第82話 はるまと隻眼の乙女
「あ~気持ち悪い、気を抜くと吐きそうだ」
イフリートに憑依してる感じなのだろうか、
なんとも言えない爽快感と不快感が同時に襲う。
「ここが神の研究所か」
三階建ての元小学校。
廃校になり長いこと使われてなかった学校を買い取ったそうだ。
おねえさんの機関よりはずいぶん小さいか。
「よし。入ろう」
時間は21時ぐらいだが、受付には普通に人がいた。
もちろん無視して奥に進む。
見えてないとは思いつつも、やっぱり緊張する。
どこに行けばいいかわからず、
うろうろしていると職員らしき人が話しているのが聞こえた。
「いよいよ今日だってよ」
「俺達は給料もらえればどっちでも良いけどね」
「そうは言っても、最初とはやることがえげつなくなってるからな」
「八百万の神って言われても、実感もくそもねーもんな」
話してる内容は全然わからない。
「お~い!そろそろ会議始まるぞ~!」
会議…わからないがついて行ってみる。
大きな教室、教卓に立つ一人の男が語りだした。
「彼女のやり方に異を唱えて飛び出したとはいえ、
三六九機関に敵対する意図は無かった。
だが、ここ最近の我が研究所の活動はどうだろう?
自らを神と称え、選ばれし者だけが幸せになる未来に意味はあるのだろうか?」
この人がおねえさんの機関を飛び出した首謀者の一人だろうか?
自分達を神と呼ぶことを良しとはしていないように聞こえる。
「神の力を持つ我々が導かなければこの国は世界の覇権を奪えない!」
一人の男が立ち上がった。
「そうだ。君のその消極的な姿勢が、
いまだに三六九機関の一人勝ちを許す一番の原因ではないのかね」
もう一人立ち上がる者が…
「違う!
三六九機関には我々の想像を超える力があるんだよ!
覇権などと言っていては、世界の覇権どころか我々の存在すら危ぶまれる」
「私はそうは思わないね。
元より今行っているお嬢様の覚醒が終われば、
我々は他の追従を許さない力を手に入れるはずだろう」
「その力を行使すれば、最終戦争へ突入してしまうことが何故わからないのだ!」
どう考えてももめてる。
戦争すら辞さない征服派と、
三六九機関と同じような歩みを求める穏健派ってところか?
「私は君たちのような危険思想を持った人間とは共に歩めない。
危険思想を排除するか、袂を分かつか、今こそ決めようではないか」
ドン!その瞬間大きな銃声が鳴り響いた。
「な、なにを…
お前達は…そこまで…」
教卓の男が打たれた。
打ったのは最初に立ち上がり覇権を取ると言った男だった。
「掃除したまえ。
我々はもうこのような弱気な人間にトップを任せてはおけない」
ド~~~ン!
大きな爆発音、廊下に出て確認する。向かいの校舎から煙が上がっている。
「まさか…やっかいなことになりそうだ」
イフリートが何かに気が付いて焦っている。
恐れている?精霊王が?
「諸君!お嬢様が覚醒されたようだ。
確認に行こうではないか」
その場にいた人間が全員部屋を出ていく。
俺はそれよりも先に爆発が起こったであろう部屋に入った。
「な…なんだこれ」
ゲームに出てきたドラゴンか?
龍であろうリヴァイアサンとはまた違う。
「バハムート、五柱の王の一人だ」
イフリートの動揺が俺の精神を揺さぶる。
「強い?勝てない?」
「強い…が、わからぬ。
同格ゆえ戦えば、どちらが勝つだろうか。
ただ、戦いたくない相手ではある」
「逃げる?」
「主よ、心配めされるな我等は戦わぬ」
ん?なら戦いたくないとは…?
「息災だったか。イフリートよ。
何百年ぶりかな」
「出来れば会いたくなかったがな」
「そう言わんでくれ。私は会いたかったぞ」
「汝が次の主を見つけるとは思わなんだぞ」
「魔王殿に請われてな。
隻眼の大きし乙女と契約してやったわ。
しかし…」
明らかにイフリートの動揺が激しくなった。
「まあ、その話はまた聞こう」
「魔王殿は相変わらず勝手であるな。
我の都合も聞いてくれても良かろう?
突然現れたかと思えば隻眼の乙女と契約しろと言う。
我にも選ぶ権利はよかろう?
魔王殿が良いと言うに聞く耳も持たぬし、強引に契約印を押し付けおって。
我はこれでも精霊王ぞ?精霊の王に対する礼儀ではなかろうて。
あれでは魔王軍の民たちも不平不満が出るであろう?」
「バハムートよ。その話はまた...」
「汝もそう思われよう?そうであろうな?我はあれではいかんと思うのだ。
無理やり契約させたかと思えば、説明も無しに働かせおるし、
仕事も投げっぱなしじゃ。
何をすればいいのやらと迷っておったらこれであろう?
