第68話 はるまとノイジー
「レイ!開けて!話しよう!ミオが行っちまうぞ!」
セナはレイの部屋の前でドアを叩きながら叫び続けた。
朝から誰がどれだけ叫んでも返事も無い。
「セナ、わかってもらえなくても仕方ない。
レイ、私は行く」
そう言いながら、ミオは管理棟へ向かう車に乗り込んだ。
結局最後までレイは出てこなかったが、
ミオをほっておけない俺達は、仕方なくついて行くことにした。
ミオとの最後の別れになるなら、レイに後悔して欲しくない。
不貞腐れないで出て来いと、
イフリートで建物を吹き飛ばそうかと思ったが、
ゆうなちゃんに止められてしまった。
管理棟までの車の中、誰も話をしなかった。
何を言うのも怖かったんだ。
管理棟へついて階段をのぼりながらも、
俺はミオを犠牲にしない方法が無いか考え続けた。
たぶん、ゆうなちゃんも同じことを考えていただろう。
管理者が眠る部屋に入ると、ロボが話しかける。
「オマエラモキタノカ」
「お前らも?
っていうか、お前はアマテラスが止まっても動いてるのか?」
「我等を誰だと思ってるんだ?アマテラスなんて関係ないよ」
「でもロボ…」
「あ~我等はロボの姿なだけでロボじゃないよ」
そうか、こいつ天狗とかと同じなんだ。
アマテラスの管理下な訳が無い。
「アマテラスの起動は出来るか?」
「ダレカガカンリシャニナラナイトムリダヨ。
アマテラス自身が理解出来ない命令にフリーズしてる状態だから、
それを理解出来る人間が管理者に増えないとね」
「それがわからねーんだよな。
非合理を受け入れろって話だろ?
この九人の管理者の中にそれが理解出来る人がいないってことか?」
「ソウタンジュンジャナイヨ。非合理を受け入れろってだけの話なら、
食事に人が死ぬ成分入ってても気にしないし、
信号も気まぐれでアカになったり、全部アオになっても良いって話だよね」
「そんな極端な話じゃねーだろ。
なんでそんな融通利かない?
父さんの器の人だっているんだろ」
「はるま君落ち着いて。
パパの器だから考え方が違うって話でもないんだから、
その人がどういう人かわからないよ」
「全員ケンキュウシャだってことが問題だったんだろうね」
「問題ない。私が管理者になる。もう決めてるから」
「ミオ…」
考えても考えても出てこない。
どうすれば犠牲無しでこの世界が救える?
アマテラスをぶっ壊して原始的な生活を受け入れる。
駄目だ。
自分達で料理したこともない人間が、
急に農作業中心の社会を繁栄させられるとは思えない。
アマテラスを起動して、且つ誰も犠牲にしない方法。
無理だ。考えつかない。
その時ミオがナナヨさんに話しかける。
「起きて、私を管理者に追加して」
うなだれていたナナヨさんがミオを見る。
「ありがとう。あなたの決断が次の未来を作るわ」
俺もゆうなちゃんもセナも同時に叫ぶ。
「駄目だ!」
「お願い。彼らを説得するのは辛いから、この部屋から出して」
ナナヨさんが俺達を部屋の外に押し出す。
その時、セナが掻い潜り走った。
ミオの襟首を掴んで部屋の外まで走る。
「でかしたセナ!そのまま一回外に出よう」
俺の言葉はむなしく、セナはそのままミオを部屋の外に放り投げる。
「管理者は私だ!ナナヨさん閉めて!」
ミオが、セナに手を伸ばし叫んだが言葉にならない。
「お前ふざけんじゃねーぞ!」
怒りに任せてベヒーモスを召喚した俺は、扉が閉まるのを止めようとした。
その時、セナが吹っ飛び俺の後ろの壁に激突する。
「へ?」
俺がセナに気を取られた瞬間、部屋に押し出され、
ガラス製の自動扉が閉まってしまった。
俺達は何が起こったのかわからなかった。
俺もゆうなちゃんもいる。
セナもミオも。
じゃあセナを吹っ飛ばしたのは誰だ?
