16. トレーニングルーム
四人の中隊長との顔合わせが終わり、三人で移動ポッドに乗っている。
「フラッシュ、1Gブロックの居住施設が一棟建ったわよ。そこに住む?」
「おお助かる。0.31Gだと足腰が鈍るしな」
そういえば、ずっとハウスレスな生活をしていたな。ここに来る前は半年以上も拘置所で暮らしていた。
自分の部屋をもらえるのは素直に嬉しい。
「そうね。中隊長たちも1G順応改造を承諾してくれたし、施術が終わったら1Gブロックに住んでもらうわ」
「私も転居してよろしいですか?」
アタラ大佐も引っ越してきたいようだ。
「もちろんよ、アタラちゃん。フラッシュ、しっかりとお世話しなさい。変なことしちゃダメだからね」
「何だよ、変なことって」
「地球人の男って性欲モンスターなんでしょ? あたし知ってる」
「心外だよ。そういうのは思春期真っ盛りの色ボケ猿だけだ。一緒にするな」
「大丈夫ですよ。壬皇近侍閣下。フラッシュ様はいい方です」
「そうだぞ、キンジ。おまえ、僕に厳しすぎんだろ」
「もう、アタラちゃん。フラッシュに甘いんだから……」
「はいはい、この話は終わり終わり。アタラ大佐、これからトレーニングルームに行かないか?」
「はい喜んで」
「キンジは……どうでもいいや」
「フィー! あたしもついてく!」
移動ポッドの行き先をトレーニングルームに再設定。すぐに到着。
「おー、いいねいいね。さすが壬皇、いい仕事をする。さすじん」
トレーニングルームを見回しながら言う。
「フラッシュ……。それ、エヴェラントで言ったら吊るされるわよ」
「マジか。怖すぎるんですけど……」
「それだけ慕われてるの。神の幼体よ?」
「おまえが作ったんだろ。勝手に神様なんか作るなよ」
「必要だから作ったに決まってるでしょ……」
「そういうもの?」
「フラッシュ様。この世界は滅びに向かっています。壬皇閣下の存在は希望なのです」
「希望の象徴としての神か」
「そういうこと」
ドヤ顔のオオサンショウウオってムカつくのな……。
「まあいいや……。そういうの分からんし。それよりも、早速トレーニングしてみるか。キンジはトレッドミルな」
走るくらいしかできんだろ。それと、あのわしゃわしゃ走り、どれくらいスピード出ているか、ついでに測っちまおうぜ!
「何でよ、他のをやってみたい!」
「ええ……。他にキンジが使えそうなのがあるかな?」
「あれ! あれやりたい」
よりにもよってラットプルダウンかよ。
「おまえ、背筋鍛えてどうすんの」
「いいの!」
座席に座らせてウェイトを調整してやる。こいつ百キログラムくらいありそうだな。負荷七十に設定するか。
さて、始めようとすると、バーに前足が届かない。下ろしてやろう。
「ほれ、このバーをつかめ」
「はーい」
キンジがバーをつかむと、するすると吊り上げられていく。体重の見積りを誤ったようだ。
「おまえ、見た目より軽いのな」
「フィー! それ、レディーに言っちゃダメなやつでしょ!」
「はいはい、これくらいか?」
三十に下げてバーを持たせると、キンジが猛烈な勢いで上げ下げし始めた。違う、そうじゃない……。こいつは放っておくか。
オオサンショウウオの表情なんて読めないが何か楽しそうだ。
「お待たせ、アタラ大佐。君はレッグプレスをやろう」
手持無沙汰にしていたアタラ大佐に声をかける。
「はい!」
うん、いい返事。
アタラ大佐はまず足腰を鍛えるところから始めなきゃな。
身体状況をモニターしながら、適正な負荷をかけてトレーニングをすること。これが重要だ。
このマシンは、レーシングカレッジで採用している高性能なレッグプレスを参考に作ったものだ。
アタラ大佐の生理機能に対応したモニタリングシステムを搭載した、言わば大佐専用機だ。
「座席についてベルトを締めてくれ。そこに足を入れると固定される。しばらくは勝手に動くからマシンに任せてね」
まずは、ストレッチモードで数分間様子を見る。マッサージチェアみたいな動きをして全身のストレッチを行うモードだ。
その間、血流や関節の負荷を計測して、最適な状態になればトレーニング開始だ。
「息を吐きながらゆっくりと足を延ばして……。そう、そんな感じで」
現在の設定はかなりの低負荷だ。
「アタラ大佐、トレーニングが終わったら通知される。それまでは続けてくれ。そうだな、十五分くらいかな。お喋りでもしながら気楽にやろうか」
雑談をしながら、ゆっくり慣れてもらおう。
「はい、分かりました。何を話しましょうか?」
「そうだな。キンジはアタラ大佐に甘いようだけど、どんな関係なの?」
「壬皇近侍閣下は私の命の恩人です。甘やかしてくれるのは、私が頼りないせいでしょうか……。いつも気を遣っていただいています」
「ふーん、アタラ大佐はしっかり者に見えるけどね。もっとキンジに甘えてもいいんじゃない? あいつそんな顔してた」
そう、サンショウウオの表情は分からない。だけど雰囲気がそんな感じなんだよね。
「恐れ多いことです。閣下の職務は広範囲に渡ります。これ以上、苦労をおかけするわけにはいきません」
「そっか。アタラ大佐がそう言うならいいけどさ」
もっと仲良くなりたかったが、僕が無遠慮に踏み込んでいい話題ではなかったようだ。
おっと、トレーニング終了のチャイムが鳴った。




