一頭の牡牛
舞台は、コナハトへ移る。
女王メイヴと、夫アリルは、ある夜、寝床で互いの財産を比べていた。
金、衣服、土地、家畜。数え上げていくと、ほとんどが等しかった。
ただ一つ、差を生む牛があった。牡牛フィンベナッハである。もとはメイヴの群れにいた牛だったが、いつしかアリルの所有となっていた。
メイヴは、この差を受け入れなかった。彼女は、自らの出自を語った。
「私の父は、上王エオホ・フェドレフだ。私は、もとより裕福な家の出だ。夫と対等であることは、当然のことだ」
差を埋めるため、メイヴはアルスターのクーリー地方にいる名牛、ドン・クーリンゲを求めた。
使者マク・ロスが、持ち主ダーリェ・マク・フィアクナのもとへ向かった。交渉は、一度はまとまりかけた。
だが酒席で、使者の一人が言葉を漏らした。
「もし最初から素直に貸さなければ、力ずくでも奪っただろうに」
ダーリェは、この言葉に態度を変えた。牛は渡されなかった。
夫婦の財産比べは、こうして国と国との戦争に変わった。メイヴは軍を集め、アルスターへと軍を進めた。
軍勢には、ファーガスもいた。デアドラの一件でアルスターを去って以来、彼はメイヴのもとに身を寄せていた。旧知の土地を知る彼は、道案内としてこの軍に加わった。
だが、彼の胸には、なお故郷への情が残っていた。道中、彼は幾度か、わざと遠回りの道を選んだ、と伝えられる。




