第75話 母と家族
「正直、何も無いとは思ってなかったわよ」
おかしいことはたくさんあった。
そう聞いてたくさんのことがつながったけど、それほど不思議は無かった。
「パパの子供だな~って感じよね。
五万人は流石にね~って思ったけど…パパの子供ならね~」
「パパならやりそうってこと?」
「ん~よくパパが言ってたこと覚えてるかな。
ゆうなちゃんが変態に乱暴されるかもしれない可能性が一%でもあるなら、
変態かもしれないやつを殺してパパは犯罪者になっても構わないって」
「言ってたね。パパはゆうなちゃんが危なくないように絶対守るんだって」
「あれってね。九九%の確率で無実の人を殺すって意味よね。
パパはそれがわからないような人じゃないし、
それぐらいの覚悟はしてる人だったわよ。
だからね。はるま君がゆうなちゃんの命の危険を感じたなら、
五万人殺したからって、そんなに不思議じゃないわ」
「私達は、修羅界だから、
はるま君にも影響があったからって、必死に言い訳してたんだ。
でもママはその状況、無条件に受け入れちゃうんだね」
「無条件にじゃないわ。
私達二人の子供だもん。
やって良かったことだとは言わないわよ?
でもママも良い人ってわけじゃないしね。
あんまり人に胸張って言っちゃ駄目よ?
パパは言っちゃう人だったんだけど、
ママはパパのそういう所は困ったなといつも思ってたから」
「そうやって聞くとパパちょっと怖いね」
それを聞いて私は笑ってしまった。
二人ともいつもパパは怖いと言っていた。
優しくて大好きなパパだけど、怖いパパだった。
もしかして、優しいだけが神格化しちゃったのかな?
「だって、はるま君が唯一怖いと思う人でしょ?パパって」
「そういえばそうだった、俺父さんのことだけは本当に怖かった。
父さんが大好きで、勝ちたくて、超えたくて、一緒に遊んで欲しかったけど、
誰のことも怖くなかったけど、父さんのことだけは怖かったんだ」
「そうよ。二人とも喧嘩したりいじめられたりしても、
パパには言えなかったでしょ?
同級生がどんな目にあわされるかわからないから怖くて」
「そうだ、魔王は畜生界にいるから魔王なんじゃない。
パパはこっちでも魔王だった」
「皇帝にしたってそうかも。
平和にするために、殺し合いして統一しろだなんて、
修羅界の皇帝はパパ以上にパパだっただけだ。
パパならやる。きっとやるよ」
「法律を犯そうとはしない人だけど、無理に法を守ろうともしない。
そういう危うさはあったかもね」
「やばい人じゃんそれ」
私は思わず笑ってしまった。
「知らなかったの?」
「パパね。武士道とは死ぬことと見つけたりって言葉が好きだったのよ」
「名誉のために死ぬことこそ武士道みたいな話?」
「ちがうよ、忠誠心のために命をかけるじゃなかった?」
「二人とも不正解。
いつ死んでもおかしくないんだから、その前提で全ての判断をしなさいってことね。
例えば、ゆうなちゃんの安全のために、
来週から登下校を見守りましょうって言うとするでしょ?
パパはすぐに、今週なら死んでも良いってことかって言うのよ。
津波を防ぐ防波堤を来年から建設予定って聞いて、
今年なら津波で流される人が居てもかまわないことかって、
知り合いの議員さんにつめよってたこともあるわ」
「そんなこと言われても議員さん困るよね」
「そうね。でもパパの中では、
お前は今日死ぬかもしれない覚悟で来年と決めたのか、
って聞きたかったのよ。
今日死ぬかもしれない覚悟をしていれば、
ゆうなちゃんの見守りは今日からするわよね。
パパはその判断が出来ない人が、単純に嫌いだったの。
ママもよく怒られたわ」
そう、彼は覚悟の無い人間が嫌いだったんだ。
ゆうなちゃんがいっきに飲み干したコーラを入れながら話を続けた。
「だからはるま君が五万人殺したって聞いても、ああパパの子供だなって思うわよ。
だって迷ってる間にゆうなちゃんが殺されたかもしれない。
殺さずに解決する方法を考えるのは、殺されない保証と余裕がある時だけって、
パパなら言いそうだもの」
「そうだね。私もはるま君が殺したって聞いた時、
そんなにひどいことともショックも受けなかった。
だからなのかな」
「でも優しい人ではあったのよ。
人のこと助けて自分が貧乏くじ引いても笑ってる人だったし、
自分が第六天の魔王だって言われてても失笑してた。
我慢してたんじゃない。本当にどうでも良いと思ってたんだよ」
「家に虫が居ても殺さないしね」
「あれは嫌だったわ~せめて家の外に逃がしてやってって言っても、
ただそこを歩いてるだけなんだからほっておいてやれって。
ママは虫が嫌いだって言ってるのに」
「そうだったね。みんなでキャーキャー言ってたら、
うるさいから仕方ないって言って外に逃がしてくれたね」
この子達はやっぱり私達の子供だ。
「そういえば、ママには何か無いのかな~魔法の力。
えい!」
腕を前に叫んでみたが何も起こらない。
「そんなんで出ないよ」
ゆうなちゃんが笑ってる。
はるま君は、嫌そうな顔で答えた。
「地獄のような特訓をしたら使えるかも」
「はるま君はね。狼にお尻かじられて泣きながら習得したんだよ」
「泣いてないよ!しかもあれ魔法関係ないし!」
「それより、あきさんはやっぱり異世界でもあきさんなのね~」
「そうだね。おねえさんが一番一貫してるかも、境涯が同じって感じするよね」
「パパとおねえさんってどういう関係なの?」
「ん~あきさんはね。
家族に裏切られたり軽く扱われたり、疎外されて家族に絶望した人なのかな。
弟の学費のために働いたお金全部取られたり、
お父さんのギャンブルの後始末にお金を奪われたりね」
「ひどいね。うちとは大違い」
「お母さんと妹さんは悪い人じゃなかったらしいけど、
見て見ぬふりだったんでしょうね」
「そういう、なんとなく嫌な空間で家族はいない。
自分の居場所は無いって思ってたんだけど…
自分の意見を外に出せない、そんなときにパパのあの強さが刺さったのかな。
そんな強さに救われることを繰り返して、
パパの作る世界が自分の居場所になっていった」
「だからパパの世界を、パパの家族である私達を守ろうとしてくれるのか」
「そうね。パパもあきさんならそれを託せると信頼してたでしょうね」
「騙されても良いと思えるぐらい?」
「よくわかってるじゃない。そうよ。
きっとあきさんに騙されるなら、
そういう人生だったと受け入れたでしょうね。
だからママも信頼してるのよ」
「だから俺も…恐竜のこと父さんみたいに思ったのかな。
俺が無茶して失敗しそうになった時も、ルーナに怒られたな。
あれで救われたんだ」
「そのナナヨさんは、独り立ちして世界を動かし始めた」
「パパから始まって、世界中が動いてるのね。きっと」




