31. 戦略遊星エヴェラント中枢区画
最下層に到着してキャビンの扉が開く。
「ご利用ありがとうございました。また会える日を楽しみにしております」
ハッテラさんとはここでお別れだ。
「世話になったね、ハッテラさん。今度はホテルを訪ねるよ」
「ありがとう。支配人にも感謝を伝えておいてね」
アタラちゃんも感謝を伝えている。
そういえば、あのホテルの支配人が誰かさえ僕は知らない。
「はい。申し伝えておきます。それではこれで失礼いたします」
僕は手を振り、アタラちゃんは敬礼して、エレベーターをあとにした。
「高速移動ポッドに乗って一時間くらいで中枢区画に着くわ」
「十一万キロメートル弱か……結構距離があるんだね」
「そうね、北極直下にあるのよ」
エレベーターから五十メートルほど進んだ場所に高速移動ポッドのターミナルがあった。
居住区の壮麗なターミナルとは違い、質素だが機能的な構造だ。軍の施設って感じがする。
「フラッシュ、こっちよ」
僕がターミナルをきょろきょろと見回している間に、アタラちゃんは小型ポッドの扉を開けて手招きしている。
「ああ、悪い。居住区とずいぶん違うんだな」
「軍事施設だからね。セキュリティも厳しいわよ」
アタラちゃんが天井を指さす。見上げると無数の小さなタレットが設置されている。その中の二つが、アタラちゃんと僕をそれぞれ追尾していた。
「ひょっとして対人兵器?」
「そうよ。ターミナルにいる存在は、全て潜在的な敵として扱われるの。レーザーが常に狙いをつけているわ」
「怖いな、ここ」
「とりあえず乗って」
僕を追いかけるタレットをチラ見しながら、おっかなびっくりポッドに乗り込む。
「あれ、動かないね」
「目的地が中枢区画だからね。厳重な認証があるわよ。コンソールに両手を乗せて」
目の前のコンソールに両手のシンボルが現れる。ここに両手を置けばいいのか。
『確認します。あなたの公式名称は? ……次は戦略遊星エヴェラントを初めて見たときの印象を教えてください』
両手を置くと脳内に質問が響く。答える前に次の質問が飛んでくる。ああ、質問に対する反応を見ているんだな。
十問ほどの質問を終えると『貴官をフォリナー・フラッシュと認めます』と宣言された。
ポッドが進みだす。
「ねえねえアタラちゃん。僕が見なければならないものって何なの?」
「私も知らないの。明日、壬皇近侍閣下が中枢区画に来るわ。直接聞いてちょうだい」
「ふーん、分かった」
いつも忙しそうにしているキンジも来るんだ……。シリアスな話かな。
前面モニターに到着までの時間が表示されるくらいで、特に見るべきものもないのでアタラちゃんとの雑談で時間をつぶす。
到着まで残り一分と表示されたタイミングで僅かな横Gを感じた。ポッドが回転しているようだ。
そして、建築物が立ち並んだ広大な空間に出る。まるで月面のドーム都市のような雰囲気。ただし星空は見えない。真っ暗な空の中央に薄ぼんやりした光点が一つあるだけだ。
「着いたわ」
「ここが中枢区画か……」
二人でポッドから降り立つ。
「将校宿舎に向かうわ。案内によると……こっちみたいね」
アタラちゃんも僕と同様に脳内システムを持っている。ナビゲーション機能もあるのだろう。
「最後にポッドが半回転したよね。上に見えるのはエヴェラントの中心部ってこと?」
「よく回転に気づいたわね」
「レースドライバーはGに敏感なんだよ。それにアタラちゃんの髪が外側に流れていた」
「よく見てるわね。そう、エヴェラントの内部には巨大な空間があるの」
「へえ、ぼんやり中央で光っているのは何?」
「戦略遊星エヴェラントが完成したときに恒星から旅立ったって言ったでしょ。その恒星の一部らしいわよ。私も初めて見た」
「うーん、理解できない」
「明日、閣下が全て説明してくれると思う」