ここはどこなのだ?何も知らされておらん。
何故何も知らされずにこのようなことを、
あれで魔王と言うのだから我はどうかと思うのだ?」
「…」
イフリートが何も答えない。
「聞いておるか?そう思うであろう?少しはこちらの都合も聞いてくれなんだら…」
「こ、これが精霊?このような精霊は見たことが無い」
先ほどの研究員達が部屋に入ってきた。
「なんだこの小さき者達は、精霊精霊と人のことを精霊のように言いおって。
汝等が精霊王の格を落としているのではないか?
聞いておるのか?イフリートよ。お主に言っておるのだぞ?」
「す、すまぬ。気を付けよう」
イフリートがすごく気を使ってる。
そう言いながらイフリートは研究員にも姿を現した。
「ば、化け物!」
バハムートが笑う。
「我は精霊で、汝は化け物か!やはり品性と言うのはばれてしまうものであるな」
イフリートがうんざりしてる。
でも悪い気持ちは伝わらない。
もしかしたら、兄弟、俺とゆうなちゃんみたいな気持ちなのかも。
次の瞬間空気が変わる。
「な、なんだこのプレッシャー。
絶大な魔力、周りで飛び交う複数の精霊、覇気だけで飲み込まれそうだ」
俺はこの威圧感を放つ人物を知ってる。
隻眼の強き乙女、魔王軍にあっては弱小と言われる彼女が頭に浮かんだ。
そして、たぶんその想像は外れてない。
煙の中から女性が歩き現れた。
姿が見えると、その覇気は一層大きなものとなる。
睨まれただけで死を覚悟するその眼力。
目をそらしても感じる存在感。
初めて会った時に感じた恐怖がそのまま蘇る。
この魔力は、アリシアさんだ。
まずいまずいまずい。
アリシアさんに勝てる存在がこの世界にいるわけがない。
止められるとしたら他の魔神、でもそれが味方になるかもわからない。
敵でも味方でも、魔神が複数暴れたら…
間違いなく最終戦争の始まりになるだろう。
アリシアさんがどちら側か…
希望か絶望か、それが全てだ。
「おお!お嬢様!まさしく予想通り!素晴らしき力を手に入れられたようですな」
先ほど銃を撃った男が歓喜の声を上げる。
他の者は跪く。
「奴は?」
アリシアさんと同じ声、やっぱりだ。
この声だけで身が凍る。
「死してございます。
奴はあなたの、神の支配する世界に異を唱えましたゆえ」
「そうか…」
やっぱりあっち側なのか?
せめてアリシアさんの人格のまま来てくれたら、話ぐらいは通じただろう。
アリシアさんの力を持った神と呼ばれる存在、最悪だ。
「ならば、お前達にも用はないな」
次の瞬間、男の首が飛んだ。
「な!」
「何をなさいますか!あなたもやつのことは煙たく思っていたはず!」
「この身体の持ち主、小娘と奴の間のことは知らぬ」
「私は、あんた達みたいなやつらのことは嫌いなんだよ」
あれ?これ…もしかして…
「なあ、はるま?お前はわかってくれるよな?」
「イフリートを通した俺に気が付いてる?」
「主人も見てるんだろ?イフリート」
「ふむ、気が付いておったか」
「アリシアさんなの?」
俺がそう言うとイフリートがそのまま話す。
「アリシア殿なのか?と主が聞いてる」
「急にいなくなるからさ、シンシアが寂しがってたよ」
「なんで?どうやって?」
「それは知らね~。なんで呼ばれたのか。なんでだろうな?」
そう言いながら笑うアリシアさんは…まぎれもなくアリシアさんだった。
「はるま!」
アリシアさんが怒鳴った瞬間、俺は背筋が伸びて身体が跳ね上がりそうになる。
「はひ!?」
「なんだその声、死ぬほど眠い。私はこっちに長く居られないみたいだ。
私にやって欲しいことあるかい?」
「えっとえっと」
「眠い!早く!」
アリシアさんは俺に寄りかかってきた。
「アリシアさんのその体の人格が悪さ出来ないようにして欲しい」
「私が力を抑え込んで寝たら良いかい?」
「それで良いよ!ある程度なら俺でも対処出来る」
アリシアさんが微笑んだ瞬間、彼女を中心に魔力が爆発した。
気が付くと俺は、汗だくで布団の上に座っていた。
起き上がった俺をゆうなちゃんがじっと見てる。
身体が震える。
「急に叫んで起き上がったけど、どうした?」
「アリシアさんに会った」
「え?向こうに行ったってこと?」
「いや、アリシアさんが来た」
「え~ずるい~私も会いたかった」
「いや、世界が滅ぶかと思った」
凄まじい力だった。
精神力が完全に枯れたような感覚に襲われた俺は、
そのまま倒れるように眠りについた。




