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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第四章 解脱

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第91話 ゆうなと樽

「樽って馬鹿じゃないの?


あんたたち何やってんの?


彼はどうしちゃったのよ!


あなた達を救世の神だと祈りを捧げる子供にどう説明するの!」


一面に広がる樽を見て、リリスさんが怒っている。


モモカさんは辛そうにうつむく。


「そんな言い方ないだろ!モモカさんだってわかってたさ!


でも、あんた達も含めて全員死んだと思ってたんだ。


自分達の選択が、命がけで助けたいと思った相手を殺したんだ。


それを忘れたいと思う気持ちぐらい、わかってやれよ!」


はるま君がとても怒ってる。


きっと、モモカさんの気持ちがよくわかるんだ。


私はそっとはるま君の肩に手を置いた。


「リリスさんもきっとわかってるよ」


たぶん五万の兵士を殺した自分を投影して見てる。


私が思う以上にその傷は深いはずだから…


それをさせた私自身もこれを他人事じゃないとは思ってる。


「わかっては…いるけど…


子供達は、彼を創造神だと毎日祈りを捧げてる。


あなた達も、新世界を作り私達に希望を与えた神なの。


どんな顔してこれが神がやったことだと言えば良いのよ…」


「この樽の計画は、彼が発案したの。


でも第一陣を展開する時に、彼は迷った。


これは、自分達が殺した子供達への冒涜なんじゃないかって…


リリスに未来を託した自分達が、リリスを殺した上に逃げても良いのかって…


だから、彼は実行される直前に姿を消したわ。


それでもやるべきだと主張していた私に、

馬鹿を全員樽に入れたら自分の所に来いと言い残して」


「彼がこんな案を…何故…」


「さっきから神だ神だと言ってるが、

神が万能ならそもそも全員救っただろうがよ。


神じゃないから迷うし間違うんだろう!」


世界の構造を考えれば彼はきっとパパだ。


それは私もはるま君もなんとなくだけどわかってる。


そのパパの考え方、完璧じゃないとはるま君が口にした。


私は無意識に、無言ではるま君の頭を撫でていた。


「な、なに?」


はるま君が驚く、私も驚いて笑ってしまった。


「とにかく、否定しないでお互いのあったこと整理しよう。


その彼が何を考えてたのかとかわからないことは一旦置いておいてね」


「そうね。百年もお互い交流が無かったんだもん。


ちょっと聞いただけで一方的に批判し過ぎたわ。


モモカ、ごめんね。


お互い辛かったはずなのに…」


「ううん、良いのよ。


私も思慮が浅かった部分あるし、ちゃんと全部話すね」


「まず百年前に核がエインヘリャルを破壊したと思ったあの日、


彼も私も、全ての人が絶望につぶれた。


そりゃそうよ。

自分達が全員死んでも守りたいと思った子供達を、

私達自身の選択で檻に閉じ込めて殺した。


そんな状況に耐えられるほど私達は強くなかった。


幸いだったのか誰も彼を責めなかった。


その選択をした自分だけが悪いと思ったの。


全員が自分だけが悪いと思った結果何が起こるかわかる?


