4. 中枢構造体セガンタ
「ひどい目にあった……」
ズキズキと痛む頭を振りながら僕は起き上がる。
結構長い時間倒れていたようだ。オオサンショウウオのキンジが水槽から出てきて僕を見上げていた。
『人工知性さんは指さして笑ってるわよ。指は無いけど』
「ごめんって……」
『それでこの世界のことは理解できた?』
「うん、第八次元に残された文明は、戦略遊星エヴェラントだけで、現在、グレートウォールってところを目指して進んでいる」
『そうね』
「中枢構造体セガンタはエヴェラントを周回している衛星みたいな感じ」
『あってる』
「中枢統御体、壬皇の正体をセガンタのみんなは知ってる。え、アタラ大佐も?」
『茶番だと笑わないでよ。噛むわよ』
オオサンショウウオがカパッと大口を開く。よく見ると小さな白い歯がびっしりと並んでいる。
ほんのり山椒の香りが漂ってくる。
「おお、いい香り、じゃなくて、噛むなよ怖えーな。それと、多くの生態系が隣接次元からの侵食でここ三千年で失われた」
『そう、このままだと第八次元は生物の存在しない空虚な世界になってしまう』
「キンジがオオサンショウウオに似ている理由は非公開……」
『秘密があった方がミステリアスでしょ』
「はいはい。それから、僕が意識を保っていられるのは第七次元にある肉体とつながっているから」
『そのとおり』
「僕の刑期が終わって向こうで目覚めると、ここでの経験は消滅する。夢の中の出来事のように」
『たぶんね』
「そして、ここで生き続けるためには……」
『こちらで新たな肉体を作って意識を移し替えるしかない』
「うーむ……」
『ま、ゆっくり悩みなさい』
『壬皇近侍閣下、入室許可を願います』
部屋の中に響きわたる声。聞き覚えがあるな。
『どうぞー。あら完成したみたいね』
真っ白に塗りつぶされたキンジの部屋にアタラ大佐が入室してきた。
「おー、アタラ大佐、さっきぶり」
「はっ、壬皇閣下」
『アタラちゃん、アレを発注したときに伝えたとおり、もう小芝居は必要ないわよ。これはフラッシュ・バーンズ』
「これって言うな……」
雑な紹介はやめろ。
「フラッシュ様は第七次元からの稀人でしたか」
「そうみたいだね」
『それよりもアタラちゃん、アレができたのよね?』
「はい、こちらになります」
アタラ大佐が、腰のポーチから巨大なリングボックスのようなものを取り出した。
成金の婚約指輪かよ。
『わーい、つけてつけて』
「それでは失礼します」
大佐はボックスを開け、中に収められている針状のものを取り出した。長さ十センチメートルくらいの太い針だ。
まあ、婚約指輪ってことはないよな。当たり前か。
大佐はキンジに近寄っていくと大きな頭部を抱え上げて……。
目と目のあいだに針をぶっ刺した。
ためらいもなく。
「え、死んだ?」
オオサンショウウオのつぶらな瞳が白く反転する。
「フィー、ふ、ぐぇ……ぐぐ。あ、お、いいわね、上出来よ」
キンジが喋った!
連動するように、ウィンドウに表示されていたウナギのアバターが昇天していく。無駄に凝っているな、おい。
「キンジ、おまえ喋れたの? びっくりなんだが」
「翻訳機能をアドインしたのよ。声帯はさっき気合で作った。もうあなたの脳内LLMを使わなくても会話できる」
「なんだよ。まだ僕の脳を使ってたのかよ」
「最初の『自己との対話』より楽だったでしょ? 言語生成の演算負荷はかなり少ないはずよ」
「そりゃそうだけどさ……」
「もうそっちのディープラーニング領域は用済みだから空き領域が増えたわよ。こちらの科学知識でも叩きこむかしら」
「勘弁してくれよ。少しずつ教えてよ。普通に」
「それじゃ、中枢構造体セガンタの機能を教えるわ」
「どんと来い!」
「セガンタは戦略遊星エヴェラントの衛星、これは知ってるわね」
「オフコース!」
「やけに気合が入ってるわね……」
「だって叩き込まれるのイヤだもん。普通に話してくれるの嬉しすぎる」
「そう、よかったわね……。それでね、実はセガンタっていつもは次元障壁の外にいるの。今は内側だけど」
「リアリー!?」
「そういうのいいから。まあ前哨基地みたいなものなのよ、ここって」
「中枢構造体を丸だしって、どうなんですかね。痴女かなんかですか」
「戦術中枢なのよ。状況を把握するのに閉じこもってるわけにはいかないでしょ?」
「正論パンチきたー」
「安心なさい。防護策は講じているから」
目の前にたくさんのウィンドウが開く。
戦艦、戦闘機、ミサイル、ビーム兵器、この丸いのは何だ? 機動要塞か。
それぞれのスペックも表示されている。推力や出力の桁がヤベー。
地球の技術なんておままごとレベルだ。
最近、ファーストコンタクトを果たした異星種族もすんごい科学技術を持っていると思ったが、これは桁違いだ。
「スンゴイデスネー」
「でも、人工知性は第七次元からの概念汚染で当てにできないのよねえ……」
「ちなみに、人工知性以外の戦闘員はいかほどに?」
「アタラ大佐を筆頭に百人くらいかな」
「少なっ!」
「適性を持つ者が少ないのよ」
「これだけすんごい武器があっても宝の持ち腐れじゃん……」
「それで相談なんだけど……」




