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■ ゼロ転生 ~ こぼれ話 ~  作者: もののめ明


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忠犬のひとりごと(アスワド視点)

リンがアインベルガー家に雇われて間もない頃の話。

 ワレの名はアスワド。

 ニンゲンから、“イワオオカミ”と呼ばれているマジュウである。長くサバク地帯の岩山でくらしていた。

 数多くいるイワオオカミの中で名前をもっているのは、たぶんワレくらいだろう。ニンゲンの言葉がわかるのも、おそらくワレくらいではないだろうか。とても、ほこらしい話である。


 なぜ、ワレがほかのイワオオカミとちがって、名前を得、かしこくなったか。


 それは、わがアルジのおかげだ。

 力のあるアルジがワレに名をさずけたことによって、ワレはさらなる進化をとげたのである。

 強きわがアルジの名は……リン。

 ニンゲンの、まだ幼体である。

 幼体だが、強くてかしこくて、その上、やさしい。

 何より、イワオオカミのリーダーであったワレを、そのコブシ一つで従わしめたすごいニンゲンなのだ。


  ※  ※  ※


 さて、あるとき急に主との間に壁ができた。


 世界のどこにいても、我は主が喚べば跳んで行ける。喚ばれずとも、主が危険なときは察知して行くこともできる。

 なのに、主の存在は感じるのに、妙な膜のようなものが主の周りにかかって、主の声は聞こえず、我もまた主の元へ行けなくなったのである。

 我は焦った。

 毎日毎日、主の元へ行こうと試し続けた。

 主との間に壁ができたときくらいから、急に力も増したのに……何故、主のそばへ行けないのか。

 我の主への愛が足りぬせいかもしれない。

 我は必死で挑戦を続け―――そしてとうとう、壁を打ち破ったのだった!


 で、その壁の原因は。

 ……我よりもはるかに高位の存在によるものであった。

 主は、驚いたことに原初の悪魔さえ従わせしめたらしい。さすがである。

 ところが主の新しき下僕である白き悪魔は、我を見るなり侮蔑の眼差しを向けた。

 まあ、それは仕方がないかも知れない。悪魔から見れば、我の存在など蟻んこに等しいのだから。

「「「犬っころよ。そなた、目障りじゃの。主殿の寵愛を受けるは、妾一人で充分じゃ。()ね」」」

((わ、我は主の第一の下僕。たとえ貴方様のような方でも、従わぬ))

「「「……跡形もなく消えたいかえ?」」」

((我を消せば、主は貴方様を赦さぬと思う))

「「「くっ……な、生意気な犬っころめ!!」」」

 凄まじい圧に押し潰されそうだ。

 だが、生意気といわれようと。

 事実は事実である。我は主から愛されている。後から来た悪魔に、あれこれ言われたくはない。

 一歩も引かぬ我に、結局、悪魔も渋々引き下がった。

 我が、主に愛されていることを直感的に分かったからであろう。

 ちなみに、のちに悪魔は主から獣の姿を与えられるが、借りの姿ゆえに我ほど鼻が利かぬらしい。主がときどき、義理で愛情を向けていることに気付いておらぬようだ。

 それと、我のように主の感情も分からぬらしく。

 面倒だと思われていることも知らぬ。

 ふっふっふっ。

 たとえどれほど高位で強かろうと、それだけで主の愛は得れぬのだ!

 ……しかし。

 主からの愛情が薄いのは、下僕にとって己の身を切られるより辛いことである。だから我は悪魔には教えずにいてやっている。

 なにせ我は優しいからな(決して、悪魔の報復が怖いからではない)。


「アスワド。明日から、しばらく帝都の内側で仕事をしてくる。良い子で待っているんだぞ」

「うぉん」

 ふむ。

 朝の日課がなくなるのか……。

 主が待てというならば、我はいくらでも待つ。とはいえ、そばにいられないのは悲しい。最近、主の下僕となった鳥は連れて行くのに、我は待てとは。

 我より、鳥に寵愛が移ったとは思わぬが……とにかく早く帰ってきて欲しいと願うばかりである。


 ―――その2日後の夜。

 白き悪魔に呼ばれた。

『主殿は、しばらく帰らぬのかえ?』

((街の内側に行くと言われていた))

『む?あの、気分の悪い結界の内か。何をしに行ったのじゃ』

((仕事、と))

『仕事!また仕事かえ。まったくもう、主殿は何故、働くのが好きなのじゃ。主殿ほどの力の持ち主が働くなどと……』

 悪魔はカッと目を見開いて怒ったが、ふいにシュンと俯いた。

 白い耳も力無く垂れる。

『はあ。妾より、仕事か……毎晩、一緒に眠っておったのに、夜さえ帰らぬようになるとは……』

((……主は好奇心が強いゆえ。仕方ない))

『分かっておるわ。エラそうに言うでない』

 またキッと睨まれた。ただ、いつもほどの覇気はない。

 我もその気持ちは痛いほど分かるので……そっと悪魔の頭を舐めた。

『な、何をする!犬っころが気安く妾を舐めるでないわ!』

((主は、まだしばらく帰ってこられぬであろう。待てと言われた以上、勝手におそばへ行く訳にもいかぬと思う。……なので今宵は、我の腹を貴方様に貸しても良いが))

 赤い瞳が丸くなった。

 じっと我を見てくる。

『……同情かえ?』

((我も淋しい))

『…………』

 悪魔は黙り込み……やがて、項垂れて我の足元まで来た。

『さっさと横になるのじゃ。犬っころに上から見下されるのは気に入らぬ』

((了解した))

 我は頷き、素直にごろりと横になる。

 小さな獣姿の白き悪魔は、すぐに我の腹辺りに潜り込んだ。

『主殿が帰ってくるまで、犬っころが可哀想だから付き合ってやるだけじゃからな』

((承知している))

『主殿には内緒だぞ』

((分かった))


 ―――主。

 我も白き悪魔も、主がいないと本当に淋しいのです。早くお戻りになるよう、祈っております……。

なんだかんだ言いつつ、仲が良い犬と猫。

二匹が寄り添って寝ている姿を見たら、リンはほっこりしそう~。

(リンがアスラと契約したことにより、アスワドの知性(?)も上がりました)


>2024年06月24日活動報告より 更新遅れのお詫びSS


※ アスワド、初期は"岩山狼"という表記でした。そろそろ、"岩狼"に訂正しなければ~…。

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