17. 【閑話】遊園地で訓練しよう
最近、フラッシュとアタラちゃんがよく一緒にいる。今日も、広大な1Gブロックの片隅にあるラウンジで語らっている。
あたしの見た目は地球の両生類をベースにしてるけど、高重力環境で暮らす生き物並みに強化してるから、1Gなんてへっちゃらだ。暇をみてはこの辺りを結構うろうろしてるかも。
「アタラちゃん、思考実験「シュレーディンガーの猫」は、もともとニールス・ボーアをプギャーするために考えたんだって」
「そうなの?」
「そうそう、他にも「哲学的ゾンビ」を使った煽りとかもあるんだよ」
「へぇー、どういうの?」
「それはねー……」
何か教育に悪いことを教えているようだ。って、いつの間にかアタラちゃん呼びになってる!
それに、アタラちゃんの対応も気軽な感じで親しげだ……。
あたしには堅苦しい態度を取るのにさ。
「フラッシュ。アタラちゃんに変なこと教えないでよ」
これはよくないとフラッシュに注意する。
「壬皇近侍閣下!」
アタラちゃんが立ち上がって敬礼する。かしこまらなくていいのに……。
「地球仕込みの煽りを教えてるとこなんだけど。キンジも聞く?」
フラッシュがだらけた姿勢のまま返事をする。おまえは立てや、コラ。
「いいえ、結構よ。何をやってるんだか……」
「真面目な話だよ。第三次元からの侵略者はエリス? ってのを仕掛けてくるんだろ? その対策として教えてんだよ」
「ふーん、その割には楽しそうね」
「そりゃ楽しいさ。アタラちゃんは可愛いからな」
「……まぁ」
アタラちゃん、そこで頬を染めないで……。
「それで、アタラちゃんの重力馴致は順調なの?」
「ああ、普通の生活はもう大丈夫だな。転ぶこともなくなった」
「フラッシュにはよくしていただいております」
あら、もう呼び捨ての関係なのね。
「これから、遊園地で軽い訓練をする予定だ」
「ふーん、絶叫マシンにでも乗るの?」
「それは、まだまだ先だよ。今日はティーカップの予定だ」
「ティーカップ?」
「友人とか家族と一緒に遊ぶアトラクションだよ。ほれ、こういうやつ」
フラッシュから模式図が送られてきた。なるほど、茶器に見立てた乗り物か。
真ん中のハンドルを手で回すとカップが回転する単純な仕組み……。
何これ、おもしろそう。
「あたしも連れてってよ」
「いいけど、キンジは一人で乗れよ。おまえ重いだろ」
「フィー!」
怒りで思わず息が漏れた。
「どうどう。そういえば見た目より軽いんだった。そんなに怒んなって」
「フラッシュはあたしの扱いが雑すぎるわよ!」
「そうよ、フラッシュ。今のはあなたが悪いわ」
アタラちゃん、もっと言ってやって!
「それでは、閣下。遊園地に向かいましょう」
「そうね、一緒に行きましょうか」
フラッシュを放置して二人でGOだ。
アタラちゃんと一緒に遊園地に向かって歩いていると……。
後ろからフラッシュがついてくる。
「いいね、体幹が安定している」
アタラちゃんを眺めながら、そんなことをつぶやいてる。何か下心を感じるのよね、あいつ。
フラッシュを無視して歩き続けていくうちに、ウキウキするような音楽が聞こえてくる。
遊園地のBGMね。「遊園地には楽し気な音楽が流れてるもんだ」とかフラッシュが偉そうに言ってたっけ。
入場ゲートをくぐるとさまざまなアトラクションが目に入る。
あたしが目を奪われている間に、フラッシュにアタラちゃんをかっさらわれた。
「待ちなさい、フラッシュ。アタラちゃんはあたしと乗るの!」
「何言ってんだ。訓練だぞ? おまえにインストラクターが務まんの?」
あ、そうだった。訓練って言ってたわね。それなら仕方ないか。一人で乗ろう。
大きなティーカップがたくさん並んでいるアトラクションに向かって二人は歩いていく。
今度はあたしが二人を追いかける。
これがティーカップね。気の抜けるようなファンファーレが鳴って全体が回りだす。
ハンドルを回すと、それぞれのカップが回るのね。遠心力でシートの方に体が押される。なるほど、これで訓練するのね。
それならばと、力強くハンドルを回してみる。おお、体がシートに押し付けられる。
楽しくなってきて、ぺぺぺぺぺぺっと目にも止まらぬ勢いで回すと、手がハンドルから引きはがされてシートの背もたれに張り付いた。もう何もできませーん。
「フラーッシュ、止ーめーて―!」
遊園地にあたしの絶叫が響く。




