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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第四章 解脱

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第85話 ゆうなと幸せな死に方

樽の上で目が覚めた。


はるま君がどの世界だったらどこを目指すとか言ってたな。


樽の世界だったら、川を探せだったかな?


「川?どうやって探せって言うのよ。


やっぱりはるま君は小さいから詰めが甘い」


周りを見渡すと太陽を背にした方向に山があった。


山…山?今探したいのは川だから関係ない。


「関係ないってことは反対ってことでしょ」


私は山の反対側、太陽が昇っている方に進むことにした。



太陽に向かって歩いて十分ぐらい経ったところで樽が無くなった。


たぶん、はるま君が樽で起きたなら樽が無くなった所が合流地点になるはずだ。


はるま君が樽で起きてなくても、私がいる樽を目指すはずだ。


だからここで待つことにする。


はるま君を迷子にするわけにはいかない。



端っこにある樽に腰掛けて、一時間ぐらい経っただろうか。


樽を渡って走ってくる人影が見えた。


「はるま君?」


私は立ち上がって手を振った。


樽から樽に飛び移りながら何かを置いている?


私はその人影の方に走った。


「はるま君…じゃない」


私はがっかりしたが、とりあえずその人に話しかけてみることにした。


「こんにちは!何してるんですか?」


「食事の配達ですよ!急いでるんです。すいません」


そのまま行ってしまいそうなその人を追いかけて私も走った。


「樽の中の人に配達?出前みたいなものね。


それがお仕事なの?」


「そうですよ。私はまだ樽に入れないので、頑張って働かないと」


「樽に入りたいの?退屈そうだよ?」


「樽の中が幸せなんですよ。みんな入りたいんです。


私の仕事は食事を配達して、食事が放置されてた場合に中を確認することです」


「確認?」


「生死の確認ですよ。


病の場合は食事を部屋の中まで運んで食べられるようにしてあげます。


うまくお世話係になれれば、次は私が入れるかもしれない」


「なんで樽に入りたいの?」


「それが幸せに死ぬ方法だからです」


「家族と一緒にとか思わないの?」


「思わないですね。


今だって家族のことで悩むことがたくさんあるのに」


「そうなんだ…しまった!


さっきまでいたところがわからなくなった」


「あなたが話しかけてきた場所なら向こうですよ」


「ありがとう!じゃあ邪魔しちゃ悪いし行くね」


私は指さしてくれた方に戻った。


「はるま君が迷子になって泣いてたら大変だ」


話しかけるとすぐに怒る樽の中の人より、

配達のお兄さんの方がずっと幸せそうに見えた。


ますます、樽に入りたい理由がわからない。



元の場所に戻って樽に腰掛けてから、さらに一時間ぐらい経っただろうか。


お腹がすいてきた。


「この樽の上のご飯食べたらどうなるんだろう?」


そもそも盗まれたりはしないんだろうか?


前に郵便配達の人が配達せずに捨てていたってニュースを見たことがあった。


そういうことが無い世界なんだろうか?


私はじっと小さなお弁当箱のようなそれを見た。


涎が出る。


いや、駄目だ。


これは人のものだ。


これを食べると万引きと一緒だ。泥棒になってしまう。


でも…お腹がすいた。


周りを見ると沢山の樽の上にご飯が置かれている…


こんなにあるなら一つぐらい…


いや違う。駄目だ。これは樽の中の人のものなんだから。


「しまったなあ。あのお兄さんに話しかけなければ知らないで済んだのに…」


「あ、違うよ?


知らないで食べたなら良いじゃないって意味じゃないよ?


いくらお腹がすいたとはいえ、さすがに人の物は盗らないよ~」


そう言いながら私は少しお弁当箱の方に座りなおした。


「この世界の人はどういう物食べてるのかな~


気になるな~調査しないとな~」


そう言いながら私はお弁当箱の蓋を少しだけ開けた。


「なにこれ!」


思わず声が出る。


これは…

毒々しい色をした豆が五粒ほど入ってる。

それにチューブから絞り出した歯磨き粉みたいな物。

山盛りの得体の知れない粉…


アマテラス社会の食事も嫌いだったがこれはそれ以上だ。


あれは合理性の結果、栄養素を必要な分取るための食事だった。


これはなんだろう。なんて言うんだろう。


たぶん刑務所でももっと普通の食事を食べるだろうし、

これを食事と呼ぶのもどうだろう。


これしか食べられない人からこれをつまみ食いして奪うのはちょっとあり得ない。


「いや、元からつまみ食いしようなんて思ってないからね?


