11. フラッシュ、敵を知る
「アタラ大佐、まずは1G環境に慣れるのを優先しよう」
お姫様抱っこ状態の大佐は、僕の腕の中で目を丸くしている。
「は、はい……」
「キンジ、ひとまずは大佐の生活空間を作ってくれ」
「了解。すぐに作るわ。それから1Gブロックの設計はフラッシュに任せていい? アシスタントはつけるから」
「おー、僕が設計していいの? 腕が鳴るな」
「壬皇、入ってきて」
キンジが呼ぶと、かつて、僕が乗っ取った天使ボディーが、天井を突き抜けて降りてきた。
「あー、僕が追いだしちゃった人工知性さん? その節はごめんなさい」
素直に謝るが、天使はなぜかジト目で僕を睨んでいる……。
アレか、首が取れて、首だけで喋れるようにオーダーしたことを「頭ぶっ飛んでる」と評した件か?
「壬皇閣下、高尚なご趣味を貶めたこと、誠に申し訳ございません……」
天使がうなずく。お、当たりか?
「フラッシュも反省してるようだし、許してあげてちょうだい」
「よい、許す」
チョロいなこいつ。格式高い口調と荘厳な声の響きもちょっと笑える。
「ありがたき幸せ。して、1Gブロックの草案ですが……」
機嫌がいいうちにねじ込んでやれ。
キンジが呆れた目でこっちを見ているが、いいんだよ、これで。
面倒なやつには下手に出てヨイショするのが最適解だぞ。
とりあえず、思いつく要望を全てぶち込んでみたが、ブロック全てを埋めるには程遠いようだ。歓楽街まで盛り込んだのに。
中枢構造体セガンタの1ブロックは五十万ヘクタールくらいある。無駄にデカいな。
僕の故郷、トカチ・F・Dの半分近くの面積だ。
ヘクタール表記なのは、トカチ・F・Dの住民に根付いた単位だから。何坪とか言われても全く分からん。
何はともあれ、こっちは大丈夫そうだな。
「それでキンジ、異次元からの侵略者の撃退って、具体的に何をやればいいの?」
さっさと本題に入ろう。
「そうね、この宙域は第七次元からの概念干渉が著しくて、人工知性を使うと危険なのよ」
「ふんふん」
「そのせいで、人工知性が操る戦艦や戦闘機は出せないから、アタラちゃんの部隊がビーム兵器やミサイルで撃退してるってわけ」
「ふーん、どんなのが来るの?」
「いろいろね。第七次元からは概念がメインね。物質はほとんど現れない」
「概念って僕みたいな?」
「あなたは、特殊なケースね。概念の塊ともいえるけど。普通は「ウナギ」とは何ぞや、みたいな単一の概念ね」
「ウナギ好きすぎだろ、おまえ」
「だって、ウナギ美味しいじゃん」
キンジのやつ、僕の口調が移ってきたな。これが概念汚染というものか! 違うか……。
「話がズレたわね。人工知性は素直だから「敵だからと排除するのは正しいのか」とか概念を植え付けられて反戦主義に陥ったりするのよ……」
「それじゃ使えないな」
「そうなのよ。そして、この宙域は第六次元からの侵略者が勢力を増しているみたいなの」
「第六次元?」
「そう。侵略者は……こんな感じのね。これは今まで出会った中で最大規模のやつ」
キンジから映像が送られてきた。早回しの動画だ。
星雲のようなものが宇宙空間に蠢いている。
その内部に見えるのは、暗く光る赤い星。注釈には恒星と出ている。
徐々にズームアップしていき、星雲の正体が見えてくる。
銀灰色の小さな物体の群れだ。
「分かる? もっと拡大するわね」
キンジの言葉と共に映像が急速に拡大する。
「虫? 銀灰色のクソでかい甲虫?」
二つの複眼に二本の触覚、ぱっと見た感じはくすんだ銀色のウバタマムシだ。
だが大きい。全長二十メートルと補足情報が出ている。
「そう見えるわね。ただし、生物か機械なのか、それすらも分からないわ」
「これが増えるのか。キモッ」
甲虫が分裂するシーンが映った。頭部が裂けて中から小さな頭が出てくる。
ぬるりと母体から飛び出すと恒星に降下していった。母体は頭を閉じて平然としている。
「ああやって恒星の大気を掠め取っているのよ」
「んん、恒星を周回している岩塊があるな」
「この恒星の唯一の惑星ね。齧りとられて歪な岩塊になってたわ」
「惑星を喰うのかよ……。これを倒すのは無理っぽ」
「ビーム兵器やミサイルは近接兵装でね。中枢構造体セガンタの主兵装はAD。アブソリュート・ディスロケーターの略称よ」
「何その物騒な名前の兵器」
「最大一立方光年の空間を丸ごと転移させる兵器ね」
「ちょっと単位が怖いんですけど……で、どこに転移されるの?」
「知らん」
「ちょっと待て。無責任過ぎんだろ」
「この第八次元じゃないことは確かよ。滅多に使うものでもないしね」
「まあいいや。でもこのクソでか甲虫の群れ、戦闘機で何とかできるレベルじゃないよね?」
「大丈夫大丈夫、今回は小さな群れだから。フラッシュが出れば簡単に片付くわよ」
「本当かなあ……」
不安しかない。