中にいるのは誰だ?
「何してくれてんだレイ!」
セナの叫び声でナナヨさんの方を見ると、隣にはレイが居た。
いつの間に?
いや、今はそんなことはどうでも良い。
レイがカプセルの中に座る。
こちらを見て微笑んでいる。
「開けろ!レイ開けろ!」
セナとミオが扉を激しく叩く。
二人の両手から血が出ているのがわかる。
「どけ!吹っ飛ばす!」
イフリートの炎でもびくともしない。
ベヒーモスの刃も届かない。
「くそったれ!」
考えうる最大の魔力をぶつける。
びくともしない。
なんだこの硬さ。
そうか、父さんの器なら俺達が来ることも、
もしかして力も知ってたかも、想定内なのかもしれない。
俺が取り乱す中、ゆうなちゃんは涙を流していたが毅然と歩み扉の前に進んだ。
「レイ、私が許してあげるから安心して。
レイが居なくなったこと、私は一生悲しみ続ける。
でも、レイがやったこと、尊重して一緒に背負ってあげるよ。
レイと一緒にミオとセナも、レイの作りたかった世界を作ってくれるよ」
涙を流すレイの顔が、その声を聞いた瞬間、笑顔になった。
そのままレイはカプセルに横たわり蓋が閉まっていった。
「いや~~~~!」
蓋が閉まる瞬間もミオとセナは叫び続けた。
次の瞬間、全ての電力が復旧して、扉が開いた。
自動ドアの開く音が、試合終了の合図に聞こえた。
ミオとセナは叫び疲れたのか、
レイが居なくなった喪失感からかうずくまって顔を上げない。
何かぶつぶつ言ってるが、たぶん両方かな。
俺は、無力感でいっぱいだった。
イフリートやベヒーモスでも破れなかった壁、
シグルズの記憶から引き出した剣術も役に立たない。
力があると思っていた。
いや慢心してた。
自分が神にでもなったつもりだったのかもしれない。
俺なら力で何でも出来ると思っていた。
実際は一人の少女さえ救えない。
その時、急にナナヨさんが話し始めた。
「管理者が増えたことで、
私の回路に外部と会話する余裕が出来たわ」
何を言われた所で、何も変わらない。
「レイの最後の言葉を伝えても良い?
レイは、謝っていたわ。
セナとミオにごめんなさいって」
セナとミオを見たが反応は無い。
そりゃそうだ。
ナナヨさんの言葉は響かない。
「ミオの復讐は私が果たす。
セナの自由は私が作る。
何より、アマテラスを一番憎む私にこの役は任せて欲しい。
アマテラスが私達のハッピーを二度と奪わないように、
私が監視し、コントロールして見せるから、
二人にも外で楽しいを一緒に作って欲しいと言っていた。
あと…」
「ゆうなにありがとう…
私のハッピーを言葉にしてくれて、形にしてくれてありがとうと」
そんなこと、後で言われたってどうしたら良いんだ。
ゆうなちゃんは涙を流しながらも毅然とした態度でそれを聞いていた。
ミオとセナは何を考えてるんだろう。
俺にはかける言葉が見つからなかった。
ミオとセナを半分担ぐような形で、
エレベーターに乗り込み管理棟を後にした。
俺だけが、この世界で何も出来ていない。
俺は完全にモブだ。
自分の無能が憎らしい。
「ヒサシブリノソトダナ」
「お前なんで出てきたんだ?」
「お前らもうここに来ないだろ?暇になるから外に出たんだ」
「俺達が来るって知って…そりゃ知ってるか。
天狗の記憶そのまま持ってるんだもんな」
「我等はお前らが来るの楽しみにしてたんだ。楽しかったぞ」
「楽しくねーよ」
世の理の外にいるやつに俺達の悲しみとかって感情は理解出来ないのか?
そんなことを考えながら車に乗り込み、管理棟を後にした。




