妾の印(アスラ視点)
急に書きたくなったアスラの過去話
どこまでも荒れ果てた大地、淀んだ空気。
代わり映えのない景色をぼんやり眺めていたら、珍しい地上の果物を持ってやってきた配下の悪魔の一人が、おずおずと妾に尋ねてきた。
「何をご覧になっているのですか?」
「ん?別に……」
「この果物はお気に召しませんか」
「いや、とても美味じゃ。良いものを持ってきたの」
「良かった」
悪魔はホッとしたように笑った。
そやつは、かなり力の弱い悪魔であった。なので妾の庇護を受けるため、日頃からせっせと貢ぎ物をしてくる。
妾の傘下に入ったのなら、別に貢ぎ物がなくても妾は庇護するのだが……地上の食べ物は魔界では滅多に手に入らないため、妾は「貢ぎ物は要らぬ」と言えないでいる。
こやつは力が弱いゆえに、人間から喚び出されずとも短時間であれば地上へ出れるらしい。羨ましいことだ。
「……地上は、どこもこんな果物がなっておるのか?」
「いえ、そんなことはありません。探さないと、見つかりませんね」
「そうか。大義であった」
「白の君のためならば、造作もないことです」
褒美に、妾の血を少し分けてやる。
やつは嬉しそうに舐めた。それを眺めつつ、ふと、呟く。
「妾も一度くらいは……人間の喚び出しに応じて地上を歩いてみたいものだ」
「白の君が人間と契約……?御身に相応しい人間など、どこにもおりませぬ!」
まあ、そうであろうな。
世界が地上と魔界、天界に分かれたときから、妾は一度も地上と縁がないのだから。それでも、もし人間に喚び出されたら?とたまに想像してみたくなるのだ。
妾のそんな夢想に、配下の悪魔は付き合う気になったようである。軽く首を傾げて、
「そうですね……もし、もしも、白の君を喚び出せるほどの人間がいたとすれば……きっと、白の君の器に恥じぬ美しい見目の人間でしょうね。昔、黒の君が地上へ出たときは、かなり美麗な器であったと聞いています」
と言った。
ふむ……器の見た目は考えたことがなかったな。
「器の形なぞ、好きに変えられるからなんでも良いのじゃが……。そうじゃのう、それよりも妾の印をどこに刻むのが良いと思う?黒は、背中から腕にかけてたくさん刻んだそうじゃ。青は、顔全面に入れたらしい」
見た訳ではないので、どちらもやつらの話で知っているだけである。特に青は、自慢たらしく何度も話してきたから、聞き飽きたほどだ。
配下の悪魔は考え込みながら、答えた。
「そうですね。これ見よがしな場所は、どうかと……」
「そうよな?品がないであろ?妾なら……すぐには分からぬ、しかし気付けば強い印象を与える場所に刻むぞえ」
「さすが白の君!して、どこへ?」
ふふん。
妾は、何度もその場面を想像していたのだ。どこへ妾の印を入れるのが格好いいか。
それは……
「目じゃ!瞳に、妾の印を刻むのじゃ!」
「おお!それは……白の君らしい素晴らしい場所です!」
配下の悪魔は両手を鳴らした。
妾は良い気分で頷いた。
「そうであろう。妾の美的感覚の良さが表れているであろう!妾を大したことないと侮った者を、カッ!と睨みつけた瞬間、妾の印が輝くのじゃ!」
―――あのときは。
それがとても格好いいと思っておったのだが。
まさか、こんなほっそい目の主に喚ばれることになるとは……正直、微塵も想像しておらんかったのー……。
>2025年02月21日活動報告より




