6. 試乗
コックピットの中にいる僕は「向こうの世界」での姿だった。
手をにぎにぎしてみる。感覚も普通だ。
僕の体が完全にシミュレートされているようだ。
『あなたの記憶から構築したけど変なところは無い?』
キンジの言葉に体を見回すが全裸なこと以外問題ない。服くらい着せとけや。
「ああ、大丈夫だよ。すごいな、元の体に戻ったみたいだ」
『そそ、そっちに大量のリソースが必要だったの。それで司令コンソールに直結したのよ』
「ふーん、さっきは首が取れてびっくりしたけど、まあいいや。ところで、これどうやって操縦するの?」
サイドスティックもスラスターレバーも無い。
『思考制御ね。実際にかかる重力も体験できるわよ』
「おお、思考制御! 思った通りに動くの?」
『そうそう。それとビームが掠めたら熱いって感じるし、反射で対応できると思うわよ』
「それは便利だな」
『じゃあ、試してみて』
「了解」
んーと、ここはハンガーかな。発着場があるはずだが……。
と思っていると、矢印が表示された。アジャイルクラフトのナビゲーターと同じか。
矢印の方向に進もうと考えると、一旦離床して進みだした。現実を考慮して補正してくれるのね。
そのまま進めば降着脚を引きずっていただろう。よく考えられている。
「それでは発着場へ」
意識するだけで勝手に進む。楽ちん。
数分進むと宇宙空間が見えてきた。発着場だ。
瞬かない星たち。漆黒の闇と色とりどりの光点。見慣れた宇宙だ。
どうやら、カタパルトに接続されたらしい。うん、感覚で何となくだが分かる。
「発進!」
思考制御といえども、こういうのは口に出した方がいいに決まっている。
気分を出して叫んでみると、発着場からカタパルトで宇宙空間に放り出される。背中にかかる反動は0.3Gくらいだな。
360度バレルロールを決めて宇宙の海へ。ちなみに、僕は右ロール派だ。
「ヒャッフー!」
かっいかーん! 軍では禁止されているようだがこの瞬間が大好きだ。みんな大好きバレルロール! たとえ次元が違えども。
未経験の機体でいきなりやらかしたが、これは、シミュレーターだ。問題ない。
次は基本に忠実に上昇を試してみる。なんと、水平のまま上昇していく。
アジャイルクラフトは、後部にメインスラスターを積んでいるので機首の方向に進む。
上昇するには機首を上げて推力を変える必要があるのだ。
左旋回、右旋回と感覚を確かめながらRCSマニューバを行う。
中枢構造体セガンタから距離を取り難易度を上げていく。
まずはペダリングターンからのハンマーヘッド。
おー、自由に動く。慣性など関係ないみたいに自由自在に。
これは楽しい。最高だ!
「キンジ、この機体最高だな!」
『気に入ってもらえてよかったわ。どう、手伝ってくれる?』
「手伝う手伝う。こんなのに乗ったらもう帰れないよ。ところでこの機体何て名前?」
『名もなき量産機ね。製品コードはあるけど聞く?』
「いやいい。これで名もなき量産機なのか……。第八次元恐るべし」
『それじゃ、お祝いに専用機を作ってプレゼントしてあげる』
「うっひょー、マジで!?」
『マジマジ。そろそろ戻ってきてね』
「はーい、了解」
試乗を切り上げて、ここで離脱してもいいのだが、せっかくなのでハンガーまで戻ろう。
セガンタに機首を向けて、帰投コースに乗る。
こうやって、まじまじと見るとセガンタは衛星というよりも要塞だな。銀色に輝く直方体。
表面には武器と思しき構造物が林立している。そしてその背景には巨大な球体が浮かんでいる……。
戦略遊星エヴェラントだろう。真っ青な星だ。星と宇宙の境界に滲みが無い。大気が存在しないようだ。
おっと、発着場が近づいてきたようだ。視界の端にアラートが出る。
よそ見をやめてアプローチに入る。秒速五十キロメートル。減速を開始。減速率を上げていくと過負荷警告が灯る。
重力場緩衝装置の限界とのこと。減速率が自動的に下がる。現在、秒速三キロメートル。
なるほど、0.3Gを超えると過負荷ってことになるらしい。
甘い。設定が甘すぎる。アジャイルクラフトドライバーは12Gに二十秒は耐えられるぞ。
専用機を作ってくれるそうなので、その辺も調整しよう。
発着場の管制施設から警告。域内速度を守れと言っている。なるほど、秒速百メートルか。
指示に従い速度を落とす。発着場がのんびりと近づいてくる。
トラフィックコントロールも自動的にやってくれるし完成されたシステムだ。
これ、ハンガーに戻れって思うだけで勝手に戻るのかな?
「あー、ハンガーに戻ってくれる?」
一応口に出して言うと、即座にアクセプトの表示。自動帰投もできるんだ!
「ふふっ」
便利すぎて思わず笑いが漏れてしまう。




