30. エヴェラント中枢区画へ
そのあと、湖沼地帯、山岳地帯を見学し、自然保護区の視察を終えてコテージに戻った。
「どう? 少ししか見せられなかったけど、興味がある場所があったら次回案内するわよ」
アタラちゃんが広報用の映像を見せてくれた。
氷の渓谷を悠然と歩くネコ科の動物や、砂漠に住む巨大な爬虫類、まるでドラゴンのようだ。
他にも大海原を泳ぐ巨大な魚や、氷原の飛べない鳥類……行政長官のエラリーちゃんによく似た大きなペンギンもいた。
正直、どれも興味深い。
「うーん、全部見てみたい」
「そう言うと思ったわ。次の長期休暇のときに見て回りましょう」
「お願い。このあとは中枢区画で一泊?」
「そうなるわ。まあ、宿泊施設は期待しないでね? 軍の管轄だから将校用の個室よ」
「気を遣わずに済むから平気だよ。アタラちゃんと一緒じゃないのが辛いけど」
「じゃ、一緒に泊まっちゃう? 狭いと思うけど」
「おー、緩い軍隊だな。泊まる泊まる」
二人でエレベーターの到着を待つ。
「こんばんは。自然保護区はいかがでしたか?」
エレベーターが到着してキャビンの扉が開くと、ベルスタッフの鳥の人があいさつしてくれた。
「こんばんは。最高だったよ。そういえば名前を聞いてなかったね。僕はフラッシュ、こっちはアタラちゃん」
「お二人のことは存じ上げております。私は、リリー族のハッテラと申します」
「ハッテラさん、ずっと付き合ってくれてありがとう」
「いえいえ、大変名誉なお役目ですので、競争率がすごかったんですよ」
話しかけてみると意外とフレンドリーな人だった。
キャビンが降下を始める。
「僕はエヴェラントのことを全然知らなくてね。失礼じゃなければ聞きたいことがあるんだけど」
これは聞くしかない。
「答えられることなら何でも」
「実は出会う住民の性別の区別がつかなくて……」
「ああ、そういうことですか。私の種族は両性具有ですよ」
「何と。声でも区別がつかないわけだ」
「ここでもかなり珍しい種族だと思います」
まさかの両性具有だった……。
「フラッシュったらずっと考え込んでいたのよ」
「アタラ大佐はリリー族のことをご存じだと思いますが」
「ええ、もちろん知ってるわ」
「えー、知ってるなら教えてよ」
「自分で聞く機会を奪ったら悪いじゃないの」
アタラちゃんがくすくす笑う。
メタリックなシャフトを抜け夜空が広がった。見上げると雲に隠されて天蓋迎賓館は見えない。外からは見えないようになっているのか。
眼下にはイルミネーションに彩られた市街地。中央には僕たちが最初にエレベーターに乗ったホテルが見える。
「ホテルには停止せずに、そのまま中枢区画まで降ります」
ベルスタッフのハッテラさんが言う。
やがて、ホテルの中央に吸い込まれ、透明シャフト区間が終わった。
「今、ホテルを通過いたしました」
キャビンの透明壁がモニターに変わり、戦略遊星エヴェラントの概略図が表示される。
「こうして見ると、自然保護区と居住区を合わせても薄い膜みたいなものだね」
「そうね、その二つがエヴェラントにとって重要な施設なのは確かだけど、これから行く中枢区画こそが本質なのよ」
「このエレベーターで最下層まで降りますが、そこからは高速移動ポッドを使ってください」
「中枢区画は機密区画でもあるのよ。特別な許可がなければ立ち入りができないの」
「僕にも許可が下りたの?」
「ええ、私も初めて行くことになるわね。壬皇近侍閣下の計らいで実現したのよ」
「キンジがねえ……」
「あなたに見てもらわなければならないものがあると言っていたわ」
何だろう。キンジのくせに思わせぶりだ……。




