第83話 はるまと戦う方法
校舎が…消し飛んでる。
あれは何年前だろう?
魔王がトゥルールの宮殿を消し飛ばした。
あの時に見た惨状に似てる。
朝一番で俺達は神の研究所へ向かった。
あの後何があったのか確かめるために。
そこで見たものは…破壊したとかじゃない。
文字通り消し飛んでる。
「あの場にいた人は?」
沢山の人だかり、テレビも来てるが、
話題になってるのは校舎消失。怪奇現象扱いだ。
校庭に研究所の人達がいる。
その中にバハムートの姿を見つけた俺達は走って駆け寄る。
バハムートがアリシアさんだった女性に必死に何かを語り掛けている。
「だからあのようなことをしてもらっては困ると…」
「わ、わかりました。ご、ごめんなさい。あれは私がやったのではなく」
イフリートがまた嫌そうな顔をしている。
ベヒーモスは出ても来ない。
「バハムートよ。彼女の意思ではないのだ。そう言ってやるな」
「おお!イフリートよ。
彼女のせいではないとはいえ、彼女の魂が発端であるがゆえにだな」
「すまぬがバハムートよ。
我が主の話す時間をくれぬか」
「おお!これはすまぬ。はるま殿であったか?
貴殿の時間を奪おうなどとは思っておらんのだ。許してくれ。
さあ存分になすべきことをなすがよかろう。
我が何か答えようか?質問があればなんでも言うがいいぞ?
イフリートはしっかり働いておるか?」
「だ、大丈夫だよ!少し彼女と話をさせてもらおうね」
「おお、存分に話すがよかろう。我は…
なんじゃイフリート?離せ…なんじゃと言うておろう」
バハムートはイフリートに促されて少し離れてくれた。
「きみは…アリシアさんじゃないんだよね?」
「私の名前はまどかです。
この神の研究所の創設者の娘です」
「もしかして…昨日殺された?」
「なぜそれを?おそらくは…」
そう言って彼女は他の研究員を見た。
研究員は目を伏せる。
「昨日撃たれたのが彼女のお父さんってこと?
撃った人は、アリシアさん、彼女の身体に憑依してた人に殺されたよね」
研究員は驚いて顔を上げた。
何故知っているのか?じゃないな。
何故ばれているのかって顔だ。
「ゆうなちゃ~ん!はるまく~ん!」
おねえさんがやってきた。
「あら、あなたは、まどかちゃんね!お久しぶり」
「この方々がゆうな様とはるま様ですか」
他の研究員達は俺達のことを元々知っていたようだ。
俺達は少しだけ場所を移して、
他の研究員に聞かれないように昨日からのことを話した。
「なるほど、彼が…まどかちゃんのお父さんが亡くなったのね。
優秀な研究者だったわ。どれほど助けてもらったか」
「死ぬ直前に言ってたよ。
おねえさんと違う道を行きたいわけじゃない。協力し合おうって…
それをあいつらが…世界の覇権がどうのと…
そんなくだらない理由で…」
「それをくだらないと言えるはるま様は、お強いですね」
「彼らは、君がお父さんとぶつかっていると、
お父さんを殺したことも君の意思だとでも言うかのような言い草だった」
彼女は目を伏せ悲しげに話し始めた。
「父は純粋に人のためになると思った研究をしていただけでした。
しかしいつからか、権力とのバランスを取り出して…
見る人が見れば、純粋な研究員とぶつかる私でしょう。
別の人が見れば、権力を追い求めた男とぶつかる私でしょう」
なるほど、善や悪に振り切った人じゃないからこそ、
ぶつかる相手によってはどちらとも見えるってことか。
いや、違うか。
そもそも善や悪に振り切った人間なんて存在しないよな。
「バハムートがまどかちゃんの契約精霊になったことはわかったんだよね?
