グラーニアの禁戒(ゲサ)
ディルムッド・ウア・ドゥヴネは、フィアナ屈指の戦士であった。幼い日、神アンガス・オーグの館ブルー・ナ・ボーニャに養われた。
彼の額には、一つの印があった。
「愛の斑点」を意味する、ball seirceである。これを目にした女は、誰もが彼に恋をした。
その印は、猟の帰りに一軒の小屋に泊まった夜、その家の若い娘が、彼の額に残したものだという。以来、ディルムッドは帽子を目深にかぶり、額の印を隠して過ごした。
フィンは老いていた。
妻マイグネスを亡くし、独り身であった。フィンは、上王コーマック・マク・アルトの娘、グラーニアこそ最もふさわしい妻であると進言した。話はまとまり、婚礼の宴がタラで開かれた。
グラーニアは、宴席に座る夫となる男を見た。彼は、彼女の父より年上であった。
彼女は、傍らのドルイドに、居並ぶ戦士たちの名を問うた。ドルイドは、一人ずつ名を挙げた。ディルムッドの名に至ったとき、彼はこう付け加えた。世界で最も、女に愛される男であると。
宴の途中で、犬たちが争い始めた。
戦士たちが引き離しに立った。ディルムッドが犬を分けようと身を屈めたとき、彼の帽子が落ちた。
グラーニアは、その顔を見た。印を見た。彼女の心は、もう戻らなかった。
彼女は、給仕の者に命じて、酒に眠り薬を仕込ませた。杯が回るにつれ、人々は次々と眠りに落ちた。王も、フィンも、宮廷の者も。眠らずにいたのは、ごく数人の戦士だけであった。
グラーニアは、ディルムッドの前に進み出た。
「私は、あなたに禁戒を課します。私を連れて、今夜、ここを出なさい」
ディルムッドは、拒んだ。
彼にとってフィンは、長年戦場を共にした主君であった。だがグラーニアは、退かなかった。
「私は、小門をくぐってはならぬという禁戒も負っている」
と、ディルムッドは言った。
グラーニアは、
「フィアナの戦士は、槍を棒代わりにして、柵を跳び越えられると聞きます」
と逃げ道を塞ぐ。
ディルムッドは、オシーンとオスカル、カイルテらに助言を求めた。
彼らは皆、グラーニアの課した禁戒を守るよう勧めた。何故なら、禁戒を破る者は、名を失うからである。
ディルムッドは、涙とともに彼らに別れを告げた。
彼は槍を柵にかけ、跳んだ。グラーニアが、その後に続いた。
二人は、夜のうちにタラを出た。




