19. アノマリー・フォー襲来
コックピットに乗り込むと、高密度流体が充填される。
アジャイルクラフトの初心者向け訓練の場合は、厳つい耐圧スーツを着用するのだが……。
「体内の圧力と同調させた方が効率いいんじゃないの?」とキンジの気楽な発言のせいで、液体呼吸する羽目になってしまった。
うーん、地球でも実用化されてるけどさ。宇宙機はまだなんだよな、これ。実験動物の気分だ……。
訓練を繰り返し行い、流体への香りづけにも拘って、ようやく違和感なく呼吸できるようになった。
自動的にプリフライトチェックが進行、カタパルトに移動。今日はリキッドコックピットの初実戦運用となる。
ちなみに、360度回転コックピットは全機に搭載済みで、僕の実戦テストの結果が良好なら、リキッドコックピットも順次採用されることになっている。
戦闘機部隊の指揮官、ファリア大尉も絶賛していた。これがあれば人工知性に頼らずにすむと。
高G機動ができないことに、思うところがあったんだろうな。
アタラちゃん……アタラ大佐との回線を開く。
「アタラ大佐、こちらフラッシュ。発進準備よし。状況説明を求む」
『フォリナー・フラッシュ、こちらアタラ大佐。今回の侵略者は……アノマリー・フォー。映像を送る』
モニターに映るアタラちゃんの顔色が悪い。厄介な敵なのか。以前、第一次元から第七次元まで、一通りアノマリーのレクチャーを受けたが、第四次元の侵略者については、口が重かった気がする。
殺意にまみれた殺戮機械って感じだったよな? 何でも喰らって増殖する奴。確認されている航宙タイプは百メートル級の雲丹みたいな外見だ。
リアルタイム映像が送られてきた。やっぱりでっかい雲丹だ。ガラス細工っぽい見た目。
映像を見るかぎりでは既知のタイプのようだ。まあ、油断はしないがな。
「映像を確認した。以前、資料で見た既知のタイプと特徴が一致しているようだ。意見を求む」
『はい…惑星ヘンラージャに侵攻してきた敵と同じ奴です……』
「了解。排除する」
『くれぐれも気をつけて……フラッシュ』
やはり変だ。任務中の口調じゃない。
カタパルトから射出。そのまま敵に向かう。アタラちゃんの様子が気になって、バレルロールをする気にもなれない。
コックピットの情報表示は最小限に設定。敵勢力の位置を示す方向指示だけに留める。脅威警告は肌感覚に変換する。背中がピリピリすると背後から狙われているということだ。
試行錯誤の結果、このスタイルが僕に一番合っていると思った。
このデカい雲丹は、やや高機動なタイプだ。0.31Gのリミッターがかかった戦闘機では、ギリギリ勝負になるくらいの相手だ。だが僕は一味違うぞ。
僕は、専用機セブンス・ファントムのおかげで、人工知性を超える耐G能力を獲得した。彼らの知性を支える量子立方格子は脆いのだ。8Gを超えるとギブアップする。
後方より戦艦の援護射撃。大出力レーザーで敵が溶断される。戦艦部隊の指揮官、ライアス女史の乗艦からだ。
いいね。ジグザグに高速移動する雲丹に対して、正確な偏差射撃を一発で決めてみせた。
何だ? 破壊された敵の残骸に多数の雲丹が群がっている。
引き裂かれた仲間の体を貪り喰っている。こいつら共食いもすんのかよ……。
それならば、跡形も残さずに消滅させればいい。ライアス大尉に「僕に任せろ」と通信を送り、急加速で敵の一群を捕捉。
範囲指定は自動、ディメンジョンアレイの狙いをつける。
「デジグネイト」
三体のアノマリーが消滅。
「オルカ、最高効率での撃滅軌道を提示してくれ」
すでに、最適コースを飛ぶゴーストを追いかける戦法はやめた。刻々と位置を変える高機動の敵を追う場合、どうしても最適とは言い難いコースを取らざるを得ないのだ。
それならば、ある程度、敵の動きを予測して針路を取った方が確実だ。
セブンス・ファントムのアビオニクスを司るのは自律機械の「オルカ」だ。繊細な人工知性と違って、こいつは頑丈だ。オービタルなんたらとかいう、地球のアビオニクスシステムから名前を借りた。略してオルカだ。
『表示します』
前方に複雑な軌道が表示される。しかも刻一刻と変化している。リアルタイムに敵の機動をトレースしているのだ。
軌道の変化を読んで最適解を探す。よし、このタイミングだな。
一気に最大加速、背中でGを受けるようにコックピットが回転、体にかかる重力は15G、つまり機体は約12万Gで加速している計算だ。
三秒間加速して方向変換。大当たりだ。敵の主力がディメンジョンアレイの効果範囲内に丸ごと入った。
「デジグネイト」
巨大な雲丹の群れをまとめて葬り去る。




