第73話 ゆうなと世界の構造
この世界はなんだろう。
包み込まれてるような感覚、手足の感覚も感じない。
いや、感じてる。
何も聞こえてないけど、耳がはっきり聞こえてる感覚はある。
目も、耳も、全ての感覚が感じてるような感じてないような。
この感覚はなんだろう。
新しい世界?
ううん、世界と一体になってるような感覚。
夢なのか実体験なのか、ふわふわした感覚に溶け込んでいった。
目が覚める。
見慣れた天井。
どこにいたんだろう?
横に寝るはるま君に目を向ける。
涙を流すはるま君。
「どうした?」
「わからない」
「やっぱり違う世界なんだね」
「たぶんね」
「あ~お前ら仏の世界に行ったな」
私達の様子を見てた天狗が言う。
「仏の世界?」
「朝ご飯出来たわよ~起きなさいよ」
「は、は~い。
とりあえず朝ご飯食べてから聞こうか」
朝ご飯を食べ終わったころにしおりんがやってきた。
三人で天狗に話の続きを聞く。
「まあお前らの言葉で言うとな。仏界ってやつだ。
成仏したやつが行くって言う」
「成仏?死んだ人が行く場所ってこと?」
「違うでしょ。パパに教えてもらったことあるよ。
話ちゃんと聞いてなかったでしょ」
「聞いた覚えないね」
しおりんが何かに気付いたように言う。
「人の魂の境涯は、地獄界、人界、天界等の十個に対応してるって話ね。
なるほど、その十個の境涯が、十個の世界ってことね」
「まあ、考え方的にはな」
「はるま君が人の側面だとしたら、
マーリンさんは畜生の側面を持ち、シグルズさんは修羅の…」
「そういうことか!
いや、そんなことねーぞ?
アーサーさんに畜生らしさなんてないし、
シグルズは修羅の世界を止めようとしてた」
「それが勘違いだな。
別に修羅界にいるから、修羅の境涯にあるわけじゃねーよ。
修羅の世界で育った、
修羅の境涯に引きずられる可能性がある世界ってだけなんだよ」
「畜生の世界にいる俺は畜生の性質に引きずられる可能性があるってこと?」
しおりんが話に割り込んできた。
「前に聞いた話だと人格が影響しあうって話だったから、
全ての世界の境涯が共鳴しあって一つの人格が出来る。
つまり、修羅の世界に引っ張られたシグルズさんの境涯が、
はるま君に影響してはるま君が戦いの鬼に化すことがある。
そういうことかな?」
「まあそういうことだ」
「魔王が居た世界が畜生界、修羅の世界が修羅界、ならノイズの世界は…」
「声聞界って言ってな」
「知識で悟りを得られると勘違いした世界だろ」
「まあ間違っては無いな」
同じ話を聞いてたはずなのに、はるま君しか知らないのは気に入らない。
「それで私達がさっきいたのが仏界ってこと?」
「そう、仏界は、簡単に言えばなんもない。
全ての魂は一つの仏から枝分かれした。
鏡写しの世界だな」
「大日如来よね」
「ほんとお前はなんでもよく知ってんな。
そうだ、だからさっきお前らが居たのは魂が融合した世界だな」
「あれがみんなが目指すべき最上の世界?」
「だからちげーって、そろそろ覚えろよ。
回廊を軸に全ての世界は平等だって言ってんだろ」
「修羅も畜生も地獄さえ、仏と上下関係に無い等しく大切な世界ってことね」
「そうだ」
「全ての世界で均衡を取りながら人は存在してる」
「そういうことだ。
後は経験しろ。説明してもわかるわけねーから」
「あ、そうだ!今日はショッピングに行くんだった!
