8. 肉体を構築する その1
「本当に未練は無い?」
そう問いかけたキンジの言葉をきっかけに、ここに来るまでの出来事を思い出していた。
せっかくだからキンジとアタラ大佐にも話しておこう。
アジャイルクラフトレースの、シリーズ第三戦で起こった事故から、冤罪を着せられるまでの話をじっくりと聞かせる。
そして、僕にとって宇宙機を駆ることもできない世界に未練など無いことも伝えた。
ちらりと二人の反応を見る。
アタラ大佐は目頭を押さえて嗚咽を漏らしていた。
うんうん、ひどい話だよね。僕も自分のことながら泣いちゃいそう。
だがキンジは……。
「ふーん、警告したのにしなかったって嘘ついたんだ。それ、虚偽陳述罪って言うんでしょ? あたし知ってる」
「そうだね……。僕は罪人だ。煉獄刑も当然だよ」
僕は天使の人差し指をすり合わせながらイジける。
「フラッシュ様、あなたは悪くありません。壬皇近侍閣下もそれくらいで……」
「アタラちゃんが言うならいいけどさ。それよりもあなたの意識を移し替える肉体を作らなきゃね。プライベートな部分に踏み込むけどいいわね?」
「ああ、もちろん。男前に作ってくれよな」
「じゃあ、アタラちゃん。もう一度、司令コンソールに接続して」
再び「パシュッ」と空気の抜けるような音がして浮遊感覚が襲う。ああ、またか……。一度で済ませろよ。
今度は僕も落ち着いている。アタラ大佐の胸に抱かれた感触を楽しむ余裕もある。でけーな、けしからん。
アタラ大佐と目が合う。背中に流している灰色の髪は地味だが顔立ちは整っている。美人さんだな。
「あ、この状態でも話せるんだ。どうなってんの?」
胴体が無くても普通に喋れる。不思議だ。
「人工知性のオーダーね。首が取れることと、首だけで喋れること」
「なにその拘り。人工知性さん頭ぶっ飛んでんな」
「人工知性さん、また睨んでるわよ。この子、怒らせたら怖いわよ? トイレ流そうとしたら水が出ないくらい怖いよ」
「なにそれこわい……」
「あの、接続してよろしいでしょうか……」
「あ、はい」
「ごめんね、アタラちゃん。つないじゃって」
ブラックアウトからの何も無い空間。すごいな、視覚も聴覚も無い。
『はーい、じゃ始めるわよ』
頭の中にキンジの声が響く。
「何すんの?」
キンジに返事をする意思を示すと形になった。
『あなたの記憶から体の構造を徹底的に調べる』
「僕、自分の体の構造とか知らんけど」
『識閾下の記憶も利用して整合を取るわ。例えば膵臓の構造はこんな感じね』
イメージが浮かぶ。へー、こんなんだったのか。オタマジャクシみたい。
「へー」
『地球の標準重力は9.80665メートル毎秒毎秒なのね。そんな高重力で苦しくないの?』
「地球で生まれたからね。それが普通」
『なるほどー。チーターは時速百キロメートル以上で走る? これは整合が取れないわね。あとで照合しとくわ』
「待て待て、それは本当だっつーの。チーターは2~3秒で時速90キロメートルまで加速するんだぞ」
『マジで? やだ、地球の生き物怖い』
「歩く動物図鑑とまで呼ばれた僕だ。トカチ・F・D民舐めんな」
『じゃ、ミントの繁殖力はいずれ地球を滅ぼすっていうのは?』
「嘘に決まってるだろ。情弱か」
そんなこんなで、キンジと侃々諤々の討論を続けていると、急に眠気が襲ってきた。
「キンジ、なんだか……とっても眠いんだ……」
『限界ね。あとはあたしがやっておくわ。よくがんばったわね、もう寝なさい、おやすみ』
僕の意識が闇に落ちていく。




