14. アタラ大佐の愉快な部下たち
キンジの怒りに恐れをなしたか、天使がふよふよと隠し通路に逃げていく。チキン天使め。
「壬皇! 説明なさい」
キンジに呼び止められて、空中でピタリと静止する天使。キンジ強い。
「まあまあ、キンジ。そいつも雰囲気に巻き込まれただけだよ。この謁見の間のせいだ」
さすがに、少し可哀そうな気がするので、このチョロ可愛い天使を庇う。
「フラッシュ、あなたが設計したんでしょ!」
おっと、こっちに飛び火してきたぞ。
「いいから早く行け」とゼスチャーで伝えると、天使の羽をバタつかせながら、猛烈な速さで飛び去っていった。おまえ、そんな速度で飛べたの?
「激おこキンジは置いといて、ブリーフィングの続きをしようか」
アタラ大佐に向き直る。謁見ごっこは終わりだ。
「申し訳ありません、壬皇近侍閣下。私が止めるべきでした」
僕には返事をせずに、キンジに謝っている。ごめん、アタラ大佐……。
「……もう。フラッシュ、あまりアタラちゃんを困らせないでよ」
キンジの怒りはおさまった模様。ナイス大佐。
「スマン。つい興が乗ってしまって……」
「それで何のブリーフィングをしていたの?」
「ああ、アタラ大佐の配下に戦闘部隊がいるんだろ? 顔合わせくらいした方がいいと思ってさ」
「そうね。そろそろ四人の中隊長と会ってもいい頃合ね」
「分かりました。……今からでも大丈夫ですね。どこで会議をしますか?」
アタラ大佐が連絡を取ったようだ。僕のような脳内システムを持っているのかな?
「ハンガー脇のブリーフィングルームでいいんじゃない?」
「では、そのように。フラッシュ様、ご案内します」
「はいよ。よろしくね」
アタラ大佐が先頭に立ち、僕とキンジがついていく。
「キンジ、二足歩行とかできないの?」
ちょっと踏みそうで怖いのだ。こいつ、踏んだら絶対にキレる。
「ん? できるわよ」
オオサンショウウオが、よいしょと後ろ足を支点に立ち上がると、尻尾でバランスを取りながらペタペタと歩き始める。遅っ!
「遅いな……。もっとシャカシャカ歩くかと思った」
「股関節の構造がね。体をひねって歩くからこれ以上の速度は出ないのよ」
「やっぱ四足歩行でいいや。僕が踏まないように気をつければいいだけの話だし」
「え、踏めないわよ? 斥力フィールドを張ってるから。踏もうとしたら、あなたが転ぶだけよ」
何というロマン装備!
僕とキンジがふざけながら歩いているうちに、玉座に続く階段の横手にある、荘厳な意匠のドアを抜けて謁見の間から出ていた。この部屋、無駄に広いんだよな。
アタラ大佐が、謁見の間を出てすぐの壁に設置されているパネルに触れると、スライドして壁が開いた。中を覗くと十人は入れそうな小部屋になっている。
「何これ? エレベーター?」
「基幹通路の下に高速移動網が設置されてるの。これは乗員用の移動ポッドね。新設の1Gブロック全てが同じ構造になってるはずよ」
「へえー、どれくらいスピードが出るの?」
「んー、アタラちゃん分かる?」
「はい。最大速度は秒速六キロメートルくらいかと」
「めっちゃ速いじゃん!」
「全速でもセガンタを一周するのに三十分くらいかかるわよ。短距離移動用ね」
中枢構造体セガンタは戦略遊星エヴェラントに付き従う、造られた衛星だという。
速度と所要時間から、ざっと計算してみたが月とほぼ同じ大きさだ。月サイズの人工物か……。全く想像ができないな。
考え込んでいるうちに、あっという間にハンガー区画に到着した。
アタラ大佐が、ブリーフィングルームの扉の前に立つと無音で扉がスライドする。
中に四人いるな、奇妙な生き物たちが雑談しているように見える。
「アテンション!」
鳥っぽいのがキンジに気づいて号令をかける。
「そのまま」
アタラ大佐が静かに告げる。
固まったままの四人の中隊長たちを眺める。
キンジに気づいて声を上げた、細身のハシビロコウっぽい顔の生き物。
その向かいに座っているサイのような大きな角を持つ巨漢。
奥に座っているのは手足の生えたイルカ?
そして最後の一人は、サイの陰でよく見えないが、頭の上にぴょこんと立つ三角形の耳が見える。
獣人? 猫獣人なのか!?