いやでも待って…

前に黙れと怒ってた人や樽の上に座る人はそんなに痩せてたわけでもない。


これが凄い栄養持ってるってこと?パパに聞いた仙豆ってやつかな?」


これを一日百食ぐらい食べるとか?


だとしても足りると思えない。


ますます刑務所のような場所に思えて、

こんな樽に入りたい理由がわからなくなった。


そして…

「お腹がすいた」


お腹がすいて何もする気が無くなり樽で寝転がったまま時間が経ち、

そのまま日が暮れて私は眠ってしまった。



夜中にふと目を覚ます。


寝ると起きない私は、自分が起きたことに少し戸惑った。


何故起きたんだろうかと周りを見渡すと、

樽の向こうに沢山の人影があることに気が付いた。


樽の端からだとずいぶん距離があり何をしているのかはわからないが、

キャンプファイヤーのようなものが見えた。


なんだろうかと気になった私は近付いて行った。


陽気な音楽が聞こえ、その周りで踊る人達がいる。


その中の一人が私に気が付き、他の人達に合図を送った。


見つかっても大丈夫なのか心配になったが、彼らは笑顔で近付いてきた。


「やあ!どうしたんだい?」


「何をしているの?」


「みんなで踊っているんだ。


俺達は幸せになるための樽に入れないからね。


せめて踊って気持ちを晴らそうってわけさ」


絶対に樽の中よりこっちの方が幸せだろう?と思ったが、

他の世界の人の幸せの基準に文句を言うのはやめておいた方が良いと、

はるま君が言ってた言葉を思い出した私はそれを言うのをやめた。


「そ、そうなんだ。みんな楽しそうね」


「楽しいよ。でも幸せではないんだ」


「幸せってどういう状態?」


「仏の道に近付くってことかな」


「樽に入ると仏に近付くの?」


「そうだよ!君も樽の方から来たんだろ?樽の中にいたんじゃないのかい?」


「樽の中にはいたけど...ちょっとなんで樽にいたのかわからなくて」


「君は~不思議なことを言うね。


記憶喪失とかかい?解脱したのかもしれないね。


僕にはわからないけど」


「解脱?」


「そう、樽の中に入るのはね。


人間社会から隔離されて浮世を離れることが目的なのさ。


知らないけど…」


「知らない…んだ?」


「そうだね。


僕たちはまだその権利が無いから、わからないんだ」


「じゃあ、こっちの方が幸せ…かもしれない?」


「それはないさ~」


「ない…んだ?」


「だって、そうだろう?


人とのことで悩むために生きているんじゃないだろ?


なんのために?宇宙と一体になるためさ!


知識とか人としての悩みなんて物から解放されて、

自然と、星と、一体になることこそが幸せに死ぬための条件さ」


「幸せに死ぬ…生きるじゃなくて?」


「そこからかい?


死んで次の世界に行くことが、人の幸せの条件だろう?」


幸せに生きることすら考えていない?


「次の世界って?」


「それはもちろん、より高位の存在になることさ」


「神様…みたいな?」


「そうだね。神、仏、完全なる者だ」


この人が何を言っているのか理解したくない。


なんだか気持ちが悪い。


「わかった…それであなた達にはその資格が無いから、

今は踊って楽しんでるのね。


それは…良いことだと思う」


「わかってくれたかい。良かったよ」


「さあ、君も踊ろう」


踊るのは嫌いじゃない。


私だってアイドルやってたんだ。


それから私はみんなにまざって、楽しく踊った。


「なんというか…その…ユニークなダンスだね」


「ありがとう!」


やっぱり踊るのは楽しい!



気が付くと数時間踊り続けていた。


私は疲れ切った身体を引きずり、

樽が並ぶ場所まで戻った後、

倒れるように眠りについた。

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