バハムートは精霊の王、世界を滅ぼせる存在だから気を付けてね」
「そのような恐ろしい力…」
「昨日、まどかちゃんに宿った人格って記憶あるの?」
「はい、恐ろしい力が湧いてくると同時に精神が閉じこもる感じ、
あれが何なのかはわかりませんが」
「なるほどね。あの人の方が怖いからね」
「それは理解出来ました」
「友達になれる?私達に協力してくれる?」
「基本的には…そのつもりです」
「さて、あなた達はこれからどうするつもり?」
おねえさんに聞かれた研究員は互いに目を見合わせた。
その時、突然何かが投げ込まれ煙幕が張られた。
「きゃ~!」
ゆうなちゃんの声、涙が出て何も見えない。
「ベヒーモス!ゆうなちゃんだけは絶対守って!」
「承知した!」
いつもの土壁が作られる音がした。
「なんだこれは!クソ!」
「離して!離して!」
ゆうなちゃんの叫び声が再び聞こえた。
「グオーーーー!」
聞きなれない雄叫び、バハムートか?
爆風のような強烈な風が巻き起こり、煙幕が一瞬で消え去った。
目が痛いのを我慢して少しだけ目を開ける。
銃を持った軍隊風の兵士が周りを取り囲んでいる。
「手を上げろ!君たちは最重要危険人物として、
無力化するためのあらゆる手段を許されている」
俺はいらだちを隠さずに威圧する。
「お前らは初手を間違えた。
最初に手を出したのがゆうなちゃんでさえなければ、話にはなったかもな」
「何を!政府に逆らうか!」
「知らなかったのか?
俺はゆうなちゃんを守るためなら五万人以上殺せるんだぜ」
次の瞬間、無数の銃声が鳴り響いた。
ベヒーモス…は何もしない?
兵士が銃を手放してる。
今の銃声は兵士の銃を撃った?
誰が?
「辞めろ!辞めろ!全員銃を下ろせ!暴走し過ぎだ」
軍服姿の立場は高そうな男が手を叩きながら間に割って入った。
「何してんの君たちは?手出し無用の政府方針に逆らってるのはお前の方だろ」
「しかし、このままにしておいてはあまりに危険!」
男の軽い言葉使いが一気に声色を変えた。
「その理屈なら強い奴は死刑ってか?
それを決めるのはお前じゃねーって言ってんだろ!」
男はこちらに向き直ると深々と頭を下げた。
「申し訳ありませんでした。
政府にあなた方と事を構える意思はありません」
「わかった。俺はここにいる誰も傷付かないならこれ以上何も求めない」
「これは貸しよ。
ゆうなちゃんに叫び声を上げさせただけでも、
あなた達に殺される理由が出来ると言ったはずよ」
おねえさんは彼らのことを知っていたのか。
「はい、聞いてました…し。理解しておりました。一部の者を除いてね。
しかしですね。罪を犯した者を強いからという理由だけで見逃すことも出来ない」
それを聞いたおねえさんが、まどかちゃんを隠すように前に立ち反論した。
「研究所の責任者が殺された。
殺した男は、校舎と共に消失した。
消失は、異能の力と思われるが、誰がやったかは不明。
今はそれで納得なさい」
「まあ、それしかないですかね。
あなたにはたくさん借りもあることですし…」
「私達三六九機関は、創始者の娘であるまどかちゃんを保護、
残った研究員をコントロールするため受入れる用意があるわ。
これ以上問題を深くしないためにも、そういうことで収めて頂戴」
「わかりました。
では残った研究員はあなたの管理下に委ねます。
私もその方が安心だ。
それでいいですね?」
男の言葉に研究員がそろってうなずく。
なんだかわからないが、全員殺す覚悟を決めた俺はやっぱりまだまだ子供だ。
この人にはかなわない。
―― 第三章 完 ――
互いに繋がりだした十界。
謎が明らかになるたびに深まる謎。
止まらない世界の変容に、
ゆうなとはるまの成長は止まらない。