全員自分が死ねば良いと思ったのね。


それを相談する相手も自分が死ねば良いと思ってる。


誰も止められない自暴自棄の波は世界を覆っていったわ」


「そんな…」


「思った以上にみんな良い人だったの。

自分を押しつぶすほどの優しさってあるのね。


こんなことになるなら、俺を責めてくれたら良いのにって彼は毎日言ってたわ。


でもそう言われても誰も何も言わなかった。


俺が殺したんだ。こうなる可能性は最初から少しはわかってた。


なんて言い出した時はどうしたんだろうと思ったけどすぐわかったわ。


彼は自分を憎んで欲しかったの。


でもそんな彼を責める人間は最後まで現れなかったの」


「責めて欲しかったんだろうな。


きっと、彼が一番自分が悪いと思ってたんでしょ」


「そうね。でもみんな自分を責め続けた。


でもね。自暴自棄になった人がたくさん現れると争いが起こるのよ。


どうでも良いから殺してくれって、やたら喧嘩を吹っ掛ける人。

関係ない罪でも良いから罰して欲しいと、盗みを働く人。


子供を殺した罪の意識を薄れさせるために、

関係ない人間を殺そうとする人まで現れた。


世界は混乱していった」


「ひどい、誰も悪くないのに、みんな悪くなっていくなんて」


「そんな世界を憂いて彼はある提案をした。


それがあの樽よ。


人との関りを絶って、自分の罪と一人で向き合うための仕組み。


賛同者は殺到したわ。


そして、樽は外界とのつながりを絶ち一人で考え死んでいく装置となったのよ。


死が救いになったの」


「……」


私は、かける言葉が見つからなかった。


逃げる装置、そんな言葉を使って良いほど簡単な話じゃないし、

これを救済ととらえるほど割り切れる話でもなかったから。


「でも、彼は言い出した瞬間から悩んでた。


これは逃げだって、こんなことをして死んでいった子供達に顔向け出来るのかって...


同時に死者に報いることなんて生者には出来ない。

だから逃げても良いとも考えてた」


「それは…そうかもしれないけど、幸せを放棄して死んで幸せってのも…」


「そうね。


だから実際に運用する直前に彼と彼以外でぶつかり合っちゃってね。


彼は、救済措置としての樽は認めるけど、それを世界の全てにしちゃいけないって…


だからもしかして、樽に入る人が全部入った後、

樽に入らなかった人たちと、

新しい世界を作りたかったのかも」


「生き残った子供達が居たって知らせたら出てきてくれるかな?」


「それは難しいと思うわ。


最初の意図通り純粋に樽に入った人は食事もとらずほとんどが早々に死んだのよ。


今入ってる人は大半が戦争を経験してない人、

戦争を経験しててもただただ自分がこもりたいからこもってる人がほとんどよ」


「そうか。


やたら怒りっぽい人が多かったのは、

自分勝手な人しか樽の中で長く生きていないから?」


モモカさんが笑った。


「そうかもしれないわね。


だから、私も樽の運用に意味を見出せなくなって、

機械的に流れ作業をするロボになった。


あなた達二人と出会うまではね」


「あなたは人という存在を忘れていましたからね」


ロボが話す。

アマテラスのロボより人に近いんだよな。


合理的じゃないロボはこうなるんだな。


モモカさんは笑いながら続けた。


「実際に樽に残ってる戦時中の人間は、

彼に投獄された富豪や政治家といった腐った人間たちよ。


自分達の命欲しさに子供より自分を優先しようと言ったやつら、

そういう意味ではここは刑務所の役目も担っているの。


いつしかこの樽は、罪を償うために一人で苦しむ装置から、

罪を洗い流して幸せに死ねる装置に意味を変えていったのよ」


「だからあんな食事だったんだ…」


私は思い出して吐きそうになった。


「そうね。だから私は食事があれでも改善しようと思わなかった」


モモカさんがとても楽しそうに笑顔で話した。


「事情はわかったわ。


そしてやっぱり、事情も知らず怒鳴ってごめんなさい。


でも、やっぱりこの状況おかしいと思う」


「そうね。こうなるとなんとかしないとね」


「でも、樽自体は置いておいても良いってことだよね。


囚人は囚人と知らずに入ってくれてるわけだし」


「そう。問題は樽に入りたいって思想をなんとかすること」


「それ一番難しいんじゃない?」


「そうなんだよな~樽!駄目!ならイフリートで焼き払えば良いんだけど」


「焼き払うって…」


モモカさんもリリスさんも本気で引いてる。


「はるま君それ駄目だよ。乱暴すぎる」


「わかってるよ。やらないよ」


やらないじゃダメなんだ。

これ以上はるま君がそっちに行かないようにしないと。

これは今後の課題だなあ。


「もし、罪悪感で入ってる人が残ってたとしたら、

生き残った子がいるってことは次の絶望を生むかもしれない」


「だから樽には触れない方が良い…と」


「そう、彼の言葉を借りるなら、

樽に入るような馬鹿には樽に入っていてもらった方が良いってこと」


「モモカさんもなかなかひどいね」


みんながその一言で笑った。


実際ひどい話してる。


でもこれで良いのかもしれない。


少なくとも私は、そう思えたんだ。


「あなた達に会えたからヴァルハラに行けたしエインヘリャルを発見出来た。


ありがとう、そして彼の言葉の意味も考えることが出来た。


少しわかった気がするわ。


私は彼を探しに行く」

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