第96話 はるまと父の背中
母さんがにらみつけるようにじっとこっちを見てる。
「えっと…二つの数字の公倍数を…」
めちゃくちゃにらんでる。
「母さん、集中出来ない」
「やるって言いながらゲームしてたからでしょ!
ゆうなちゃん待たせてるんじゃないの?」
「やるって、もうゲームしないから…
えっと次は漢字の…」
あれ?なんだ?今の?
「あれ?」
「何?早くやりなさい。ごまかされないわよ」
「ベヒーモスが居なくなった?」
「主よ。ゆうなに呼ばれた故、ベヒーモスは行ってしまった」
「どういうこと?主は俺なんでしょ?それがなんでゆうなちゃんに…」
「しゅ!く!だ!い!」
「はい!」
俺は急いで宿題を終わらせた。
「これで良い?」
「はい!オッケーよ」
「で、なんでゆうなちゃんに呼ばれて行くの?」
「ふむ、元々我等五大精霊王は全て魔王殿の契約精霊でな。
我とベヒーモスは、魔王殿の魂の継承でマーリン殿に受け継がれた」
五大精霊全てと契約してたのか…
「で、それがどうしてゆうなちゃんも主みたいになるの?」
「我もゆうな殿のことは主のように感じておってな。
おそらくだが、魔王殿の魂が二人に継承されておるので、
契約がどちらなのかがはっきりしておらんのだ」
「あ、魂の継承で俺が精霊を継承したわけじゃなくて、
俺とゆうなちゃんが継承した魂が主だけど契約はしてない状態なのか」
「そうだな。
契約はしておらぬが、我等は主だと思っておる。
だから呼ばれれば行く、命じられれば応じるとなる」
「なんだか難しい関係なんだね」
「ってか魔王って契約精霊いなくなったってこと?」
「使い魔はおったろうし、もしかしたら精霊は契約しておるかもしれぬな」
「じゃ弱くなった?」
「あのレベルの強者の戦いに精霊など役に立たぬよ」
「そうだったね。精霊の存在がかすむぐらい強いんだった」
「だから魔王殿は精霊王を役立てられる者に譲渡した」
「はるま君~!ゆうなちゃんと約束してるんじゃないの~?」
「あ、そうだった。行かないと」
俺は走って家を飛び出した。
「どこ行ったんだろうなあ」
商店街を歩いてると、ゆうなちゃんとしおりんを見つけた。
「あ、いた!」
俺は走った。
二人が入った店を見て足が止まった。
下着店だった…
「まいったな…」
店の前にいると出てくる女性客が変な目で見てる気がした。
「はるま君!こっちこっち!」
ゆうなちゃんが手を振るが入れない。
「何してんの!?」
「店の前で待ってるよ」
しおりんは呆れて笑ってる。
しばらくして二人が出てきた。
「何~?下着だから恥ずかしかったの~?」
「ゆうなちゃん、姉弟なら良いでしょうけど私もいるんだから気を使ってよ」
「うちには風呂上りパンツも履かずにうろうろする姉がいるからね。
別に下着姿見て恥ずかしいとか無いけど、中にいる女性が嫌でしょ?」
「そっか、はるま君がなんかちゃんと考えてる」
「なんだよ。なんも考えてないみたいな。
ゆうなちゃんとは違うんだから」
「はるま君はいつもちゃんと人のこと考えてるよね」
「しおりんまで、なんか私がなんにも考えてないみたいなこと言うなあ」
しおりんと俺は笑った。
「そう言えばベヒーモス来たんだよね」
「うん、来て助けてくれたよ」
「なんかちゃんと契約してないから主があやふやなんだってさ」
「そうなんだ。別に困ってないしまあ良いんじゃない?」
「適当だなあ。まあいいけど」
「じゃあ帰ろうか。はるま君荷物持って」
どう考えても二人で持ちきれない荷物。
「どれだけ買い物したのさ。俺に持たせる気満々じゃん…」
「なんで俺が全部持つのさ~」
楽しそうに二人が前を歩いていく。
「私も持つよ…申し訳ないし」
さすが、しおりんは優しいなあ。
「良いのよ!はるま君は力持ちになりたいんだから鍛えれば!」
「そうなの?はるま君」
「いっつもパパに勝つんだ!パパを倒すんだって筋トレしてたもん」
「いつの話してんだよ~」
