第93話 ゆうなと樽に入る理由
「樽を返せ~!俺達の樽を奪うな~!樽に入る権利を尊重しろ~!」
モモカさんとはるま君が旅立ち、私とリリスさんで留守番をしていた。
モモカさんの留守で樽の生産が止まり、
今日以降樽に入る予定だった人達が押し寄せている。
モモカさんが居ないので、対応が出来ない。
「樽に入りたいなら黙って待っていなさい。
樽を待てない人間に樽に入る権利はないわ!」
ロボが急にモモカさんの話し方をまねて話し始めた。
「マスターモモカならそう言ったと思います」
「ああ、なるほどそう言えば良いってことね。
でも樽に入れるつもりないから嘘にならない?」
「マスターモモカは居ませんから決定していません。嘘ではありません」
「詭弁な気がするけど…まあ良いわそれで行きましょう!」
リリスさんが扉の方に歩き出した。
「私が言うわ」
ドアを勢いよく開けると大きな声で言った。
「グダグダ言わないで黙って待っていなさい。
待てない人間は殺すわよ!」
リリスさん怖い。かなり違う。
「待てば、樽に入れるのか?」
「待たなければ、入れないわ」
「入れるのかを聞いているんだ」
「聞いた人間は入れなくなるわね」
「聞かなければ入れるのか?」
「あなたは聞いたから入れないわ」
凄い強引だ。
他の人も黙る。
「他に質問は?聞いても良いわよ?」
「樽の生産は再開されるのか?」
「あなたは聞いたから入れなくなったわ」
「じゃあ何も聞けないじゃないか」
「何?質問?」
「いや、なんでもない」
「そう、用は無くなったようね」
すごい、たたみかけるように事態を収束させた。
「リリスさんって、樽社会の管理人向いてそうだね」
リリスさんは身震いさせながら拒絶する。
「冗談じゃないわよ。絶対いやよ。
私はこんな社会最低だと思ってるからね。
私達がどんな思いでこの百年生きてきたか」
「そうだよね。
樽に入るために頑張って生きてるから、
生きることに対する意欲が無いわけでもないんだけどね。
なんか変なんだよね」
「どうしようかなあ。
樽に入らず頑張りましょう!じゃわかってくれないわよね」
「無理だろうね。
あのさ…まずどうなれば良いのか考えようか。
リリスさんはどうなって欲しい?」
「樽なんて無くなれば良いと思ってるわ。
でも樽が必要だって人から奪いたいわけじゃない。
ただ、やっぱり樽に入りたいって人は気持ち悪いわね」
「気持ち悪いって気持ちが奪い理由にならないとは思ってるわけだよね?」
「そりゃそうね。私が気持ち悪いと思ってるだけで悪ではないもの」
「そもそも気持ち悪いと思ってるのってなんでだろう?
樽に入る人もしっかり考えて、樽しかないと思って入ってるかもよ?」
「まあそれなら…でも全部がそういう人じゃないんでしょ?」
「そうね。樽に入るのに審査とかあって、考えてるかのテストをするとかは?」
「ああ、なるほど、良い落としどころかも」
次の日起きると見慣れた天井だった。
戻ってきた。
隣を見るとはるま君が寝てる。
はるま君が私より遅く起きるの珍しい。
「おはよ~はるま君、朝だよ」
全く反応が無い。
死んでないか鼻に耳を近付ける。
生きはしてるようだ。
「ママ~はるま君起きない~」
私が朝食を食べてる間にママがはるま君を起こしに行った。
「起きないわね~。仕方ないからゆうなちゃんだけ学校行って」
「ずるいな~私も寝てたら良かった~」
「馬鹿言ってないで早く行きなさい」
「は~い!」
いつも通りパパに行ってきますを言いながら線香に手を合わせる。
パパを見ると、首に下がったお守りが戻っていた。
「おねえさん来たのかな?」
なんとなくそのお守りが気になったが、学校に急いだ。
学校が終わりしおりんと下校してると前を歩くはるま君を見つけた。
