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012 かっぺいちゃんとくろうーとしろうー

評価、ブクマ、ありがとうございます。

 楽しそうにお喋りをする女子の後ろをまるで背後霊のように着いて行けば、たどり着いたのは学校からほど近いところにあるゲームセンター。


 他の高校も近いためか、このゲームセンターには鹿嶋田高校以外の高校生の姿も多く見られる。


「あ、これこれ!」


 一人の女子生徒がとある筐体の前に立つ。


 そこには、かなりゆるくデフォルメされた河童のぬいぐるみが入っていた。


「これが欲しいんだよ~」


 言って、柊を見る女子生徒。


 欲しいんだよ=取れ、という事である。


「……言っておくけど、必ず取れるとは限らないから」


「分かってるって~」


 一つ忠告をした後、柊は筐体の前に立つ。


 そもそも、こういうのはゲームセンターのスタッフに言えば取ってくれるものだ。別に、柊が頑張る必要の無い事なのだ。


 しかし、そんな事が許されそうな雰囲気でもない。


 柊は渋々お金を入れて、ゲームを始める。


 実際にやった事は少ないけれど、こういうクレーンゲームはアームが弱く調節されている。五百円は確実に出費するだろうと覚悟を決める。


 誰も何も言わず、クレーンを眺める。


「かっぺいちゃん取れるかな~?」


「さぁ……」


 この河童、かっぺいちゃんって言うのかと思いながら、曖昧に返事をする。


 アームはかっぺいちゃんの上で止まり、ぴろぴろと軽快な音楽を鳴らしながら落ちてくる。


 三本の爪がむんずとかっぺいちゃんの頭を掴む。


 ぴろぴろと音楽を奏でながら、アームが上がっていく。


 皆でアームの行方を見守る。


 アームはがっしりとかっぺいちゃんを掴んで、安定して運べているように見えたけれど、やはりアームが弱く設定されているようでアームから落ちてしまう。


「あー……」


 がっかりしたような女子生徒の声。


 しかし、落ちたところが良かったのだろう。アームから逃れたかっぺいちゃんは筒状に伸びた穴の縁に当たって運よく穴の中へと落ちる。


「おおっ! 取れたぁ!」


 女子生徒は嬉しそうに声を上げ、取り出し口からかっぺいちゃんを取り出す。


「やったぁ~!」


 わーいとかっぺいちゃんを抱きしめ、嬉しそうに微笑む女子生徒。


「良かったじゃない」


「うん! ありがと! えっと……」


 名前が分からないのか、お礼の後に言いよどむ女子生徒。


 安心しろ。俺だってお前の名前を知らない。


「ありがとう、若麻績。やっぱり呼んでよかった」


「そう、若麻績くん! ありがとう!」


「いや、別に……」


 狙って取れた訳では無い。たまたま取れただけだ。そんなに喜ばれる事でもない。


 しかし、これはチャンスだ。柊の役割は彼女の欲しい物を取る事。それが終わったのなら、柊はもう帰っていいはずだ。


「あ、じゃあ俺もう帰――」


「それじゃあせっかくだし他のも見てみようか」


 柊の言葉を遮って、麗は女子達にそう提案する。


 女子達が麗の言葉に反対する訳もなく、麗が歩みを進める方に着いて行く。


「っても……良いはずなんだけどなぁ……」


 今、麗は意図的に柊の言葉を遮った。


 それは柊にも分かった。何せ、麗は人の話を遮るという事を嫌う。


 たまたま被ってしまったりすることはあるけれど、その時は被ってしまった相手を優先させる。今回みたいに、食い気味に言葉を被せてくる事は殆どないと言ってもいい。


 それは、見ていても、実際に話してみても分かる事だ。


 そんな麗が柊の言葉を遮った。という事はつまり、麗には何か狙いがあるはずだ。


 しかし、麗の狙いが分からない。何を目的として柊を帰さないようにしているのか、思い当たる節さえない。


 ここで帰ってしまうのは簡単だけれど、後で恨み言を言われたり、空気読めないなど陰口を言われても面倒だ。何度も言うけれど、柊は平穏に学校生活を送りたい。そのためには、目立つような事は控えるべきなのだ。


 渋々、柊は一行の後に続く。


 と言っても柊は少し離れたところで一行が見た後の筐体の中身を眺めるだけだ。


 女子の中に割って入る度胸も無いし、そんな事をする必要性も感じられない。呼ばれたら行けば良いし、呼ばれなかったらそのままで良い。


 そんな心持ちで背後霊の如く女子達の後に続いていると、麗の視線がとある筐体に向けられている事に気付く。


 そこには、可愛い服を着た白兎と黒兎のぬいぐるみが入っていた。


 その兎のぬいぐるみを見て、柊の中で全てが繋がった。


「なるほど……」


 呆れたような、感心したような、そんな気分になる。


 柊は一行から離れて、白と黒の兎のぬいぐるみがある筐体へと向かう。


 つまり、麗の目的は最初からこれだったのだ。


 このぬいぐるみがゲームセンターにある事を知っていた。けれど、クレーンゲームに自信が無い。そのため、ゲームが好きな知り合いである柊の存在に思い至り、この場所に半ば無理矢理連れてきたのだろう。


 全ては、この白黒うさぎが欲しいがために。


 協力すると言ったけれど、こういう所で協力させられるとは思わなかった。しかも、こういう形を取って来るとも思ってなかった。


 取ってきて欲しいとお願いされれば嫌々だろうと取りに行っただろう。なにせ、協力をすると言ったのだから。それに、こういう誰かと関わらない感じの協力であれば比較的素直に受けよう。一人でゲームセンターに行けば、麗とのつながりがバレる心配が無い。可愛いぬいぐるみと麗を結び付けるような者もいないだろう。


