5. シミュレーター
「ねえ、フラッシュ。あなた第七次元に帰りたい?」
「実を言うとあまり未練は無い」
「あなたをスカウトしたい」
「何をするかによる。あと食事次第かな」
「隣接次元からの侵略者を撃退してほしいの。食事は……あなたの世界のものはだいたい出せると思う」
「僕に兵士になれっていうの? 無理。無理無理の無理」
「そこを何とか」
キンジが頭を下げる。オオサンショウウオに頭下げられても……。
しかし、アタラ大佐にまで頭を下げられると居心地が悪いな。
「……」
「すんごいイカした戦闘機に乗れるわよ」
「!」
こいつ僕の願望を知っているな!
僕はアジャイルクラフトのドライバーになるのが夢だった。すでに道は絶たれたが……。
そういえば、さっき見た戦闘機の推力は、アジャイルクラフトの一万倍以上はあったな。機体質量にもよるが亜光速戦闘機かもしれない。
量子的排斥力リアクターとか重力場緩衝装置とか、聞いただけでわくわくする機能がてんこ盛りの機体だった。
ちょっと聞いてみたいこともあるが、どうしたものか。口では説明しにくいな。
そうだ、アジャイルクラフトにそっくりな通信ウィンドウが出たくらいだ。
アビオニクスをそのまま模倣しているなら他の機能も使えるかも。
お、出るじゃん。アジャイルクラフトの機動シミュレーターが立ち上がった。
やっぱり思考制御も再現していたんだな。
「ねーねー、この戦闘機って手動でこんな機動もできるー?」
ウィンドウにキューバンエイトのモーションを表示する。
「ウィンドウに出てるやつ? 楽勝よ」
これ、インメルマンターンを二回つなげて空中に八の字を描くマニューバなんだけれど、大気の無い宇宙空間で行うのはすごく難しい。
コンピュータにやらせると楽に熟すが、簡単に動きが読まれてしまう。
駆け引き勝負のレースでは、そんな単純な動きは通用しない。
「まじかー、少し興味が湧いてきたな」
「そうでしょそうでしょ。試乗してみる?」
「試乗できるの? やるやる!」
「ただ、その天使ボディーだと隣接次元の干渉受けまくりだから、下手したら事故るか……。今回はシミュレーターね」
「えー? ……まあいいや」
「生体に乗り換えたら大丈夫だから、それまでは我慢してね」
キンジとアタラ大佐に案内されて、やってきたのは司令室? みたいな場所。
ここにシミュレーターがあるのだろうか。
それはさておき……。
「ところでさ、キンジって足速いのな」
「そう? ふふふん」
「ご機嫌なところ悪いけど、ちょっと動きがキモかった」
「フィー!」
いつもの変な鳴き声を上げて大きく口を開く。
「ごめん、ごめんて。噛まないで」
勝手なイメージでのそのそ歩くかと思っていたら、すっげーワシャワシャ足を動かして走っていた。
アタラ大佐が必死に追っかけるくらいの速度で。ウケる。
「こほん。それじゃ、始めましょうか。アタラちゃん、外すから受け止めてね」
「はい!」
「何するの?」
「いくよ!」
「なになに?」
首の辺りから「パシュッ」と気の抜けるような音がしたと思ったら視界が回転を始めた。目が回る。
「よっ」
アタラ大佐が受け止めてくれた。
「ほれ、こんな感じ」
キンジのセリフと共にウィンドウに僕が映される。アタラ大佐に抱えられた僕の生首が!
「なにこれー!?」
アタラ大佐がコンソールの上に僕の生首を置く。
一瞬のブラックアウトから復帰すると、僕はコックピットの中にいた。
「ちょっとちょっと! 首取れるのこの体?」
『うん、首外して直接司令コンソールにつなげた』
あ、ウナギアバターが復活している。鰻重を食べたくなってきた……。