パパが倒れる前だ。
俺にとって父さんは強さの象徴だったんだ。
なんでも出来る父さんに認めて欲しくて、勝ちたくてたまらなかった。
オセロに勝った時の感動は、今でもはっきりと覚えてる。
まあ今ならわざと負けてくれたとわかるけど…
「そういえばさ。
父さんって人にもの教えるのうまかったよね。
ゆうなちゃんがオセロ教えてもらった時も無双出来るようになったし、
腕相撲勝てないって悩んでた時も教えてもらって凄く強くなったんでしょ?」
「そうだね~オセロも腕相撲も同級生に勝てなかったけど、
急に強くなったってみんな驚いてた」
「あれは私も驚いたよ。
ゆうなちゃん急に強くなって男子にも腕相撲勝てるようになって」
「やっぱり父さんって凄かったんだろうな」
「邪神さんがアイデアマンって言ってたけど、そんな感じだったのかな」
「魔王とも話してみたいし、皇帝とも会ってみたいなあ」
「似て非なるものだぞ?奴と奴等は相容れぬ存在だった」
「うわ!びっくりした。
いつから居たのさ」
「え?はるま君の肩にずっと乗ってたじゃない」
「え?嘘だろ?なんで俺気が付かなかったんだ?
なんだかアーサーさんが急に食卓を囲んでた時みたいな感じだなあ」
「アーサーさん懐かしいなあ。
また会いたいな。
アリシンやシルちゃんとも会いたいし…」
アリシンって呼び方に俺は笑った。
最初に会った時に印象が似ててゆうなちゃんが最初そんな呼び方してたな。
「略さないでよ。
俺達もはるうまとか言われるよ」
「ほんと自由に行けたら良いのにね。
今日寝たらまたどっか違う世界なのかなあ?」
「混沌は気まぐれだからな。
地獄や餓鬼界を一日だけ見せたのも意味があるのやらないのやら」
「スイーツ食べ放題の世界また行きたいなあ」
「でも、きっとスイーツ食べ放題の世界も何かあるんだろ?
何も問題が無い世界なんてきっと無いんだ。
そう考えたらアリシアさん達の世界に呼ばれるとしたら、
問題が起こったってことになるのかあ」
「はるま、あまり気負うんじゃねーぞ。
混沌はこうあるべきって結果を求めて動かねー。
お前らに見せたいだけの可能性だってあるし、
全く意味なんかないかもしれねーからな」
「何かやるべきだって推理しても空回りする可能性もあるってことね」
「そういうこった。
何が正しいかなんて価値観で世界は動いてねーんだ」
「なんとなくわかってるよ。正義なんて価値観は無いってことだよね」
「正義のヒーローになりたいはるま君には残念だね~」
ゆうなちゃんがそう言って笑った。
俺も悪を倒す選ばれし勇者になりたかった時期があったんだよなあ。
それからしおりんの家まで行って運んだお礼にジュースとお菓子をもらった。
「これおいしいね!」
「そうでしょ?うちのママがもらったんだって」
「しおりんの部屋って凄く可愛いね」
「いいな~私も自分の部屋欲しいんだよね」
「父さんが倒れる前、
父さんの部屋を会社に移して、ゆうなちゃんにくれるって言ってたんだよね。
今貰っても良いんじゃない?母さんも良いって言ってたし」
「いやだよ、パパの部屋はパパの部屋のままおいておきたい。
起きたら、あの部屋もらうんだ」
「起きたらもらうなら今貰っても一緒な気が…」
「なんとなく違うの!」
「わかったわかった。その気持ち自体はわからなくはないよ」
「そうだね~私もわかるよ。そういう気持ち」
しおりんは優しい顔でゆうなちゃんを見る。
本当に人の気持ちがわかる良い人だ。
それから夕食前まで話した俺達は、
門限の時間ギリギリになって家に走った。
「ママに怒られる!」
手ぶらのゆうなちゃんが全速力で走ってる。
「ゆうなちゃん待って!荷物!」
家に着いた俺達は、母さんにこってり怒られて夕食後のデザートを抜きにされた…
今日寝たら起きるのは家なのか違う世界なのか…
ワクワクとドキドキが入り混じった気持ちのまま、
俺達は眠りについた。




