24.エヴェラント居住区 1
「……失礼しました。エラリー行政長官」
「堅苦しいのは苦手です。エラリーちゃんでいいですよ……」
でっかいペンギンのぬいぐるみが、エヴェラント居住区の行政長官だったことに驚いたが気さくな人で助かった。
権力者に逆らうと面倒なことになるのは、煉獄刑に処された僕が一番よく知っている。
「じゃ、エラリーちゃん。アタラちゃんの部下の中隊長たちを見たときも思ったけど、地球のペンギンとはずいぶん違うんだね」
エラリーちゃんはスタスタと器用に歩いている。ペンギンみたいなよちよち歩きではない。
「私の種族名はルタ・アバト。冷たい海流がある海域で進化しましたからね。収斂進化というやつでしょう」
「へぇー、居住区にはいろんな種族がいるんだろうな。楽しみだ」
「よろしければ私がご案内しましょう」
「え、いいの?」
エラリーちゃんの案内で、エヴェラント居住区の見学に行くことになった。お偉いさんが案内を買って出るって、それはそれでどうなのだろう?
まずは、防疫施設に向かっている。僕の世界でも自治体単位で水際対策とかしていたしね。
「私たちは、特殊な免疫防護を施されているから平気ですけど、エヴェラントの住民全体にって訳にはいかないですから」
「そりゃそうだ」
「それでは、この通路に入ってください」
防疫施設は複数のレーンに分かれた自動通路だった。三人がそれぞれ別の通路に入るようだ。
「立ってるだけで終わるわよ。出口で会いましょう」
アタラちゃんに言われて自動通路に乗ると、歩く程度の速度で奥に運ばれていく。
正面の二重になった扉が開き、さらに狭い通路へと送られる。屠畜場みたいだ。
トカチ・F・Dでは、子ども向けの段階的な見学コースが組まれているので、行ったことがある。
全ての見学を終えると「大人の階段」を登った気になったものである。しばらくは思い出して肉を食べられなくなったが……。
少年時代のプチ・トラウマは置いといて、防疫って言っていたから血液検査とかするんだろうな。
と思っていたが、狭い通路の終わりに、また二重扉がありそこを抜けると広いロビーのような場所に出た。
「あれま」
アタラちゃんとエラリーちゃんに再会した。
「驚かれましたか? 大勢の移民に対応するために自動化しているんですよ。こちらは宇宙に面している施設なので小規模ですが」
移民って宇宙を渡ってくるんじゃないの? まあ、どうでもいいか。
「え、これで終わりなの?」
「あの防疫通路は、あなたの機体に搭載されているディメンジョンアレイの技術を応用したものよ」
「何それ怖い」
ディメンジョンアレイは、愛機セブンス・ファントム唯一の武装だ。次元共鳴で標的を消滅させる恐ろしい兵器……。
「フラッシュの体はこちらで作られたものだから、基本的には大丈夫なんだけどね」
「そうですね。内在性レトロウイルスなども再現されているはずですから、万一に備えてって感じですね」
あ、もうついていけないや。
「問題ないならヨシ!」
ロビーを見渡すと、結構な数の人がいる。ハシビロコウと猫成分多めの獣人もいた!
「ここはハブステーションですね。高速移動ポッドのターミナルになっています」
「へえ、セガンタの移動ポッドも速かったけど、もっとスピードが出るの?」
「秒速三十キロメートルくらいですね。エヴェラントは大きいですから。この速度でも一周するのに四時間強かかりますよ」
指を折って計算してみる。秒速三十キロメートルで四時間十分として……。
「……エヴェラントって半径七万二千キロメートルくらいあるの?」
「はい当たりです。大体それくらいですね。……指って便利ですね。その体が羨ましいです」
僕の指を見ながら、エラリーちゃんがフリッパーをパタパタさせて悲し気につぶやく。




