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超板金 山形ロボ ―ロボットがランドマークになった街で、怪異が目を覚ます―  作者: bobson3b


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106/200

105 2026年5月11日(月)_05 うぇるかむとーざ・ディストピア

というわけで、夕食時。


護衛艦の食堂。

いわゆる“科員食堂”。


ステンレスのテーブル。

床は防滑仕様。

壁には当直配置表と、整然と貼られた注意書き。


今日のメニューは、


焼きサバ

ほうれん草のお浸し

スタミナ納豆


……スタミナ納豆?


「山形県民なめるな!?」

と一瞬思って、メモ魔・今田くんに小声で聞いた。


「鳥取県の郷土料理らしいです」


即答。

ありがとう今田。ウィキペディアの称号を与えよう。誇るがいい。


肉と、にんにくと、何やら香味野菜。

タバスコが入っているらしい。


ひと口。


ウマ。


ご飯が進む。

これは危険物だ。


周囲を見る。


児島さんの箸の使い方が、異様に綺麗だ。

静かで、無駄がない。


武田・今田・槌谷トリオも整っている。

所作が揃っているというか、揺れがない。


……あれ?


お父さんも、そういえば綺麗。


やばい。


グーで持ってるの、私ぐらいかもしれない。


いや待て。

天然成分強めの55歳児(浮雲)なら、

私より子どもっぽい可能性も――


ちらり。


浮雲さん。


……整っている。


完璧に整っている。


あー。


私が焦り散らかしているのを見て、

児島さんが箸を置いた。


「お箸ね。

浮雲と武田さん、今田さん、槌谷さんは自衛隊出身。

防衛大ではかなり厳しく指導されるはずよ」


淡々。


「私は警察出身。警察学校で指導されたわ。

早川は消防出身、確かそういうのあったはず。

整備班も前歴がそういう人が多いからね」


そして視線が、父親へ。


「……ねぇ早川、綾って、箸の持ち方教えなかったの?」


最後のほう、ちょっと悲しい顔。


硬直する父親。


フォローなし。


あとで小遣いせびろう。うん。


「……いいわ、片桐さん。

箸はゆっくり覚えましょう。焦る必要ないわ」


360度、全方向からの同情の目。


艦内の蛍光灯がやけに白い。


居た堪れない。


――――――――――――――


祝。

私、個室。


護衛艦の士官区画。

小さいけど、ちゃんと扉が閉まる。


いらっしゃい、プライバシー。

さようなら、父親が送ってきた“箸のマナーサイトリンク”。


……と思ったら。


私用スマホ、児島さんに没収。


くいっと親指で壁を指す。


【これより先、携帯情報端末持込禁止区域】


おかえり、管理社会ディストピア。


代わりに渡されたのは、

指令室用のタブレット。


文翔館地下サーバーとは接続できる。

でも外部回線はゲート経由のみ。


アプリ不可。

YouTube不可。

ネトフリ不可。


繋がるサイト、ほぼ無い。


「AIは使えますよ」

と今田くんは言っていた。


確かに便利。

死ぬほど便利。


でも娯楽は、死ぬほど無い。


無言で父親が紙袋を差し出す。


中身。


『鋼の錬金術師』

『うしおととら』


ぎっしり。


「あー、まだ読んだことない。

サンキューマイファザー」


艦は静かに揺れている。

どこか遠くで、タービンの低い振動。


金属の壁越しに、海の音。


ネットは無い。

動画も無い。


でも、


漫画はある。

風呂は時間制。

消灯は22時。


そして私は、

明日も山形ロボを動かす。


---


個室区画。


消灯時間は過ぎている。

だが、今回は特例許可が出ている。


武田、今田、槌谷。

三人は士官区画の簡易作業卓に並び、

タブレット端末へキーボードアダプタを接続し、

無言でタイピングを続けている。


カチ、カチ、カチ、カチ。


規則正しいが、速い。

護衛艦の低い振動音と混ざり合う。


紙コップのコーヒーは、もう冷めている。

誰も気にしない。


接続先――


文翔館地下50メートル。

山形ロボドック指令室サーバー。


外部回線は閉じている。

艦内の閉域ネットワークから、

暗号化トンネルを経由して、

地下のメインフレームへ。


画面に表示されているのは、


【多層位相制御フィールド】


汎用バリア。通称MPCF。

正式名称はMulti-Phase Containment Fieldというが、誰もフルで呼ばない。


しかも、1999年。

冥王星軌道決戦向けに調整された、

長時間防御特化仕様。


それを今、

再設計している。


目的は――


日本海溝。

海底作業。


超高水圧環境。


水圧だけではない。

海底地磁気。

低温。

現地で再観測された位相歪み。

神性残滓。


すべてを想定値に織り込む。


AIは補助している。

最適解候補を瞬時に提示し、

パラメータの危険域を赤く示す。


だが、最終判断は人間だ。


閾値の微調整。

冗長回路の切り替え。

暴走時のフェイルセーフ。


もし、この設定が不全を起こせば――


山形ロボは耐えきれない。


いや。


あの愛すべきポンコツ先輩、

片桐一葉が、死ぬ。


三人の視線が、一瞬だけ交わる。


誰も言葉にしない。


キーボードの音が、さらに速くなる。


カチカチカチカチカチ。


武田が数式を走らせ、

今田がログを整理し、

槌谷が位相補正の微差を潰していく。


ここ数日の不眠。

艦内の短い仮眠。

冷めたコーヒー。

無言の連携。


ラストスパート。


艦は夜の海を進む。

外は闇。

内は白い光。


地下50メートルのサーバー室では、

真新しい冷却装置が唸っている。



カチ。


エンターキーが押される。


「……仮組み完了」


まだ終わっていない。

だが、一歩前進。


三人は、同時に深く息を吐いた。


誰も寝ない。

終わるまでは。




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