はるま君は荷物持ちね」
「え?俺にだって予定が…」
「無いでしょ?知ってんだからね」
「なんで…まあいいや、わかったよ」
今日は久しぶりに商店街に来た。
パパに何度もかき氷を買いにつれてきてもらった思い出の商店街。
たこ焼き屋のおじちゃんが良い人でいつもおまけしてもらってたっけ。
その時、ウキウキ気分をぶち壊すやつが現れた。
私のキーホルダーを壊したあいつだ。
はるま君が私としおりんに手を回して後ろに誘導する。
私を見つけてこちらに来る。
何度も痛い目に見てるのにまただ。
「何してんだ」
「しゃべりかけんな。
お前と揉めると、お前のママがうちに怒鳴り込んでくるから、邪魔くせーんだ。
ママに泣きつかなくなったら相手してやるからあっちいけ」
そういうとはるま君はハエでも追い払うように手を払う。
「な!そんな口聞けるのも今だけだぞ!ウンディーネ!」
こいつも能力者になったんだ!
「なんだそりゃ」
「知らねーのか?
うちの父さんが神の研究所の研究者と知り合いだから、
俺も能力を開花させてもらったんだ!」
「馬鹿なガキにそんな能力を、ほっておこうと思ったけどそうもいかねーな」
「何をごちゃごちゃ言ってやがる」
「イフリート!」
出現したイフリートに驚き、同級生は漏らした。
それでも強がりながら反抗を試みる。
「ふ、ふん!どれだけデカくても炎の精霊は水の精霊に弱いんだ!相手が悪かったな。
いけ!ウンディーネ!」
しかし、水の精霊は戸惑い進まない。
「そう言ってるけど、そうなの?」
「対等な存在であればな。サラマンダーなら水の精霊に分が悪いかもしれぬ」
「イフリートなら?」
「ふん!」
鼻息一つでウンディーネの周りの水が蒸発していく。
ウンディーネ自身も縮んだように見える。
「え?おい!俺のウンディーネ!小さくなった?なんで?」
「小さな火は水で消えるけど、大きな火は水を蒸発させる。
みたいなことじゃね?」
「そ、そんな!」
「ウンディーネ。
お前が人を傷付けたら、
俺とイフリートが確実にその存在ごと消し飛ばしに行くからな」
ウンディーネはそのまま消えてしまった。
「おい!ウンディーネ!おい!」
漏らして泣く同級生がかわいそうに思えた。
「はるま君、もういいよ。いこ?」
「わかったよ。
おい!もう俺らにかかわるな。
ゆうなちゃんやしおりんに何もしなきゃ俺も何もしない。
そうじゃないなら、俺はお前を…言わせないでくれ」
「ひ、ひー!」
泣きながら走っていく同級生に少し同情する。
「あんなガキを量産する組織、
ほっておけないと思うんだけど、おねえさんに相談した方が良いかな?」
「そうだね。
私達だけで何かすると、困ったことになると嫌だし」
そのあと、私達はショッピングを楽しんだ。
服を見たり、スイーツを買い食いしたり、
久しぶりに普通の生活をした気がした。
「じゃ、おねえさんのところ、いこっか!」
「え?このまま?」
はるま君は両手にいっぱいの荷物を持ちながら泣き言を言う。
「大丈夫よ!はるま君は力持ちだから!」
「ちょ、ちょっと待ってよ~」
こうしてると可愛い弟だ。
いつもこうならいいのに。
「おね~さ~ん!」
「あら、ゆうなちゃんにはるま君、すごい荷物ね。
それにそちらは…ゆうなちゃんのお友達だったかしら?」
「栞です。私までお邪魔してすみません」
「良いわよ。三人ともコーラで良かった?」
おねえさんが出してくれたコーラを飲みながら、
十界の話と同級生のことを話した。
「なるほど、
畜生界の恐竜とか、修羅界のルーナがしっかりしてくれてるから、
私はどちらにも染まらず生きていけてるってことかな」
流石大人だ。
すぐ理解してる。
「そして、ナナヨさんが私なら理解出来たことがある」
「何かあったの?」
「ここに来て、自分の力で世界を変えてみようと思い始めたことよ。
その同級生の話もあるしちょうどいいわ」
おねえさんは少し笑いながら話した。
「異能で世界を混乱させる組織とか、全部ぶっつぶしたいと思ってる」
か、過激だ。
どこが染まっていないんだ。
いや、恐竜よりアリシアさんに近い。
元々おねえさんはこういう人だったんだろうか。
パパの影響でそうなったのか、パパが過激だから陰に埋もれていたのか。
でも、少しだけワクワクしてる自分がいるのが楽しく思えた。




