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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第四章 解脱

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第94話 はるまと邪神

「私は、この樽のシステムを作った神と呼ばれる存在だ!


みんなすまない。私達は間違いを犯してしまった」


突然帰ってきた神様は私達の話を聞くと、少し任せて欲しいと言った。


樽を返せと騒動を起こす人たちの前に現れた彼は、

自分を神だと言いながら間違いを犯したと謝っている。


これは…矛盾していないか?


そう思った俺は驚いた。


さっき死亡して運ばれてきた人の死体を引きずりだして民衆の前にさらす。


「これを見てくれ。やせ細って苦しそうな顔だろう?


樽に入って死ぬと地獄に落ちる可能性がある。


必ずとは言わないが、かなりの確率だ。


私の理論が間違えていた。


君達は樽に入っても高確率でこうなる。


それを承知の者は、既存の樽が空き次第入ってもらう。


ただし…こうなる」


強烈な脅しだ。


幸せになれる理論が間違えていたとはっきり断言した。


しかも自分が間違えたとその間違いを自分一人で全部背負って。


これは…


だが彼は涙を流しながら続ける。


「こんな姿になって地獄に落ちた彼に誓おう。


間違いを犯した私は神から邪神へ落ちることで責任を取る!


そして間違えていたとはいえ、樽に入りたい諸君を止めはしない。


ただし、地獄に落ちても良いと言う誓約書、説明会への参加、資格取得のために講習会や審査を受けてもらう。


高確率で地獄に落ちる君達にせめてもの対応をさせて欲しい。


詳細は追って通達があるが、リリスとモモカが責任を持って対応させてもらう。


邪神となった私の失態の後始末を彼女らに任せるのは心苦しいが、

リリスとモモカに協力してやってくれ」


場はどんよりとしている。


きっと死んで天国へ行く希望が無くなったことに対する絶望だ。


数人が声を上げた。


「そんな…」「嘘だろ…」


「ならどうすれば幸せに死ねるんだ」


「邪神である私は君たちに幸せになってもらいたくはないが、

幸せに死ねる方法は、幸せに生きた人間にしかわからない。


幸せに生きるために、善行を積め!


エインヘリャル七号機が発見された。


他も探す必要がある。


探して中にいる八万の民を救え。

そうすれば邪神である私にとっては憎き神が君達を幸せな死へと導くだろう」


誰も文句を言わない。


「それしかないのなら…」

「幸せに死ねる保証が無くなったなら…」


そんな声が聞こえだした。


「わかった」と言う声が聞こえた。

「協力しよう」と言う声も聞こえた。


そして一人、また一人と去って行く。


でも残った人はいるし、「それでも入りたい」と言う声も聞こえた。


「邪神である私は、君達を地獄で待っている!


樽に入る諸君!また会おう!」



話が終わり引っ込む。


みんなびっくりしてる。


「あなた自分が邪神って…」


「俺が神な訳ないだろ。ちょうど良いじゃないか。


勘違いさせたまま、間違えた考え方だけ正してやれば良い。


天国も地獄もないだろ。どっちでも良いんだよそんなもん」


「パパなら言いそう」


俺もそう思った。


父さんっぽい。


邪神って完全に魔王ポジションだ。


やっぱり父さんはどの世界の父さんもそんな感じなんだな。



「邪神さん。凄いね。


リリスさんやモモカさんがやろうとしてたことを短縮して二人に託した」


「凄いのは二人だよ。


制度を整備したのは俺じゃない」


「私は嫌です!あなたが邪神と呼ばれるなんて!」


「私だって嫌よ!勝手なことしないで!」


「二人ともわかってないな。


俺は神なんて言われる柄じゃないだろ?


