18. 充実した日々
第八次元に来て半年が過ぎた。
僕もここでの生活に慣れ、充実した生活を送っている。恋人もできたしね。アタラちゃんのことだ。
耐Gトレーニングの指導をしているうちに、いつの間にかそんな関係になってしまった。
僕の立場も固まって、アタラ大佐と同格の「フォリナー」という立場を得た。公式の場では、フォリナー・フラッシュなどと呼ばれて少しこそばゆい。
中枢構造体セガンタが保証した立場でもある。
これまでに僕が戦ったアノマリーは、第六次元と第五次元からの招かれざる客だ。
第六次元は昆虫型。最初に僕が戦った奴だ。他のタイプもいるそうだ。蟹っぽいのとか。
第五次元はフラクタル構造の集合体だ。動きを見ていると落ち着かない気分になってくる。妙に生物的だったり、幾何学的だったり。
今、キンジと二人、1Gブロックのラウンジでお茶を楽しんでいる。
僕はセガンタのことを巨大な人工衛星と認識していたが、キンジによると、それは違うと言う。
「セガンタはね、あたしたちの中心的存在で、ここで散っていった人々の墓標なのよ」
セガンタは、ここで生きた人たちの記憶と想念の結晶だという。
そして、壬皇はセガンタの代弁者だ。僕は結構失礼なことを言っていた気がする。マズいな。
「ちょ、そういうことは早く言えよ。無礼討ちとかされない?」
「ないない。あの人工知性はずっと壬皇役をやってたせいで調子に乗ってるのよ。たまには痛い目にあった方がいいくらい」
はあ、超ビビった。あのふよふよ天使、人工知性の中でもお偉いさんなのは分かっていた。でも、いじり適性が高すぎて、ついやり過ぎちゃうんだよな。ノリもいいし。
「そうか……。で、壬皇を手玉に取ってるキンジって何者?」
「あたしは、ただの調整役よ。言わば社会の潤滑剤ね」
「ああ、いたいた。レーシングカレッジの面接で、レース業界の潤滑剤を目指しますって言ってたやつがいた。サラリーマンかよって思った」
「何よそれ。馬鹿にしてるの?」
「違う違う。オオサンショウウオのくせに、キンジって苦労人なんだなって思っただけ」
「フィー! やっぱり馬鹿にしてるんじゃない!」
「キンジ、おまえ疲れてるんだよ。たまにはゆっくり休んだほうがいいよ」
こいつ本当に怒りっぽいな。
『アノマリー警報! アノマリー警報!』
おっと、キンジと戯れている場合じゃないみたいだ。
「僕はハンガーで待機する」
キンジに言い残し、移動ポッドでハンガーに向かう。
ハンガーには「セブンス・ファントム」と名づけた僕の愛機が待っていた。機体色は深紅だ。専用機といえば赤だろう?
「整備班長、リキッドコックピットの調整は間に合った?」
フォリナー部隊には僕以外の人間はいない。代わりに多くの自律機械たちがサポートしてくれている。
「整備班長」は、初出撃のときに僕を気遣ってくれた自律機械の班長だ。直接口説いて部隊に入ってもらった。
「はい。完璧に仕上がっています。これはいいアイディアですね」
そう、あくまで初心者向けで、レースには使えないシステムと軽く見ていたが、途方もない推力を持つセガンタの戦闘機には当てはまらなかったのだ。
第八次元の技術力の前には、コックピットに充填する流体の質量など誤差に過ぎなかった。それなら使わない手はない。綿密に計算して設計したリキッドコックピットの完成だ。
結果、数分だが30Gという高Gに耐えられるようになったのだ。
「ありがとう。助かる!」
「いえいえ、フォリナー・フラッシュ。あなたの活躍に期待しています」
「その呼び方やめて……」




