主殿の生態記録(アスラ視点)
ブクマ650超え御礼SS
リンが帝国に来た当初の話です
我が主殿の朝は早い。
夜明けと同時に起床し、準備運動をする。“らじおたいそー”とか言う、妙な運動だ。
主殿いわく、昔からの習慣らしい。
運動が終われば、今度は街へ走りに行く。これは“じょぎんぐ”と言うそうだ。
犬っころは小さくなって付いて行くが、妾は走るのは嫌いなので行かない。
代わりに、妾は緑の髪の小娘―――エルナの元へ。
エルナは、朝が苦手らしい。いつもなかなか起きられないとよく嘆いている。そして主殿に早起きの秘訣を乞うている姿が哀れだったため、特別に妾が慈悲の心で起こしてやることにしたのである。
まずは顔を舐め、それで起きなければ尻尾で頭を叩く。
大抵、顔を舐めれば小娘は起きる。起きた小娘は大いに妾に感謝し、毎回、妾に飴玉を捧げるのであった。
その後は、階下の台所で女どもに軽食を捧げさせる(朝食は主殿と一緒に食べるのだ)。
で、主殿が帰ってくる頃に主殿の部屋へ戻っておくのが妾の朝の日課である。
午前中、エルナは店で父親を手伝いながら書類仕事をしている。
主殿はその間、店の品をあっちこっちへ運んだり、裏で洗濯物を運んだりしている。
何故、主殿がそんな召使のようなことをするのか。説明は聞いたが、正直、いまだ納得はゆかぬ。が……“働く”とカネとやらが貰えるので、働いているらしい。
そう。
ニンゲンの世界は、カネが無ければ何も手に入らぬのである。
恐ろしいことに我が力よりも、カネの方が強いと主殿に言われた。妾の力をもってすればすぐに蒸発して消えてしまう金属に、目に見えぬ凄い力があるそうだ。
実際、主殿が得たカネにより、妾は街のかふぇでものすごく美味い甘味を食べた。あれを食うためならば……不本意であるが妾とて荷物運びも吝かではない。
昼からは、主殿はエルナとともに勉強とやらをしたり、コウシャクとかいう鼻持ちならぬ男の屋敷でまなー講習を受けたりする。
……荷物運びをするのは、カネのためだと理解した。が、わざわざ、使用人の仕草を学ぶことは分からぬ。
しかし主殿は、ずっと使用人を使う立場だったので、こうやって使用人の真似をするのが楽しいそうだ。主殿は変わり者である。
ちなみに、妾は最初の1回目だけ付いて行って、その後は行っていない。家に残り、昼寝をしたり、掃除女などに妾の毛繕いをさせたりしている。
妾は主殿の手によりネコとやらの姿になったが……この毛繕いとやらが! 非常に心地良いのだ。
耳の辺りや、尻尾の付け根を撫でられると堪らぬ。
主殿、よほどしっかりネコとやらを思い描いてこの形代を作ったらしい。主殿の創造力があまりに強いがゆえに、妾はどうしてもそのネコという動物の習性に引きずられてしまう。
例えば、主殿が先にヒラヒラしたものを付けた棒を振り回したときは、それを追いかけずにはいられなかった。夢中で駆け回り、我に返ったときはどれほど屈辱であったか。あんなオモチャに妾が振り回されるとは!
……でも、主殿が楽しそうなので、たまに遊んでやるのは悪くない。
夕食を食べ、主殿は湯浴みをし、部屋へ戻ってくると街の貸本屋で借りた本を読む。
その本は、ゴラクショウセツという類らしい。主殿は、今まであまり空想や妄想の本を読んだことがなかったから、興味深いそうだ。
とはいえ、せっかくの2人きりの時間。妾の相手もして欲しい。
そこで膝の上に乗ると、主殿は優しく背を撫でてくれるのであった。
うむ、主殿の手が一番、心地良いのう。
ただ、たまに貸本に夢中で撫でるのがおざなりになるので、本を引っ掻いてやろうとするのだが……そのときは恐ろしく怒られる。それは、絶対にやってはいけないそうだ。
主殿が本気で怒ったときは、妾の胃袋はキュッと縮み上がる。
妾の主は、やはり主殿じゃの。妾を縮み上がらせる者など、他にはいまいて。
本を読み終えた主殿は、ジューナンタイソーを軽くやってから、ベッドへ入る。
そして、「アスラ、おいで」と掛け布団を持ち上げて招くので、妾は仕方のない主殿じゃと思いながら、潜り込むのであった。
妾が側におらねば眠られぬとは、主殿も案外、繊細よのう!
>2024年03月15日活動報告より




