名前の由来
新章(成長期編)開始記念
「ミチルって……どなたですか?」
ある日、リーゼッテが真面目な顔をして尋ねてきた。
私は意味が分からなくて「は?」と問い返す。
「どなたって……あの青い魔鳥だが」
「もちろん、そ、それは知っています」
では、どういう意味だろう。
首を捻っていると、リーゼッテはずずっとこちらに近寄った。
「よほど、お、思い入れのある名前なんですよね?だって社長がわざわざ鳥に付けるんですもの。ま、まさか、恋人……ですか?」
「はあっ?!」
今度は、さっきより大きな声で返してしまった。
恋人?
ミチルが?
「何を言っている。青い鳥といえば、チルチルミチルだろう。まあ、結局は人名だが、由来はそっちの方だ」
「チルチル……ミチルゥ?」
まさに鳩が豆鉄砲を食らった顔で、リーゼッテが呟いた。
「え?知らないのか?メーテルリンクの青い鳥」
「メ、メーテルリンク??え、えと、な、なんの話をしているんですか?」
ちょっと待ってくれ。
有名な話だと思っていたが、知らないのか?
私はリーゼッテに、メーテルリンクの青い鳥の話をした。リーゼッテは、まったく知らないとのことだった。
うーん……だからミチルという名を聞いて恋人だと思ったのか。
「ん?では、前に秘書子が私のことを前世の記憶持ちでは?と疑っていたとき、ミチルの名は日本人名だと思っていたのか?」
「そ、そうですよ。だって、ふ、普通はそう思うじゃないですか。アスワドは、なんか聞いた覚えがあるんですけど……ど、どういう意味ですか?あと、アスラさまも」
思わず、がっくりした。
つまり、ほとんど分かってなかったってことじゃないか。
「アスワドは、アラビア語で黒という意味だ。アスラはインド神話で鬼神のことだな。仏教に取り入れられ、阿修羅となった」
「へーえ!……ていうか、しゃ、社長、ネーミングセンスないですねー」
「ほっとけ」
無いのが分かっているから、あちこちから取っているんだよ。いいじゃないか。
すると、リーゼッテはふいに声をひそめて、そっと私に囁いた。
「で、でも、アスラさまには名前の由来は、ひ、秘密にしておいた方がいいですね」
「何故だ?」
「澄んだ響きの、よ、良い名だろう!と自慢されていたので……」
そうか。
鬼神は間違っていないと思うが……もしかすると気を悪くするかも知れないな。
うーん、そのまんまのサタンやデビルにしようと一瞬思ったことは、リーゼッテにも内緒にしておこう。その名にしなかっただけ、かなりマシなんだけどなぁ。
「……ああ、そうか!白雪姫にしておけば良かった」
「ええー、そ、それはちょっと、ムリがありすぎます」
「そうだよな。毒林檎を食べても平気そうだし。いや、美食家だから、そもそも食べないか?」
「あと、お、王子さまがキスしようとしたら、その前に飛び起きて、この不埒者が!って、お、怒りますよ」
確かに。王子、殺されるかも知れん。
「どちらかといえば、毒林檎を持っていく継母の方だな……」
「ですねぇ」
私とリーゼッテは、こっそり顔を見合わせて小さく笑った―――。
>2024年11月08日活動報告より




