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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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114 2026年5月13日(水)_03 山形ロボの中の箱大仏さま

艦内士官区画。

消灯時間はとうに過ぎている。


薄暗い個室の中、

今田の端末だけが静かに光っていた。


拡張機能を重ねた3Dソフトの画面。

ポリゴンのワイヤーフレームが、無機質に並ぶ。


カチ、カチ、と

小さなキーボード音。


誰もいない。


いや。


正確には、

誰にも見せていない。



---


多分、あのポンコツ先輩は。


口では「無理しませんよ〜」とか言いながら、

有事になった瞬間、

誰より先にコックピットへ向かう。


観察日記。


今田の端末内、暗号化フォルダ。


そこに手書きノートを撮影し記録された“片桐一葉”という人間。


・方向音痴。

・酔うと面倒くさくなる。

・数字には強いはずなのに金銭感覚が壊滅的。

・要領が悪い。

・箸の持ち方が怪しい。

・無駄に謝る。


だが。


文翔館で道を聞かれれば、

急いでいても足を止める。


泣いている子供がいれば、

しゃがんで目線を合わせる。


怪異だとわかっていても、

襲われる人の前に立つ。


どこにでもいそうで。


決して、どこにでもいない。


弱い。


おっちょこちょい。


だけど、折れない。


――せいぎのみかた。


今田は、目を閉じる。


同期率95%。


“専属化”。


依存。


このままでは。


山形ロボが、彼女を“最適解”に固定する。


固定とは何か。


代替不能。


切り離し不能。


それはつまり。


機体が、彼女を“連れていく”可能性。


“あっち”へ。


神側へ。



---


だから、決めた。


観測班三人で。


児島室長に説明し、

早川にだけは、正直に話した。


怒られるかと思った。


だが早川は、静かに言った。


「……ありがとう、娘を頼む」



---


目的はひとつ。


山形ロボに、逆向きの出力を持たせること。


入力だけの機体は、操縦者を吸い込む。


ならば。


出力させる。


意思を。


対話を。


拒否を。


《Guardian Output – Hitoha Lock》


前代未聞。


都道府県防衛ロボに

“対話層”を追加する。



---


武田がアルゴリズムを書いた。


槌谷が位相干渉を安全域へ落とし込んだ。


今田は、黙ってモデリング画面を開いた。


これだけは、自分しかできない。


ずっと隠してきた趣味。


フォルダ名を

“仕事用_資料”に偽装していたあの3Dデータ群。


まさか。


国家機密級の防衛機構に

デフォルメキャラを実装する日が来るとは。


「……笑われますよね」


小さく呟きながら。


ポリゴンを削る。


角を丸める。


箱型の、少し寸詰まりなフォルム。


目は丸く。


眉は、ほんの少し下げる。


怒らない顔。


責めない顔。


けれど。


否定できる顔。



---


これは神ではない。


これは兵器でもない。


これは。


山形ロボが

“片桐一葉以外の選択肢を持つための楔”。


機体が最適化しすぎたとき。


操縦者を過剰に守ろうとしたとき。


無理な出力を要求したとき。


逆に。


“拒否”できる回路。


「それは、あなたを壊します」


と、言える存在。



---


今田の指が止まる。


完成。


小さな、箱のマスコット。


ちょこんと浮かぶ、簡易ホログラム。


甲板、厳重に固定された山形ロボのコクピットハッチを観測班三人の連名管理者権限で開け、

優先でのデータ送信。


山形ロボの制御層へ、慎重に組み込む。


警告ログなし。


干渉なし。


静かに。


層が一枚、増える。



---


画面に、小さなウィンドウが開く。


《Guardian Output 起動テスト》


……。


一瞬のノイズ。


そして。


幼児のような音声


> おはようございます


三人は、息を止める。


機械的ではない。


だが感情でもない。


中間。


優しい中立。


今田が、震える指で打つ。


「目的は?」


数秒の静止。


> まもること


武田が問う。


「誰を?」


沈黙。


わずかな演算波形。


> ひと と まち


槌谷が、さらに打つ。


「片桐一葉は?」


演算。


ほんのわずか、遅れる。


> たいせつ


三人は顔を見合わせる。


これでいい。


これ以上は、いらない。



---


今田は、昇降用の簡易エレベーターのステーを強く握りしめながら、

深く息を吐く。


「……これが、良心です」


山形ロボは、どんなに言葉でごまかそうが兵器だ。


だが。


兵器のままでは、彼女を守れない。


だから。


良心を、実装した。


善意が、暴走しないように。


守護神が、神にならないように。


誰かを守るために

誰かを奪わないように。



---


艦外。


夜の海。


山形ロボは静かに四つん這いになっている。


内部の制御層に。


小さな箱のマスコットが、浮かぶ。


まだ幼い微かな意志。


だが確かに存在する。


それは。


山形ロボの、

はじめての“良心”だった。

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