9. 肉体を構築する その2
『起きて。ねえ起きてよ』
「……何だ? さっき、おやすみって言ったばかりじゃん」
キンジに起こされる。眠りについたばかりなのに。
『何言ってるの。もう一か月は経ったわよ』
「え、嘘?」
一か月? 意識が落ちた直後、目覚めたはずだが……。
『高等教育の賜物ね。正確な知識が多かったから短期間で整合性が取れたわ』
「連邦航宙士学校首席卒業はだてじゃないぞ」
『はいはい。んで、あなたの体はコレね。レーシングカレッジ入学時の全身スキャンデータと同じよ』
三面図+透視図に僕の体が映される。三面図が好きだな、あんたら。
うん、金髪に白い肌、翠の瞳。いつもの僕の顔だ。細マッチョな体形もそのままだ。
「うーん、もっと目尻がシュっとしている方がかっこよくね?」
『ふーん、こんな感じ?』
キンジが修正してみせる。
何だよコレ、ストッキングをかぶった芸人かよ!
「ちーがーうー。ギャグかよ。センスないな、おまえ」
『フィー! もうこれで決定!』
「待った待った。元のままでいいから。これだけはやめてっ!」
『じゃあ、さっさと入りなさいよ』
「はーい……」
ふう、元に戻してくれた。あのストッキング顔で生きろってどんな懲罰だよ。
そして、目が覚めると思索の間にいた。煉獄刑を受けたときに入った、主観延伸チャンバーを嫌でも思い出させる形状だ。
すぐに、呼吸器やカテーテルが外されて自由になった。
「無事に意識を転送できたわね」
キンジがチャンバーに前足をかけて話しかけてくる。
「んん、あ。ろれつがまわりゃない」
「馴染めば大丈夫よ」
「フラッシュ様。無事の転送、おめでとうございます」
反対側にはアタラ大佐もいた。
「あり、ありが……とう」
「しばらく寝ていた方がいいわ。次に起きたら完調のはずよ」
「わ、かった……おや……すみ」
次の目覚めがやってきた。
何というか……絶好調!
チャンバーから出て立ち上がると体が軽い。まるで羽のようだ。
いやちょっと待て。この重力加速度、覚えがあるぞ?
あれだ! 戦闘機のシミュレーターだ。
コックピット内にかかる最大加速度が0.3Gくらいだったはずだ。それと同じだ。何で?
「おーい、キンジ、キンジはいるかー?」
「起きたのね。調子はどう?」
足元にキンジがいた。相変わらず平べったいな。踏まれるぞ?
「おー、絶好調よ! ところで重力弱くない? ここって0.3Gくらいでしょ?」
「そうよ、よく分かるわね。前哨基地でもある中枢構造体セガンタは0.31G、戦略遊星エヴェラントは0.18Gね」
「そんな低重力だと健康被害が出そう」
「それね。昔、低重力惑星の住民もたくさん救助して回ったから、そっちに合わせたのよ。三千年くらい前までは、個別に重力制御した区画に住み分けてたんだけどねー」
「問題でも起こったの?」
「うん、種族間の身体能力格差が軋轢を生んでね……。全球で統一しましょってなったの」
「高重力惑星の出身者もいたんじゃ?」
「最初は医療措置で対応していたけど、五世代もすれば低重力に適応しちゃったわ」
「ああ、それが戦闘員適性の話につながるのか」
「そうね。ジャーク最大で、せめて、3Gに耐えられたら戦術的に楽にもなるんだけどね」
「アジャイルクラフトドライバーは12Gに二十秒耐えられるのが条件の一つだよ」
「12Gで二十秒……。第七次元の生き物は化物ね」
「僕は、一瞬の衝突テストなら、90Gに耐えたことがあるよ。レーシングカレッジの記録に残ってるはず」
「もう訳が分からないわ……」
「戦闘機に重力場緩衝装置ついてたでしょ? あれで何とかならない?」
「重力場緩衝装置も反応速度に限界があるのよ。緩衝装置ありで8Gに耐えられるのなら、実際には数万Gで機動が可能になるわ」
「つまり僕が乗れば?」
「人工知性と同等の機動に耐えられるわね。あなた、本当に人間?」
「失敬な。レースドライバーは過酷な職業なの。みんな鍛えてるの!」
「鍛えてどうにかなるものなのね……。盲点だったわ」
「私も鍛えればお役に立てるのでしょうか?」
いつの間にかアタラ大佐が隣にいて、会話に参加してきた。
「なあ、キンジ。僕を作れるだけの科学力があるなら、大佐も改造できんじゃないの?」
「もちろん可能よ。でも倫理に反することは強要できない」
「閣下、私は改造を希望します」
「とりあえず、1Gに適応するように強化したらいいんじゃないの? 基本的に僕と同じだし。そこからは鍛錬だな」
「うーん、アタラちゃんが希望するならいいけど……」




