12. 実戦
『戦闘機の改造は間に合わなかったけど、Gリミッターは自由に設定できるようにしておいたわ』
「おう、サンキュー。それで十分だ。ハーネスも6点式になってるな」
『うん、急造だけどね。シート形状も変更したわ』
僕は今、戦闘員用の作業服を身につけ、頭と首を保護するベルト付きのヘルメットを装着して、戦闘機のコックピットに座っている。
「フラッシュ・バーンズ、出るぞ」
某古典アニメ作品の定番のセリフだ。毎年のようにレーシングカレッジで流行るそうだ。語尾を変えたりしてキャラを立たせるのもグッドだ。
『いってらっしゃーい』
気の抜けるようなキンジの声に送られて、僕はカタパルトから射出された。
今回はバレルロールは無しだ。初の戦闘だ。気を抜いていいはずがない。
Gリミッターは8Gに設定済み。余裕をもって安全域に留めておいた。
「ひとまず単体の敵を狙って追尾してみる」
『了解。がんばってね』
戦闘プロトコルを起動すると、コックピット内の景色が一変する。
星が輝く宇宙空間を映し出していた全天球モニターに、背景を排除した戦闘宙域だけが表示される。
第六次元からの侵略者、通称、アノマリー・シックスの一群が強調表示で示される。
ターゲットは128体。基本的に群れで行動しているが、単独行動の個体もいた。すかさずロックオン。
思考制御で飛ぶ戦闘機だけあって、ロックオンするとさまざまな情報が脳裏に浮かぶ。
今回の侵略者の姿は……全長五メートルほどの青いイナゴだ。こいつら昆虫が好きなのかね。実は僕も大好きだ。フォルムが実にいい。
ターゲットは秒速百五十キロメートルで移動中。彼我の距離は約三十九万キロメートル。地球と月の距離くらいだ。
最大加速。緩衝装置で補いきれなかった8Gの重力がかかる。この程度なら楽なものだ。
ターゲットとの距離がぐんぐん縮んでいく。お、こちらに気づいたな。回避行動を取っているが遅すぎる。加速度が圧倒的に違う。
アノマリー・シックスは飛び道具を持っていないと聞いているが油断はしない。
こちらの武装は一つだけ。だが侮るなかれ、ディメンジョンアレイは恐ろしい兵器だ。
射程は十万キロメートルと宇宙で使うには短いが、次元共鳴(?)とかで指定範囲の物質を消滅させる恐るべき兵器だ。
イナゴが射程に入った。範囲を二メートルに絞って頭部を狙いデジグネイト。
刹那、イナゴの頭を含む直径二メートルの範囲が、ぽっかりと球状に消滅。怖えー。
仕上げに範囲を広げて完全に消滅させる。キンジの言うとおりイージーモードだわ、これ。
よし、チュートリアルは終わりだ。本命の群れを追いかけよう。無駄にバレルロールを決めながら縦横無尽に飛び回る。
ディメンジョンアレイは最大約百キロメートルの範囲の敵を一気に消滅できる。
機動性を活かして効率的に排除しようと考えると、半透明の機体が現れて先導を開始する。こいつを追いかけろってか。
まるで、アジャイルクラフトのゴースト機能だな。
シリーズチャンピオンのゴーストを追いかけるのは、レーシングカレッジでの日常だった。
ゴーストの軌跡を正確にトレース。
すると、敵を射程に捕らえた瞬間、自動的に範囲を指定してディメンジョンアレイが作動する。
仮想の機体を追いかけるだけで敵を殲滅できるのか。まさに至れり尽くせりだ。
夢中になってゴーストを追いかけ、ついに横に並ぶと「ミッションコンプリート」の表示が出た。
『おつかれさまー! やっぱり簡単に終わったわね』
「おうよ。戦力差が圧倒的だったからな。非対称戦ってやつだ」
『まさに、鎧袖一触って感じだったわね』
「それじゃ、帰投するよ」
『待ってるわ!』
セガンタに帰投後、習慣になっているシャットダウン・チェックリストを実施しようとしたら、頭の中に「不要」と浮かんだ。
そういえば、プリフライトチェックのときも、こちらに付き合ってくれてる感じがしたな。
「ひょっとして、プリフライトチェックもいらなかった?」
声に出して聞いてみる。反応が無かったら恥ずかしいな。
『はい。常に機体は万全の状態を維持しています』
喋った!
「君も人工知性なの?」
『いえ、自意識を持たない自律機械です』
「へえー、第七次元からの概念干渉に対抗するため?」
『そのとおりです。自意識に対して干渉してくるので私にとっては無害です』
「なるほどー、勉強になったよ。君のことは何て呼べばいい?」
『そうですね、整備機械の代表……整備班長とでもお呼びください』
「了解、整備班長。今後ともよろしくね」
整備班長にあいさつをして機を降りる。
自律機械であろうと機体を預ける相手には敬意を払わなきゃな。




