13. 謁見
司令室に立ち寄り、キンジに帰投報告を済ませ、1G環境の自室にいるアタラ大佐を訪ねる。
「アタラ大佐、ちょっといいかい?」
ドアホンは無いが、呼びかけの声は通るようだ。防音性は高いのに不思議不思議。
『はい、どうぞ』
ドアが開いたので中に入る。おー、ここだけ1Gだ。しかも、緩やかにGを変化させる装置が働いているようだ。これなら出入りも安心だな。
ここはリビングルームのようだ。奥にいくつかドアが見える。ここに来て、やっと個人の居住空間を見た気がする。綺麗な花が活けられて女性の部屋って感じだ。
「やあ。高重力環境に慣れてくると、かえって転びやすくなるからね。気になって助言をしにきたんだ」
「ありがとうございます。そうですね、少し慣れてきたところなので気をつけます」
「あと、腰を曲げて重い物を持つと、腰を痛めやすいよ。これは、僕も気をつけていることだ」
「はい、よく覚えておきます。そういえば、フラッシュ様。1Gブロックの構築が始まりましたよ。見学に行きませんか?」
「お、早いね。行く行く、連れてって」
アタラ大佐の背中を見ながら、広い通路を歩いて1Gブロックに向かう。
引き締まった長身、肩まで伸ばしたニュートラルグレーのストレートヘア。0.31Gの低重力の中、弾むような足取りで僕の前を歩く。
後ろ姿も絵になる。もっと仲良くなりたいものだ。
「ここからですね」
心の中でデレついていたら、もう到着したようだ。
アタラ大佐の隣に立つと、脳内に「この先、1Gブロック、注意」と警告が走る。
通路の床から天井までを奥行き五メートルほどの黄色い帯が囲んでいる。リング型居住施設の重力勾配警告みたいなものかな。
アタラ大佐の自室のように、対象を指定して緩やかに重力を変化させるのは大変だろう。この通路は、クソ重い大型機材の搬入にも使うだろうからな。
何というか、キンジはアタラ大佐に甘い、甘やかしすぎ。お母さんかよ。
黄色い帯を進むにつれて体にかかる重力が大きくなる。
帯を抜けて1Gブロックに到達した途端、アタラ大佐がよろめく。
「重力勾配があると慣れていてもバランスを崩しやすい。こういうエリアはゆっくり慎重に進んだ方がいい」
アタラ大佐の腰を支えながらアドバイスする。
「は、はい。ありがとうございます」
女性らしい優美な腰のラインを堪能しながら横顔を見ると、アタラ大佐の耳が赤くなっている。
おいおい、可愛いじゃないか。
新しく作られた荘厳なブリーフィングルームに入る。
ブリーフィングルームってどこも殺風景だよね? 機能重視って感じでさ。
前々から気にいらなかったので、中世の王城の「謁見の間」風に設計したんだっけか。
いや、いくら施設を詰め込んでも、ブロックに余裕があるので、自重せずにデカくしたせいだった……。
玉座に階段、ステンドグラスから差し込む光に照らされた大広間。
その後方にちょこんと設置された10人掛けのテーブルがやけにシュールだ。
これは無いな。やり過ぎたかも。反省しよう……。
作ったものはしょうがない。せいぜい有効活用しよう。
アタラ大佐と、多機能タクティカルテーブルを囲んで今後の相談をしていたら、玉座の後ろの隠し通路から、ふよふよと天使が現れた。
当然のように玉座についたぞ、こいつ。
僕は、アタラ大佐を促して、二人揃って階段の前にひざまずく。
「フラッシュよ、そなたが優先してほしいと言っておったトレーニングルームとやらが完成したぞ」
見た目だけは神々しいチョロ天使。こいつ、おだてると喜ぶんだよな。
「ありがたき幸せに存じます。このご恩を胸に、今後とも一層軍務に精進してまいる所存でございます」
首を垂れて臣下の礼をとる。
僕って実は、コスチューム・プレイの大ファンなのだ。
アタラ大佐も隣で神妙に僕のポーズを真似ている。こいつ、できるな。
何か知らんが興が乗ってきたぞ!
「うむ、よきにはからえ」
天使もノリがいいな。これは楽しい。次は衣装にも凝ってみるか。
「アタラちゃん、フラッシュ……。あなたたち何やってんの?」
そこに、空気を読まないオオサンショウウオのキンジがのしのしとやってきた。
「台無しだよ。謁見シーンがオオサンショウウオの乱入で台無しだよ」
両手を広げてヤレヤレのポーズを取る。
「よく分からないけど馬鹿にしてるでしょ! フィー!」
キンジがキレた。




