第81話 ゆうなと手のかかる弟
「今日にでも神の研究所を叩き潰そう」
「はるま君、急にどうしたの?」
命の泉でもはるま君はずっと黙っていた。
何か考えてるんだろうと思ってたけど、まさか。
「いくらなんでもそれは…」
「いったい一日何人の能力者が現れてるか知ってる?」
「わからないわ。数人なのか数十人なのか…」
「今日辞めて明日にしたら…何人の能力者が増える?
来週にしたら?来月にしたら?
何百人?何千人の能力者が増える?
今、叩き潰そう」
「ゆうなちゃんとはるま君の安全が第一よ。
二人に危険が及んでない以上、何もしない」
「なんで?世界が混乱するかもしれないのにおねえさんは黙って見てるの?」
「そうよ。世界がどうなろうが、二人の安全が第一よ。
こちらから危害を加えれば、二人が罪人になるかもしれない。
それは危害を受けるのと同レベルで、防ぐべき事態よ」
「そんな…」
「私もおねえさんに賛成。
神の研究所が悪の組織だって決まったわけでもない。
能力を持つのは、それぞれ個人の決断だよね。
良い人もいるなら、私達に止める権利は無いのかも」
「ゆうなちゃんまで…」
「おめーが納得したいんなら、精霊に見に行かせてみたらどうだ」
「そんなこと出来るの?」
「精霊をなんだと思ってんだ?
元々使い魔なんだから、それぐらい出来るだろ」
はるま君がイフリートを見た。
イフリートは腕組したまま、深くうなずき答えた。
「主が望めば、主の目となろう」
「イフリートさんお願い!私達の代わりに神の研究所のこと見てきて!」
「かしこまった」
「だからなんでゆうなちゃんの言うことを…あれ?」
「私が、はるま君と同じパパの魂を継承したから…」
イフリートさんは腕組のまま何も答えない。
違う。きっとイフリートさんにもわからないんだ。
「じゃあ、今は静観だからね。
あぶないことしちゃ駄目よ?」
「うん、わかった。
私がはるま君のことも見張ってるから!」
車を降りておねえさんを見送った私達は家に入った。
「お帰り~遅かったわね。
ご飯出来てるわよ」
「は~い、お腹すいた~」
ご飯を食べた私達は、イフリートさんに偵察をお願いした。
イフリートさんに教えられるがままに、はるま君が精神を集中する…
「うわ、なんだこれ!気持ち悪い!」
次の瞬間、はるま君が吐き出した。
「キャー!大丈夫!?」
私の声に驚いたママが部屋に飛び込んできた。
「ごめん。なんか気持ち悪くなって」
「なんか危ないことしてたんじゃないでしょうね」
はるま君は黙ったまま気持ち悪そうに布団で横になっている。
ママが床を拭いた雑巾を洗いに行くのを見計らってはるま君は口を開いた。
「視界が二重になって身体が別れそうな感覚、
頭がこんがらがって気持ち悪くなってさ」
「主よすまぬ。我の説明が不足していたか」
「同化し過ぎたんだ。慣れなきゃそうなる。
慣れる人間もそうおらんがな…」
天狗さんはなぜか少し寂しそうにそう言った。
「目を閉じて、目だけを同化するのが良かろうな」
「自分の目を使わずに目だけイフリートのを借りる感じだね。
お風呂で試してみるよ。
もうしばらく横にならせて…」
はるま君、本当につらそう。
私がお風呂から上がると入れ代わりではるま君がお風呂へ行った。
「おお~わ~!」
お風呂からはるま君の声が聞こえる。
うまくいったのかな?
楽しそうな声にちょっとうらやましくなった。
なんで私は、イフリートさんとかじゃなくて癒しの力なんだろう。
どちらかと言えば、行動派の私の方が炎の精霊は似合ってると思うけどな。
はるま君が疲れ切ってお風呂から上がってきた。
この弟は、限度を知らないから…
ママが入れ替わりにお風呂に行ったが、ママはいつも最後に入る。
綺麗好きだし、嫌いじゃないらしいが、なぜかお風呂に入りたがらないんだ。
「きゃー!」
ママの悲鳴に驚いた私はお風呂に走った。
「ママ!どうしたの?」
「お風呂があっつい!」
「え~?何それ。心配したのに…」
私はそう言いながらお風呂に手を入れる。
「あっつ!」
やけどするかと思った。
これ、きっとイフリートさんの影響だろうな。
「もういいわよ。水入れながら入るわ」
「はるま君イフリートさんのせいでお風呂煮えたぎってたよ。
パパが倒れるまでは、
お風呂はママと一緒じゃなきゃ嫌だ~ってはるま君いっつも泣いてたよね」
「もう!昔の話でしょ」
「パパに入ろ~って言われてもママが良い~って」
「ゆうなちゃんはいつも父さんと入りたいって言ってたよね。
高学年になってから父さんに別々に入ろうって言われても嫌だって駄々こねてた」
「そうだね~、二人とも少しは大人になったのかな」
「まだまだガキだよ。
アーサーさんやアリシアさんはもちろん、シンシアやシル達にだって届かない。
父さんや母さん、魔王…なんかと比べたらきっと話にならないよね。
俺達の一生分より、もしかしたら死んだその先まで見てる気がする。
そう考えるとさ、やっぱりまだまだ子供だなって感じるよ」
「はるま君は強くなったよ。
パパが言ってたよ。
自分のことをまだまだ子供だって思えたら、大人の入り口だって」
昔話をしながらそんな話をしていると、
はるま君の目に少し涙が見えたような気がした。
二人でたくさんの世界を旅してわかった。
私達が成長していかないと、
この世界もパパの世界も守れないって…
「じゃーいくね」
はるま君はそう言って布団に入り目を閉じる。
同時にイフリートさんが消えた。
私はやることが無いので、好きだった絵を描いて過ごすことにした。
今は待つしかないが、何もしていないのもつらい。
はるま君を見ると、時折動く。
イフリートさんの視界で動きながら、思わず身体が動くんだろう。
なんだかおもしろいけど…気味が悪くもある。
見ながら、笑ってしまった。




