10. アタラ大佐改造計画
「アタラちゃん、本当にいいのね?」
「はい、お願いします。壬皇近侍閣下」
「フラッシュのデータがあるから難しくはないけど、体を慣らすのに時間がかかると思うわよ」
「覚悟の上です」
思索の間で、僕は二人の会話をただ黙って聞いている。
おっと、僕が入っていたチャンバーにアタラ大佐が横たわる。
思索の間っていうより、高度医療施設って感じだな、ここ。
「どれくらいかかんの?」
「んと、一時間くらい?」
「早っ! お手軽すぎない?」
「思索の間はノイズが入らないから最高効率で施術できるのよ。鉄壁の防御って言ったでしょ」
「僕は普通に入り込んだみたいだけど」
「あなたが異常なのよ。普通じゃないわ」
「ひどい……。アタラ大佐、僕もここで待ってるよ」
「はい、フラッシュ様。今後のご指導をお願いします」
「まかせとけ。おい、キンジ。この改造って痛いとかないよな?」
「ないわよ。試しに無痛で腕を切断してあげましょうか?」
「……おまえ、たまに怖いこと言うよな」
「あなたが変なこと聞くからでしょ。じゃ、アタラちゃん。眠りなさい」
「はい……」
アタラ大佐が目を閉じた。
そうだな。アタラ大佐が目覚めるのを待つ間に、僕の希望を伝えておこう。
「キンジ、セガンタも場所毎に重力制御ができるんだろ? この低重力環境に長くいると結構マズい気がする」
「ああ、耐G能力が落ちるってこと?」
「それよりも、健康を維持できなくなる。レーシングカレッジがある場所も、リング型居住施設で1G環境だったしな」
「こちらの環境でも大丈夫なように、体に手を入れさせてもらったけどね。検疫の問題もあるし」
「そうなの? なら平気か」
「そうよね、アタラちゃんの重力馴致にも必要だし、1ブロック丸ごと1Gにしようかしら」
「それは助かる」
「設備に希望はある?」
「そうだな。トレーニングルームと耐G訓練施設は欲しいな。あ、アタラ大佐の初期訓練用に遊園地を作ったらいいかも」
「遊園地? 人々が遊ぶ場所のことよね?」
「そうだが、最大加速度6Gくらいの絶叫マシンとかもあるからな。ジャークは低く抑えられてるけど」
「6Gの加速度で遊ぶの? 頭大丈夫、あなたたちの種族?」
「言ってろ。ああ、そうだ。戦闘機の改造案がある」
アジャイルクラフトの機動シミュレーターを立ち上げた要領で、リギングAIの起動を試みる。
動いた動いた。
この肉体にもアジャイルクラフトアビオニクスを一式インストールしてくれたようだ。スゲー便利。
アジャイルクラフトの360度可動コックピットの簡易設計図を仕立ててキンジに送る。
「ふーん、常に背中方向に加速度を受けるんだ」
「そのとおり。アジャイルクラフト初心者は、さらに高密度流体を詰めたコックピットで初期訓練をする。これなら絶叫マシン程度の負担だな」
「いいわね、試作してみるわ。流体を詰める……。そうか、圧力の分散ね」
「正解。重すぎてレースには使えないけどね」
そのあと、耐G訓練施設の機器の仕様などを説明しているうちにアタラ大佐が目を覚ました。
「おはよう、アタラちゃん。気分はどう?」
「はい、問題ありません」
アタラ大佐がチャンバーから出て立ち上がる。
「気をつけろよ。動作と感覚がズレているはずだ」
「はい、フラッシュ様。違和感を感じます」
腕を振ったり、膝を屈伸させたりしている。
軽く、ピョンピョンと跳ねて腰を落とす。あ、ヤバいなコレ。
予想どおり、アタラ大佐が垂直に大ジャンプ。
余裕で四メートルは跳んでいるな。身体能力高いな、この子。
案の定、空中で姿勢を崩して焦っているみたいだ。
「アタラちゃん!」
キンジが悲鳴を上げる。
低重力あるあるだ。リング型居住施設の火星重力階層でよく見る光景だ。
初めて行ったとき、僕も同じことをやって怒られた。
トンと踏み出し、アタラ大佐の落下地点に移動。
タイミングを合わせてお姫様抱っこでキャッチ。
うん、決まった。




