鹿の妻
サヴァは、ダナーンの王ボドヴ・デルグの娘であったと伝えられる。出自には異説もあり、コン・ケードハタハの娘とする語りもある。
ある時、彼女に懸想した者があった。
「暗い男」を意味する名を持つ、ダナーンのドルイド、フェル・ドイリヒである。サヴァはその求愛を拒んだ。怒ったドルイドは、彼女を一頭の牝鹿に変えた。
以後三年、彼女は森を彷徨い続け、ドルイドの召使いの一人が鹿の姿の娘を哀れんだ。
「フィアナの砦に足を踏み入れなさい。そこでは、主人の力はあなたに及ばない」
鹿は、アルムへ向かった。フィンの砦の立つ丘である。
その日、フィンは狩りに出ていた。猟犬ブランとシュコランが、一頭の牝鹿を見つけた。だが二頭は、獲物に牙を剥かなかった。鹿の傍らに身を伏せ、その脚を舐めた。
二頭は、ただの犬ではなかった。
フィンの叔母トゥイレンが、妖精の女の呪いで犬の姿に変えられていた間に産んだ仔であり、人の魂を宿していた。
フィンにとっては従兄弟にあたる。その二頭が、鹿を人と見抜いたのである。
フィンは鹿を砦に連れ帰った。門をくぐった瞬間、鹿は一人の美しい女の姿に戻った。
二人は結ばれた。フィンは狩りをやめ、遠出をやめ、他の楽しみのすべてをやめて、ひたすら妻のそばにあった。やがてサヴァは身籠った。
そのころ、ヴァイキングの船団が海岸に上陸した。フィンは砦を離れ、フィアナ騎士団を率いて戦いに赴いた。
留守の砦の外に、ある朝、夫の姿が現れた。ブランとシュコランを従えた、フィンその人に見えた。サヴァは、夫の帰りを疑わなかった。彼女は門を駆け出た。
幻は、近づく前に崩れた。
そこに立っていたのは、フェル・ドイリヒであった。彼は榛の杖を振り上げ、サヴァを打った。彼女は、再び鹿となった。
戻ったフィンは、砦に妻の姿がないことを知った。彼は七年にわたって、彼女を探し続けた。見つけることは、できなかった。
それから7年後、フィアナは森で狩りをしていた。
犬たちが、一人の少年を見つけた。
野に育った様子の、幼い少年であった。
フィンは、その顔立ちを見つめた。サヴァの面影が、そこにあった。
フィンは、少年を我が子と認め、「小さな鹿」を意味する名オシーンを彼に与えた。後にこの少年は鹿に育てられたと語る。
オシーンはフィアナ随一の詩人となることになる。




