなどという矮小な名ではない」


低く。


「本来の名へ」


囁き。


「凶星ユゴス。ヨグソトースの庭」


その単語だけが、宇宙に反響する。


闇が呼吸する。


「守らせる」

脈動。


「揺らす」

ひび割れ。


「後悔させる」

濁り。


「怒りを飲み込ませる」

結晶化。


奈良は首を傾ける。


「崩れるかな?

それとも祈るかな?」


どちらでもいい。


「崩れても美しい。

祈っても美しい」


静かに。


「絶望はね」


奈良は、ゆっくりと首を傾ける。


「押し付けられるより、自分で選んだほうが、美味しい」


甘い声。


だが、その奥には計算しかない。


一瞬、ほんのわずかに目を細める。


「本当はね――」


奈良は、肩をすくめた。


「片桐一葉と“トモダチ”になりたかったんだ」


楽しそうに笑う。


「でも、仕方ない」


軽く息をつく。


「あの子の“狂気的な善”は、イレギュラーすぎる」


指先で、空をなぞる。


「だからダメだ」


奈良の笑みは消えない。


「ああいう“狂気的な善”はね……」


一拍。


「いつか、必ず英雄になる」


視線が、遠くを見た。


「そうなると、手に負えない」


間。


「だから――彼女の“影”と仲良くするよ」


プリズムの内部が、淡く明滅する。


光ではない。


未定義の可能性。


そこに、青年の輪郭が浮かぶ。


田中 恒一。


まだ何も知らない。


まだ何も選んでいない。


だが――選ばせる。


奈良は、影に指を伸ばす。


触れない。


触れないが、撫でる。


「守りたかった世界を」


優しく、囁く。


「君の意見を尊重しないで、破滅に導いてあげる」


軽やか。


残酷。


「君の守りたい“ニンゲン”を使ってね」


影が濃くなる。


「新しい僕の“トモダチ”――田中くん」


金色の箱が、ゆっくりと歪む。


内部に流れ込む記録。


浮雲平輔の敗北。


失敗。


祈り。


そして、飲み込まれなかった怒り。


それらが式を組む。


守護神 + 後悔 + 選ばされた善意


= 逆転。


浮雲平輔が“壊す箱”になる。


田中が、それを“正しいと思って”使う。


奈良は、恍惚と目を細める。


「最高だ」


闇が、ゆっくりと閉じる。


観測不能。


干渉不能。


世界は、何も知らない。


ただ、どこかで、


まだ生まれていない絶望の振動だけが、


静かに、長く、残った。

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