第67話 ゆうなと必要な犠牲
「それでも!
人をコンピューターにしてコンピューターが人を管理する社会は間違ってる!」
ノイズの集会、レイが叫ぶ。
「これからさらに悲惨なことになるかもしれない。
自由の代償は計り知れない。
でも、私達は人として自分の人生を生きて、人として自分らしく死ぬことを選ぶ!」
「お~!」「わ~!」「そうだ~!」
みんなが熱狂的に歓声を上げる。
喜びの声だ。
みんなの喜び、未来への期待は本物だ。
全員が苦難を乗り越えようと真剣に決意している。
でも、私はそれがいつまで続くのか、疑問に思っている。
そんなに簡単なことじゃないと説教じみたことを言うつもりはない。
問題はきっと、つらいってことだけじゃない。
それが本当に自分らしく生きることにつながるのか。
それ自体が疑問なんだ。
そんな気持ちを振り切るように、
私達はなんの設備も無いまま生歌でダンスを披露した。
でも、みんなの応援むなしく私の気持ちは完全に空振りしていた。
心が躍らない。
こんな時こそみんなを元気にしたいと、その気持ちが焦りだけを生んでいく。
でも駄目だった。
私には、向いてないんじゃないかとさえ思えてきた。
その夜、みんなで食事をしたが、誰も言葉を発しなかった。
まるで何かを口にすることを恐れているみたいに。
みんなきっとわかってるんだ。
何かを認めてしまったら、全てが瓦解することに。
その静寂を破り、突然問いかける声。
「アマテラスが居ない世界はどう?」
数人の研究者を引き連れてはるま君が戻ってきた。
「まだ、わからないけど…」
「だよね。まだ一日も経ってないし。
でも逆に、一日も経ってないのに、ちょっと心折れそうじゃない?」
誰も答えなかった。
きっと、みんなわかってたから。
研究者の一人が口を開く。
「我々は、
アマテラスに依存し過ぎていたことを反省しております。
人の手で作ったハリボテを、
神だと称賛し人の悩みを完全に排除した世界を作れると勘違いしていた。
そもそも、神を作れるなどと、思い上がっていた」
「俺さ、思ったんだ。
アマテラスがもたらすのは、ただの知識だ。
それを知恵だと勘違いし、
神の知恵が得られると思い上がってしまったことが問題じゃないかって」
「知識と…知恵、
神の知識があってもそれを使い知恵にするのは人間の手でないといけないと?」
私にははるま君が何を言いたいのか手に取るようにわかる。
はるま君の言ってることは、一字一句変わらない、パパの言葉だから。
でもそれを聞いて、さらにわかった。
「はるま君の今言ってる言葉はパパの知識、私達の記憶、
それを私達が知恵として利用するかは、私達次第ってことね」
はるま君が大きく笑う。
「さすが俺の姉だね。でも、父さんの言葉だってばらさないでよ。
どこかのお寺でAIで仏を作ったってニュースが流れてたのを思い出した。
馬鹿な坊主が言ってたよ。
寿命を超越したAIこそ、真の仏の可能性かもしれないって。
それを見て、父さんは馬鹿だって笑ってた。
寿命の有無と仏になんの因果関係も無ければ、
全ての説法を詰め込んでも、AIが仏になることなんてないって。
仏の本質を見誤ったなまくら坊主がって…」
「あの時は、私パパが何言ってるかわからなかったわ。
でも、今なら少しだけ、ほんの少しだけどわかる。
仏になるのに生死も魂の存在すら関係ない。
説法を覚えても仏になれない。
生きているこの瞬間に、
覚えた知識を使って抗い続けること、
その先に私達の答えがある。
その先に、パパの言う仏の存在が見えるのかもしれない」
ミオがつぶやく。
「覚えた知識、全ての知識を与えるアマテラス…
それを知恵に消化するために、抗う」
セナが問いかける。
「それで、どうしたら良いの?
今更アマテラスを受け入れろって?」
はるま君が屈託のない笑顔で笑う。
私と、はるま君が同時に口を開く。
「わからないよ」
はるま君が続けて言う。
「それをみんなで考えよう」
私が補足する。
「答えは一つじゃ無いし、正解は無いよ」
ミオが重く口を開いた。
「ずっと考えてた。
私の目的、ゴールはどこか。
今の話で決めた。
アマテラスを再起動しよう。
私が…アマテラスの一員になる」
レイが反対する。
「それは駄目!
ミオをコンピューターになんてさせない」
ミオはそれを無視して話続ける。
「私の目的は復讐…
アマテラスを止めた。
それで私の復讐は完了…しなかった…
アマテラスを反省させて、一緒に次に向かうこと、
それが私のやりたい復讐…」
レイの目に涙がたまる。
「そんな…駄目よ!」
ミオは声を震わせながら続ける。
「レイは、私達のリーダー。
でも、私達はみんな違う存在。
答えも違う」
ミオが泣き崩れる。
私の胸が締め付けられた。
答えは一つじゃ無いと言ったのは私だ。
でもそういう意味じゃない…意味じゃないはずだ…
「私もそれは違うと思うけどな。
アマテラスを起動する必要があるのかどうか。
そこから話そうぜ」
セナが反対して、はるま君もそれに続く。
「自分が犠牲になれば良いと思ってるのかもしれないけど、
それで残される人間がどうなるかまで考えてるのか?」
そう言うはるま君の肩が震えていた。
きっとパパのことを思い出してるんだ。
「考えてる。
私の決断も尊重して欲しい。
アマテラスが進化する。
そして、みんなが作る世界を信じる」
誰かが犠牲になるかもしれない答えしかないのかもしれない。
けど、けど、私の答えはそうじゃないはずだ。
パパ、助けて。
私にはミオにかける言葉が見つからない。
パパがここに居たら、絶対にミオに行かせない。
パパは、ミオが犠牲になる答えを受け入れないと思う。
「とにかく私は許さない!
あなた達が勝手にアマテラスを起動するようなことがあったら絶交よ!」
レイが泣きながら、自室に入っていった。
「駄目だよ!ちゃんと話合おうよ!」
私はドアを叩いたが出てこない。
「どうしたら良いんだろう。パパならどうしたんだろう」
涙が止まらない私の肩に、はるま君が手を置いた。
「でも、父さんは自分を犠牲にすることを選んだのかもしれない。
どれほど大きい問題だったのかはわからないけど、
マーリンやナルビア、シグルズやマリアベル達を犠牲にする方法を選んだ。
父さんでも、ミオを犠牲にしない方法は思いつかないのかもしれない。
多分父さんと同じレベルの人間が九人も、
この世界を作る研究だけに人生を捧げても、
自分達が柱になることでしかこの世界を作れなかったんだ。
俺達なんかに、ミオを救う方法がわかるわけがないのかもしれない」
「駄目だよ?
パパなら、自分を柱にする方法を選んだのかもしれないけど、
はるま君がそれを選んだら私は絶対に許さない。
この世界を滅ぼして、やったこと無駄にして後悔させるからね」
「それを言うならゆうなちゃんこそ」
「わかってる。
はるま君が許さないこともママが許さないことも、
何よりパパが許してくれないもの」
とにかく私達は、頭を冷やすためにも、その日は寝ることにした。




