第95話 ゆうなと嫌な奴の良い所
「やっぱり行けなくなったね~」
朝起きていつもの天井、
樽の世界はもう終わりみたいだった。
「どうなのあれ解決したの?」
「解決したかどうかは問題じゃないのかな」
また明日質問してくれと言われたっきり…
どうせだったら聞けることは全部聞きたかったな。
「パパの器の人と話すなんてまたとない機会だったのに…
そういえば天狗さんに聞きたいことがあったんだけど、
同じ魂の人ってどういうの?正式名称?」
「正式な名前なんてねーよ。元々我等しか知らない概念だからな。
言葉ってのは人と会話する時に使うから言葉なんだ。
誰にも教える必要が無い概念に名前なんかねーんだよ。
奴は、同魂存在って呼んでたな」
「どうこんそんざい…同じ魂の存在か」
「そのままだね」
「奴が言ってただけだからな」
「あ、そうだ。
今日はしおりんとショッピング行くんだった。
はるま君、行くよ」
「え?なんで俺も?約束してないよ?」
「荷物持ちよ!どうせ暇でしょ?」
「いや…」
「行くわよ!」
「わかったよ。面倒だな」
パパに行ってきますを言ってると、はるま君がパパのお守りを手に取った。
「これってさ、なんだったんだろう」
「普通のお守りでしょ?」
「おねえさんなんでこれ持って行ったんだろう」
そう言いながらはるま君が中身を出した。
「それ出して良い物なの?」
「良いんじゃない?」
はるま君が巻物みたいなそれを広げる。
「ああ、仏壇にかかってる掛け軸みたいなあれか」
真ん中に南無妙法蓮華経と大きく書かれ、
その横に第六天魔王の文字があった。
「魔王の名前が書いてる…これって父さんのことじゃないよね?」
ほんとだ、魔王を拝んでるって意味なのかな…
「どういう意味なのか、またママに聞いてみようか」
「そうだね。じゃ行こうか」
「はるま君、宿題は?」
ママが後ろから声をかけてきた。
「あ…」
「金曜日の宿題は金曜日に終わらせるってパパと約束したんでしょ?
昨日疲れたから、土曜日の朝にやるって言ったのは誰?」
「え~はるま君荷物持ちだったのに~宿題終わったら来てよ~?」
「わかった~」
私は、はるま君を置いてしおりんと約束の場所へ向かった。
一人歩いていると、大きな爆発音が聞こえた。
走って角を曲がると、精霊同士が激しくぶつかり合う姿が目に飛び込んできた。
片方はウンディーネ、はるま君に毎度絡んでくるキーホルダー壊した奴だ。
相手のノームの刃で腕を斬られて血が激しく噴き出した。
「駄目だ。止めよう」
私は意識を集中する。
私を中心に魔力の流れを止める力が展開されていく。
その瞬間、二柱の精霊がこちらを見た。
明らかに怒りを剥き出しにこちらに向かってきた。
「あれ?なんでそんなに怒って…」
二柱の精霊が私に向かって襲い掛かってきた。
「なんで怒ってるの?邪魔されたから?」
怒り狂った精霊の波状攻撃で全身から血が噴き出した。
「もう駄目、これ殺されるかも!」
その瞬間、ベヒーモスが目の前に現れた。
はるま君?振り返るが誰もいない。
ベヒーモスが相手の精霊を蹴散らしてくれた。
「ありがとう!はるま君はどこ?」
「主は自宅にいる。
主が危険だと思い、馳せ参じた」
「はるま君も私も主って言うの?どういう感じ?」
「それがわからぬのだ…
我は元々魔王殿と契約しておったゆえ、正確にはマーリン殿とは契約しておらぬ。
魂の契約が継承された主と主がおって…」
「混乱させること聞いちゃったのかな。
ごめん。でもありがと。
自然エネルギーみたいなものを弱めたら精霊がおとなしくなるかと思ったんだけど…
難しかったみたい」
「それは精霊が怒るのも無理はないな。
人間で言えば大気中の酸素を奪う者が現れたようなもの」
「なるほど、それは殺してでも止めないと大変だ」
「とにかくありがと!」
「それじゃ…」
私はキーホルダーの奴に向き合った。
こんなやつどうなっても良い。
そう思ったけど、私は聖女だからね。
最近はそういうことにしている。
「大丈夫?」
手を取り癒しの力を注ぐ。
傷が治っていく。
放置したら死んでたかもしれない出血量だ。
少し時間がかかったが後も残っていない。
「ありがと。なんで助けてくれたんだ?」
「別に、知らないやつでもないしね。はるま君とも仲直りしたんでしょ?」
「でも、俺お前のキーホルダー…
あの後聞いたんだ大切な物だったって、はるまが起こった理由も…」
「ママが治してくれたし良いわよ。なんで喧嘩してたの?」
「俺さ、はるまに言われてから,
精霊の力を悪用しないようにしようって周りに言っててさ。
やっぱりそういうこと言う奴って煙たがられるからさ。
イフリートに教えてもらった練習法で強くなったつもりだったんだけどな…
それにしても、ねえちゃんもすげーのな」
「そっか、良い活動してるんだね。頑張ってね。
困ったことがあったら行ってきなさい」
「ありがと。あ、ねえちゃんこれやるよ」
見るとエイガクのカードだった。
「レン様だ!これって結構レアなんじゃない?」
「そうなんだけど、キーホルダーのお詫びにあげようと思って持ち歩いてたんだ」
「そんな貴重な物もらえないよ」
「いいから受け取ってよ!」
私はそれを受け取りながらパパとのやりとりを思い出した。
「嫌いな男子が居てね!本当に嫌いなの!むかつく!」
「その男子は良いところないの?」
「ない!本当にむかつく、見たくもないし話したくもない」
「じゃーパパとゲームしよう。
明日一日その子のことを観察して良い所を一つ見つけてきて」
「え~無いよ~良い所なんて!」
「そう言わずに、見つけたらゆうなちゃんの行きたいところ連れてって上げる」
「やった!わかった!」
それで次の日、一日観察しててわかったんだ。
人の悪口ばっかり言う奴だったけど、悪口言う前に凄く人のこと観察してるって。
観察してたまに人が気が付いてない所で助けたりしてるのを見て、
意外と良い奴かも?って一瞬だけ思った。
一瞬だけでやっぱり嫌いだったけど…
でも、この子も意外と良い所はあるのかもしれない。
そうだ、嫌な奴の役目で存在してる人間なんていないんだ。
「ありがと!また困ったことがあったらいつでも相談乗るからね!」
私は少し幸せな気持ちになってしおりんの元へ向かった。
「ゆうなちゃ~ん!こっちこっち!」
しおりんを見つけて走り出した。
「待った~?あで!」
豪快に転んだ私は擦りむいた膝を見ながらさっきの怪我を思い出した。
さっき精霊に切られた怪我も致命傷って感じじゃなかった。
本気で怒ってたけど、滅茶苦茶に殺そうって感じでもなかったな。
精霊って思ったより温厚?
いやでもイフリートさんは人を殺すことに抵抗が無さそうだったな。
―― 第四章 完 ――
動き出した樽の世界。
父の同魂存在から初めて得られた情報。
全ての同魂存在から封印を願われた父。
これまでの世界で見聞きしたものは、
ゆうなとはるまに何をもたらすのだろう。