 今回みたいに半ば強引に連れてこなくたって、連絡先を交換しているのだからメッセージ一つ飛ばせば良いだけの話なのだ。


 まぁ、律義な麗の事だ。大方、一人で行かせるのは申し訳無いとでも思ったのだろう。そのために、無理矢理放課後に誘ったのだろう。


 そう納得して、柊は筐体に百円を入れる。


 クレーンを動かしてまずは白兎から取ろうと奮戦する。


 が、やはりさっきのはビギナーズラックだったのだろう。それか、単純に運が良かったか。


 弱く設定されているアームは兎を持ち上げる事は出来ても、穴までは運んでくれず、クレーンが上がって少し動いただけで掴んだ白兎を落としてしまう。


「む……」


 これは一筋縄ではいかないと分かった柊は五百円を投入する。この筐体では五百円を入れれば一回多く出来る仕様になっている。簡単に取れないのであれば、一回でも機会を多くするのが効率的だろう。


 しかし、やはりアームが弱く、何度掴んでも何度も落としてしまう。


「むっず……」


 あっという間に六回分が終わってしまう。


 柊は財布から五百円玉を出して投入する。


 今度も六回。しかし、柊もただ落としていただけではない。


 アームの挙動や、どこをどう掴めばどう落ちるのかを良く見ていた。


 一回目と二回目で白兎を落として場所を調整し、三回目で上手く落として白兎は穴に落ちる。


「よしっ」


 思わず、一人でガッツポーズをする。


 落ちた白兎をすかすかのリュックの中に仕舞って、今度は黒兎に挑戦する。


 要領は掴んだ。後は上手く誘導すれば良いだけだ。


「おー、若ちゃんみっけー!」


「おわっ!?」


 耳元で急に大声を出され、思わず身体を震わせてしまう。その反動で誤ってボタンを押してしまい、クレーンは見当違いのところを掴んでしまう。


 望まぬ結果になったクレーンを見て、思わず恨めし気な視線を声の主に向ける。が、そこには柊の名を呼んだ女子以外の他の女子達も居て、思わず視線を逸らしてしまう。いや、一人だったら目を合わせられた訳でも無いけれど。


「あー! これくろうー(・・・・)じゃーん!」


「ほんとだ。え、若くんこれ好きなの?」


「え、いや、別に……」


 女子達は柊の周囲を囲み、くろうーと呼ばれた黒兎のぬいぐるみを眺める。


 周囲を女子に囲まれるというある種危機的状況に緊張しながら、柊は上手くクレーンを動かす。


「このくろうー、今すっごい人気なんだよー?」


「へ、へぇ……」


「転売目的で取る人も多いって聞くね。……まさか、若くん……」


「え、違っ……! 俺は普通にこれが欲しくて!!」


 転売ヤーだと疑われ、上ずった声で反論をする若麻績。


「へー、若くんってこういうの好きなんだ」


 言って、一人の女子が柊の身なりを観察する。


「ごめん、隠してた?」


「や、別に……」


「そ? なら良かった」


 柊のリュックなどにくろうーのグッズが無いのを見て、くろうー好きを隠していたと思われたようだ。


 しかし、別段隠している訳でも無いし、くろうーが好きな訳でも無い。


 柊は特に気にした様子も無く筐体に視線を向ける。


 ていうか、若くんって……。


 今更ながら渾名っぽい呼び名が付けられている事に気付くけれど、その呼び名に実害がある訳でも無い。少しすれば忘れてくれることだろう。と、思ったけれど、最初に柊を呼んだのは先週に柊がプリントを写させた女子生徒だという事に気付いた。彼女が若ちゃんと呼び始めた張本人なので、もしかしたら定着してしまっているかもしれない。


 まぁ、どうでも良い。関わるのなんて今日くらいだろう。裏でどう呼ばれようが気にする事は無い。悪口だったら、ちょっと気にするけれど。


 女子に囲まれながらも、柊はくろうーの頭をクレーンで鷲掴みにする。


 ちらりと女子達の顔を見るけれど、この中に麗の姿は無い。そう言えば、女子の数も少ない。今柊の周りにいるのは三人だけだ。


 どこに居るのか気にはなったけれど、問いかける勇気も無いので、柊は無言でゲームを続ける。


 一度失敗してから四回目のチャレンジで、ようやくくろうーを獲得する事が出来た。


「ふぅ……」


 お金を全て使う事無くぬいぐるみ二つを獲得する事が出来、柊は思わず安堵の息を漏らす。


 取れたくろうーは白兎と一緒にリュックに入れる。


「おおっ! しろうーまで取っていたとは!」


「本当に得意なんだね」


「や、別に、そんなには……」


 素直に褒められて思わず照れてしまう柊は、くろうーと白兎――案の定しろうーだった――をすかすかのリュックにしまう。


 これで、ミッションコンプリートだ。


「ねぇねぇ若ちゃん! あっちにしろうーストラップあったから取って!」


「え」


「あ、私もくろうー欲しい」


「ウチも」


 もうぬいぐるみは取り終わったから何もする気は無かったのだけれど、女子三人に流されるままに別の筐体へと(いざな)われてしまった。


 結局、女子三人分のしろうーくろうーストラップを取るまで終わらず、残ったお金にも手を出す事になってしまった。


 ……ていうか、金は俺持ちかよ……。


 随分と薄くなった財布を見て、柊はもう二度と女子とは一緒に来ないと決めた。


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