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011 友達なんかじゃない

「なぁ、ゴールデンウィークどうするー?」


「女子誘って遊園地でも行くか?」


「おおっ! 良いねぇ! で、当てはあんのか?」


「ある訳ねぇだろ」


「なら言うなよ! ぬか喜びしたわ!」


 わいわいと楽しそうに話す男子達。


「えー! すーちん彼氏とデートなの?!」


「しーっ! 声でかいよ!」


「マジで? すーちんもう彼ぴっぴ作ったのかぁ……」


「もうっていうか、ずっとっていうか……」


「え、何々? 中学から付き合ってるの?」


「うん。一応……」


「あーうらやましー。アタシも彼ぴほぴー」


 (かしま)しとお喋りに興じる女子達。


 四月も終わりに差し掛かり、迫り来る大型連休(ゴールデンウィーク)。高校生活で初めての連休という事もあって、クラスメイト達はいくらか浮足立っている。


 誰も彼も、連休中の予定をどうするかを考えながら、楽しそうにお喋りをしている。


 柊はというと、いつも通りイヤホンを付けてソーシャルゲームに精を出している。


 ゴールデンウィークの予定など特に無い。遊ぶ友達もいなければ、特に部活にも入っている訳では無いので、合宿や練習だってない。


 家でのんびりと休日を謳歌(おうか)するだけだ。


 連休中に今やっているゲームもクリアしたい所存。溜まっているラノベも読みたい。予定は無くたって、やりたい事は山のようにあるのだ。


 浮足立っているのはクラスメイトだけではなく、柊も同じだった。


 連休早く来ないかな、なんて毎日思っている。今日だって早く終われば良いと思っている。


 早く学校終わんないかなーと思っていると、不意に肩をとんとんっと叩かれる。


 学校内で自分に用がある人間がいると思っていなかった柊は、びくっと肩を震わせる。


 叩かれた方を向けば、そこには申し訳なさそうな顔をした麗が立っていた。


「は?」


 思わず、そんな素っ頓狂な声が出てしまう。


「すまない。ちょっと……」


 声を出した後、柊の耳にイヤホンが付けられている事に気付いた麗は、柊のイヤホンを外してから続きを話す。


「ちょっと、良いだろうか?」


「あ、ああ……」


 麗に差し出されたイヤホンを受け取りながら、柊は頷く。


 しかし、脳内はどうしてといった疑問で埋め尽くされている。


「今日の放課後は暇だろうか?」


「暇だけど……いや、暇じゃない。忙しい。今日は帰ってやることがあるんだ」


「今暇って言ったね? なら、放課後付き合って欲しいところがあるんだ」


「忙しいって言ったろ。放課後は家に帰るよ」


「部活もやってないんだろう? なら良いじゃないか」


「良くない。どうせろくな事じゃ無いだろ」


「ただ遊びに行くだけだよ。変な事にはならない」


()だよ。陽キャの遊びに俺がついていける訳無いだろ。ボーリング行ってカラオケ行って最後はクラブで踊りあかすんだろ? ()だよ。絶対()だ」


「ボーリングとカラオケとかは行くけど、最後のは君の偏見だと思うな……」


 呆れたような顔をする麗。


 流石にクラブは違ったかと少し恥ずかしくなるも、それを押し殺して柊は言う。


「とにかく嫌だ。俺は帰ってゲームをするんだ」


「そこを何とか頼むよ。それに、帰らなくたってゲームは出来る」


「遊びに行った先で俺だけスマホでゲームしてろって? それなら普通に家に帰してくれよ」


「違う違う。私達の行く先がゲームセンターなんだ。ゲームなら、そこでも出来るだろ?」


「ゲーセンに俺のやりたいゲームは無いんだよ」


 柊はゲームセンターで遊ぶよりも家でゲームをする方が好きなのだ。ゲームセンターに自身の遊びたい筐体(きょうたい)があるのであれば良いけれど、そうでないのであれば断固として拒否する。


「行けば有るかもしれないだろ? 頼むよ。クレーンゲームが得意な友人(・・)を君しか知らないんだ」


「は?」


 その言葉を聞いて、思わず少しだけ怒気の籠った声で返してしまう。


 苛立った柊の声に気付いたのか、麗は何かいけない事を言ってしまったのかと思い口を(つぐ)んでしまう。


 それは、麗にとっては何気ない言葉。けれど、柊にとっては気軽に言ってほしくの無い言葉だ。


「俺とお前が――」


 言いかけ、慌てて言葉を止める。


 ふと我に返れば、クラスの音が小さくなっている事に気付く。


 クラスメイト達は会話をしてはいるものの、その視線は興味あり気に麗と柊に向けられている。


 それはそうだろう。クラスの冴えない男子とクラスの人気者の女子が話をしていれば、自然と注目を集めてしまう。二人の関係を探って視線を向けるのも致し方ない事だ。


 だが、これは非常によろしくない。


「……分かった、行くよ」


「ほ、本当か?」


「ああ」


 頷き、話は終わりだとばかりに柊はイヤホンを耳につけてソシャゲの続きをする。


 これ以上話をしたくないという柊の意思が伝わったのだろう。麗はありがとうと言ってから自身のグループへと戻って行った。


 その姿をちらりと見やってから、直ぐにスマホに視線を落とす。


 正直な事を言えば、柊は苛立っていた。


 柊は麗との関係をあの部屋の外へと持ち出すつもりは無かった。そこは、ちゃんと自分の中で線引きをした。


 それを、柊は麗に説明をしていなかった。これ以上の手助けは出来ないとは言ったけれど、外では話しかけないでくれとは、言わなかった。


 それは、柊が悪いだろう。自己完結で終わらせてしまった。本当に嫌なら、麗にも言っておくべきだった。


 だから、今回の事は柊が悪い。あの空間の延長で話かけてきた麗は悪く無い。驚きのあまり普通に言葉を返してしまった柊が悪い。自分の方で線引きをしたのなら、それを徹底するべきだったのだ。


