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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第三章 現世

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第82話 はるまと隻眼の乙女

「あ~気持ち悪い、気を抜くと吐きそうだ」


イフリートに憑依してる感じなのだろうか、

なんとも言えない爽快感と不快感が同時に襲う。


「ここが神の研究所か」


三階建ての元小学校。


廃校になり長いこと使われてなかった学校を買い取ったそうだ。


おねえさんの機関よりはずいぶん小さいか。


「よし。入ろう」


時間は21時ぐらいだが、受付には普通に人がいた。


もちろん無視して奥に進む。


見えてないとは思いつつも、やっぱり緊張する。


どこに行けばいいかわからず、

うろうろしていると職員らしき人が話しているのが聞こえた。


「いよいよ今日だってよ」


「俺達は給料もらえればどっちでも良いけどね」


「そうは言っても、最初とはやることがえげつなくなってるからな」


「八百万の神って言われても、実感もくそもねーもんな」


話してる内容は全然わからない。


「お~い!そろそろ会議始まるぞ~!」


会議…わからないがついて行ってみる。


大きな教室、教卓に立つ一人の男が語りだした。


「彼女のやり方に異を唱えて飛び出したとはいえ、

三六九機関に敵対する意図は無かった。


だが、ここ最近の我が研究所の活動はどうだろう?


自らを神と称え、選ばれし者だけが幸せになる未来に意味はあるのだろうか?」


この人がおねえさんの機関を飛び出した首謀者の一人だろうか?


自分達を神と呼ぶことを良しとはしていないように聞こえる。


「神の力を持つ我々が導かなければこの国は世界の覇権を奪えない!」


一人の男が立ち上がった。


「そうだ。君のその消極的な姿勢が、

いまだに三六九機関の一人勝ちを許す一番の原因ではないのかね」


もう一人立ち上がる者が…


「違う!


三六九機関には我々の想像を超える力があるんだよ!


覇権などと言っていては、世界の覇権どころか我々の存在すら危ぶまれる」


「私はそうは思わないね。


元より今行っているお嬢様の覚醒が終われば、

我々は他の追従を許さない力を手に入れるはずだろう」


「その力を行使すれば、最終戦争へ突入してしまうことが何故わからないのだ!」


どう考えてももめてる。


戦争すら辞さない征服派と、

三六九機関と同じような歩みを求める穏健派ってところか?


「私は君たちのような危険思想を持った人間とは共に歩めない。


危険思想を排除するか、袂を分かつか、今こそ決めようではないか」


ドン!その瞬間大きな銃声が鳴り響いた。


「な、なにを…


お前達は…そこまで…」


教卓の男が打たれた。


打ったのは最初に立ち上がり覇権を取ると言った男だった。


「掃除したまえ。


我々はもうこのような弱気な人間にトップを任せてはおけない」


ド~~~ン!


大きな爆発音、廊下に出て確認する。向かいの校舎から煙が上がっている。


「まさか…やっかいなことになりそうだ」


イフリートが何かに気が付いて焦っている。


恐れている?精霊王が?


「諸君!お嬢様が覚醒されたようだ。


確認に行こうではないか」


その場にいた人間が全員部屋を出ていく。


俺はそれよりも先に爆発が起こったであろう部屋に入った。


「な…なんだこれ」


ゲームに出てきたドラゴンか?


龍であろうリヴァイアサンとはまた違う。


「バハムート、五柱の王の一人だ」


イフリートの動揺が俺の精神を揺さぶる。


「強い?勝てない?」


「強い…が、わからぬ。


同格ゆえ戦えば、どちらが勝つだろうか。


ただ、戦いたくない相手ではある」


「逃げる?」


「主よ、心配めされるな我等は戦わぬ」


ん?なら戦いたくないとは…?


「息災だったか。イフリートよ。


何百年ぶりかな」


「出来れば会いたくなかったがな」


「そう言わんでくれ。私は会いたかったぞ」


「汝が次の主を見つけるとは思わなんだぞ」


「魔王殿に請われてな。


隻眼の大きし乙女と契約してやったわ。


しかし…」


明らかにイフリートの動揺が激しくなった。


「まあ、その話はまた聞こう」


「魔王殿は相変わらず勝手であるな。

我の都合も聞いてくれても良かろう?

突然現れたかと思えば隻眼の乙女と契約しろと言う。


我にも選ぶ権利はよかろう?

魔王殿が良いと言うに聞く耳も持たぬし、強引に契約印を押し付けおって。


我はこれでも精霊王ぞ?精霊の王に対する礼儀ではなかろうて。

あれでは魔王軍の民たちも不平不満が出るであろう?」


「バハムートよ。その話はまた...」


「汝もそう思われよう?そうであろうな?我はあれではいかんと思うのだ。


無理やり契約させたかと思えば、説明も無しに働かせおるし、

仕事も投げっぱなしじゃ。


何をすればいいのやらと迷っておったらこれであろう?