俺を神だなんて崇める人間は地獄に落ちるんだよ」


おねえさんに教えてもらった父さんが言いそうな言葉だ。


おねえさん凄いね。


おねえさんの言うとおりだったよ。


「聞きたいことがあるんだけど、私達のこと知ってる?」


ゆうなちゃんが率直に聞いた。


「知ってるよ。俺の娘と息子だろ?」


「あなたに子供が?」


「一体いつ?誰との子供?まさか!」


モモカさんとリリスさんは、お互いを見て首を振る。


「いやいや、正確には俺の子供ってわけじゃない」


「それを知ってるんですね」


「そりゃ知ってるさ。同じ器に入っていた仲だからね」


「パパは、あなたの中に入れたの?空じゃない器に…」


「それが出来る多分この世で唯一の存在だったんじゃないかな。


亡者君も驚いてたろ?


俺達が共に器に入るには、まだ数億年早いって」


「私の器が何故封印されたか聞いても?」


「あ~うん、それは…駄目かな。約束だから」


「約定?」


「あ~亡者君はそう言ってたな。破ると亡者君に殺される。俺の大切な人が」


「代償か…」


「そうだね。亡者君の約定は絶対だから」


「父さんが封印された理由も一緒だよね?」


「それは言っても良いんじゃなかったっけ?」


亡者は何も答えない。

黙って目を瞑っていた。


「俺達が対価として要求した」


なんて?俺達?この人が父さんを封印させた?


「俺達って?」


「俺は彼の頭の中で感じたぐらいで直接は知らないんだけど、

魔王って言われる奴とか皇帝とか、

なんだったかなルートとか…他は忘れた」


「パパの器の人達がパパの封印を望んだってこと?

パパがそれに応じたってことですか?」


「そう、彼には自らを封印してでもやりたいことがあった。


君達の為だとだけは言っておい...あがあああああ!」


急に頭を押さえて呻きだした。


「それは約定違反に近い警告だ。


お前は約定を甘く見ていないか?」


「はーはーはー、悪かった。


はーはー、申し訳ない。


く、気を付けるよ」


今また思い出した。


そうだった、こいつら滅茶苦茶怖い存在なんだ。


「その辺りが約定だってのはよくわかったよ。


身体を張って教えてくれてありがとう」


「役に立てて…嬉しいよ」


なんなんだ。


俺達の器を封印したことと言い、

自分の器を封印しろと言った邪神たちと言い、

自分の器を封印するのは嫌じゃないのか?

ルールがわからない。


「何故パパを封印させたかったの?」


「それは答えても良さそうな気もするけど、勘弁してくれないか。


今の、君が思ってる以上にきついんだよ。


自分の存在が保てなくなる」


本気で怖がってる。


確かに、亡者達の約定に違反した警告が、ただの頭痛なわけない。


「ゆうなちゃん、これ以上聞かない方が良いかも」


「せっかくパパのこと知れるチャンスだったのにな」


「言っても良いことを亡者君に確認しておくよ。


また明日にでも聞いてくれ」


「ありがと!邪神さんは良い人ね!」


「あなたが取り乱すところ、初めて見た気がするわ」


「良い物見れたわ。あがあああって良いわね」


「お前ら俺になんか恨みがあるのか」


「自分が邪神だなんて言って逃げて、

私達に邪魔くさいこと押し付けて退場しようってんでしょ?」


「許さないわよ」


「めんどくせーな。


元々俺が書類仕事とか嫌いなの知ってんでしょ。


審査とか講習とか出来るわけねーんだよ」


「私達に関係ない質問なら良いんだよね?」



それから邪神を交えてこの百年の報告会みたいになった。


モモカさんの百年の孤独、リリスさんの百年間培った希望。

邪神が神になった神話の話。


沢山の話を聞いた。


邪神さんは時折、謝りながら涙を流して喜んでいた。


みんなが未来を、希望を見て進んでいたことが嬉しかったんだろう。



第六天の魔王と言われても笑っていた父さん、

多数決取れば史上最悪の存在と言われる父さん。

父さんが何をしたのかまだわからない。


でも、この人の人格に父さんが見えた瞬間。

何をしていても父さんを信じられる。


そんな気がした。


夜中まで話をして一緒にご飯を食べて笑いあい、

俺達は眠った。

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