 放課後付き合うと言ったのは、そう言う事があの場を乗り切る手段として手っ取り早かったからだ。本当なら、家に帰ってゲームをしたい。


「はぁ……」


 深く溜息を吐く。


 徹底しなかった事もそうだけれど、とある単語に苛立ちのままに反応してしまった事も悔やまれる。


 少しでも平静を装っていれば、まだ上手く断る事が出来ただろう。


 けれど、柊にとって、あの言葉はそう簡単に口にして欲しい言葉では無かった。とりわけ、自分と他人の関係を形容する時には、特に。


 友人なんて、一人で充分だ……。


 出会ってまだ一月も経っていない。そんな人間が友人な訳がない。


そんな軽々しく使っていい言葉でもない。少なくとも、柊はそう思っている。


「俺とお前は友達なんかじゃないよ……」


 誰に言うでも無く、柊はぼそりとこぼす。


 ただのクラスメイト。ただの共犯者。二人の関係なんて、その程度だ。それ以上でも、それ以下でもない。


 それ以上になるつもりも毛頭無い。


 無い、はずなんだ。


 どうせ麗だって、気が済めば柊と関りあう事なんてしないだろう。どうにか自分で解決策を見出して、さっさと柊から離れて行くに決まっている。


 完全無欠の王子様なんだ。それくらい簡単だろう。


 そこから先の日々を麗と話している自分が想像できない。そう、現状が異常なのだ。


 その先が無いなら、今だけの関係なら、仲良くする必要だって無い。


 そう思うのに、それが分かっているのに、何故だか胸がもやもやした。



 〇 〇 〇



 胸のもやもやは取れないまま、放課後になった。


 掃除が終わり、昇降口に向かえばそこには人垣が出来ていた。


 その中心は一目見ただけで分かる。佐倉麗だ。


 麗は女子にしては長身なので、周囲の女子達に囲まれても外からその顔を拝む事が出来る。


 麗を見る事が出来るという事はつまり、麗も柊を見る事が出来るという事と同義だ。


「ごめん、また後でね」


 涼やかな笑みを浮かべて女子達に言えば、それに逆らう女子が居るはずも無く、麗はあっと言う間に人垣の中から出る事が出来た。


 そのまま女子にお持ち帰りされてしまえと思っていたけれど、どうやらそう簡単に麗からは逃げられないらしい。


 が、数名の女子が麗の後に続いている事に気付く。


 諦めきれない女子だろうかと思ったけれど、どうやらそうではないらしい。


「急に誘ってごめん。この子が、どうしても欲しいぬいぐるみがあるって言うからさ。私、クレーンゲームとか得意じゃないんだ」


 言って、麗は隣に立つ女子生徒の肩に手を置く。


 なぜにゲームセンターに誘われたのかと思えば、どうやらこの女子生徒のぬいぐるみを柊に取ってほしかったようだ。


 女子達から品定めするような視線を気にしないように努めながら、柊は麗に言う。


「いや、俺もクレーンゲーム得意じゃ無いんだけど……」


「物は試しだよ。それに、私は君以外にゲームが得意な友人を知らないんだ」


 再び麗の口から出てきた言葉に思わず反応してしまいそうになるけれど、人の目がある手前ぐっとこらえる。


 代わりの言葉を口にしようとしたその時、柊では無く他の女子が麗に訊ねる。


「王子と友達なの?」


「ああ。最近友人になったんだ」


「へー」


 じっと、品定めをするような視線。


 友達じゃない。ただのクラスメイトだ。そう主張したいのは山々だけれど、そう主張してしまった場合、女子達から反感を買うのは目に見えている。


 ゲームセンターに行く事は決定してしまっている。であれば、黙って事が進むのを待つのが賢い選択だ。


「じゃあ、時間ももったいないし行こうか」


 麗がそう言えば、女子達は口々に返事をする。


 柊は麗達の少し後ろを渋々着いて行く。


 楽しそうにお喋りをする麗を見て思う。


 今回の事、柊になんて頼まなくても良かったはずだ。


 他の男子に頼めば、女子に良い顔をしたい男子はほいほいと着いて行った事だろう。


 麗は恋人ではなくアイドル。そう理解している男子も少なくない。実際、彼氏持ちの女子が麗を見てきゃーきゃーと騒いでいる。


 彼女達にとって麗は恋愛対象ではない。テレビの向こう側よりも身近に存在するアイドルなのだ。


 それに、麗だって男子と会話をしない訳では無い。


 柊をサッカーに誘ったイケメンと会話をしているところを見た事があるし、他の男子とも談笑をしている姿を見た事がある。


 なのに、なんであえて柊を選んだのか、それが分からない。


 ……いや、それを知る必要も無いだろう。後で今日みたいな事は止めてくれと釘を差せば良いだけだなのだから。だから、気にしなくて良い。きっと、ただの気まぐれに決まっているのだから。


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