私達に気が付かず、ぶつぶつ言いながらトボトボ歩いていた。
「精霊なんて未知の物が急に出てきたのに、
日本の警察ってすごいよな~優秀な人がたくさんいるんだろうな」
遅刻して学校に行ったはるま君が難しいことを言ってる。
遅刻罪で逮捕してもらおう。
「はるま君を逮捕出来てないのに?」
「あれはこの世界のことじゃないから良いんじゃない?」
はるま君は逮捕と言えばそっちか。
しまったと思ったがはるま君はそれほど気にしてなさそうだ。
いや、気にしてないのも困る。
違うな気にしてないふりしてるだけだ。
「良くないから気にしてるんでしょ?」
はるま君は何故わかったのかって顔してるけど、姉ですからね。
それから家に帰ってしおりんの提案でパフェを食べに行くことにした。
はるま君が彼と呼ばれる人を神様と呼びだしたことを聞いた。
パフェを食べながら、そろそろ神様に会えそうだと。
パパは自分が神様って呼ばれたら、
「俺を神なんて呼ぶ奴は地獄に落ちる」
って言うだろうっておねえさんが言ってた言葉を思い出した。
生きてる人を神様って呼ぶのって危ないとも言ってたな。
おねえさんは言わないだけで、
パパのこと神様と思ってそうだけどと思ったけど、言うのは辞めといた。
しおりんの両親はやっぱり反対してるって話を聞いた。
そりゃ神の研究所爆発して消え去ったから、心配する気持ちはわかる。
あまり進展する話も無く、
でもはるま君がチョコレートパフェで元気になったから良かった。
次の日、リリスさんと食事をすることになった。
「オムライスね。食事はエインヘリャルとあまり変わらないわね」
「あの中でもこんな食事が取れたんだね」
「植物も家畜も、自給自足するための準備は万全だったからね」
「ロボさん、樽の食事持ってきて」
「はい、わかりました」
ロボが樽のお弁当箱を持ってくる。
「それ、樽の人が一日に一回食べる食事、どう思う?」
「なにこれ!ひどい!」
「ね?私達が食べてるのは外の食事、
これ食べてる人がこのお弁当食べる世界に行きたいって変だよね?」
「そ、そうね。
これ何なのか。
気持ち悪くなりそうな食事ね」
「何が間違ってるのかわからないんだよね。
そうまでして入りたい人が入りたいのを止めるべきなのか」
「なんだろう。理解出来ないから嫌なんだろうか。嫌でも…」
「樽しかないと思ってる人の樽しかないって気持ちが、偽物だったら、
樽以外のもあるよって教えてあげるのが良いのかも」
「なんか難しいわね。
でも、そうか。
樽しかないと思ってるけど、本当は樽以外もあるよって教えてあげれば良いのかも」
「私のパパが言ってたの。
理解出来ない人の気持ちを理解する必要は無いって。
理解出来ないことを理解するのが必要だって」
「彼も言いそうだわ。
樽に入りたい気持ちは理解しなくても良いから、
樽以外もあるよってことをわかってもらえば良いんだわ。
それでも樽しかないと思う人は樽に入れば良い」
わかってもらえる方法を色々話合ううちに、
審査や説明会、資格制度等いろんな案が出てきた。
「それではまとめて資料を作ります」
ここのロボは融通は利くし、制度の穴とかもちゃんと理解してくれる。
便利だし家に連れて帰りたいな。
「はるま君とモモカさんいつ帰ってくるのかなあ」
「どうかしら、彼は山で隠遁生活って言ってたけど、見つからないのかしらね」
「神様~!神様まだ~?」
子供達は、神話の創造神に会いたくて毎日騒いでる。
神にあったら、幻滅するのか崇拝するのか。
「あんまり実在の人物を神様って言うの良くない気がするなあ」
リリスさんは少し笑いながらため息をついた。
「実在しなくなってると思ってたからね」
全てが想定外だったんだ。
お互いに状況を間違えた状態で百年は長かったんだろうな。