ここはどこなのだ?何も知らされておらん。


何故何も知らされずにこのようなことを、

あれで魔王と言うのだから我はどうかと思うのだ?」


「…」

イフリートが何も答えない。


「聞いておるか?そう思うであろう?少しはこちらの都合も聞いてくれなんだら…」


「こ、これが精霊?このような精霊は見たことが無い」

先ほどの研究員達が部屋に入ってきた。


「なんだこの小さき者達は、精霊精霊と人のことを精霊のように言いおって。


汝等が精霊王の格を落としているのではないか?

聞いておるのか?イフリートよ。お主に言っておるのだぞ?」


「す、すまぬ。気を付けよう」


イフリートがすごく気を使ってる。


そう言いながらイフリートは研究員にも姿を現した。


「ば、化け物!」


バハムートが笑う。


「我は精霊で、汝は化け物か!やはり品性と言うのはばれてしまうものであるな」


イフリートがうんざりしてる。


でも悪い気持ちは伝わらない。


もしかしたら、兄弟、俺とゆうなちゃんみたいな気持ちなのかも。



次の瞬間空気が変わる。


「な、なんだこのプレッシャー。


絶大な魔力、周りで飛び交う複数の精霊、覇気だけで飲み込まれそうだ」


俺はこの威圧感を放つ人物を知ってる。


隻眼の強き乙女、魔王軍にあっては弱小と言われる彼女が頭に浮かんだ。


そして、たぶんその想像は外れてない。


煙の中から女性が歩き現れた。



姿が見えると、その覇気は一層大きなものとなる。


睨まれただけで死を覚悟するその眼力。


目をそらしても感じる存在感。


初めて会った時に感じた恐怖がそのまま蘇る。


この魔力は、アリシアさんだ。


まずいまずいまずい。


アリシアさんに勝てる存在がこの世界にいるわけがない。


止められるとしたら他の魔神、でもそれが味方になるかもわからない。


敵でも味方でも、魔神が複数暴れたら…

間違いなく最終戦争の始まりになるだろう。


アリシアさんがどちら側か…


希望か絶望か、それが全てだ。



「おお!お嬢様!まさしく予想通り!素晴らしき力を手に入れられたようですな」


先ほど銃を撃った男が歓喜の声を上げる。


他の者は跪く。


「奴は?」


アリシアさんと同じ声、やっぱりだ。


この声だけで身が凍る。


「死してございます。


奴はあなたの、神の支配する世界に異を唱えましたゆえ」


「そうか…」


やっぱりあっち側なのか?


せめてアリシアさんの人格のまま来てくれたら、話ぐらいは通じただろう。


アリシアさんの力を持った神と呼ばれる存在、最悪だ。


「ならば、お前達にも用はないな」


次の瞬間、男の首が飛んだ。


「な!」


「何をなさいますか!あなたもやつのことは煙たく思っていたはず!」


「この身体の持ち主、小娘と奴の間のことは知らぬ」


「私は、あんた達みたいなやつらのことは嫌いなんだよ」


あれ?これ…もしかして…


「なあ、はるま?お前はわかってくれるよな?」


「イフリートを通した俺に気が付いてる?」


「主人も見てるんだろ?イフリート」


「ふむ、気が付いておったか」


「アリシアさんなの?」

俺がそう言うとイフリートがそのまま話す。

「アリシア殿なのか?と主が聞いてる」


「急にいなくなるからさ、シンシアが寂しがってたよ」


「なんで?どうやって?」


「それは知らね~。なんで呼ばれたのか。なんでだろうな?」


そう言いながら笑うアリシアさんは…まぎれもなくアリシアさんだった。


「はるま!」


アリシアさんが怒鳴った瞬間、俺は背筋が伸びて身体が跳ね上がりそうになる。


「はひ!?」


「なんだその声、死ぬほど眠い。私はこっちに長く居られないみたいだ。


私にやって欲しいことあるかい?」


「えっとえっと」


「眠い!早く!」


アリシアさんは俺に寄りかかってきた。


「アリシアさんのその体の人格が悪さ出来ないようにして欲しい」


「私が力を抑え込んで寝たら良いかい?」


「それで良いよ!ある程度なら俺でも対処出来る」


アリシアさんが微笑んだ瞬間、彼女を中心に魔力が爆発した。



気が付くと俺は、汗だくで布団の上に座っていた。


起き上がった俺をゆうなちゃんがじっと見てる。


身体が震える。


「急に叫んで起き上がったけど、どうした?」


「アリシアさんに会った」


「え?向こうに行ったってこと?」


「いや、アリシアさんが来た」


「え~ずるい~私も会いたかった」


「いや、世界が滅ぶかと思った」


凄まじい力だった。


精神力が完全に枯れたような感覚に襲われた俺は、

そのまま倒れるように眠りについた。

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