第66話 ゆうなと自由
「政府とノイズの争いは、世界規模のいじめなんだ」
一足す一が必ず二になる世界で唯一、三になる答えを許された存在がノイズなんだ。
私達は異物として存在を許され、異物として排除されるために存在してる。
異物を排除することは、いわば暇つぶし、
刺激を許されない世界にアマテラスが許した刺激なんだ。
「管理者の
『人は不完全な存在のため、画一的な正解を持たない。
非合理を受け入れ、活力を与えるための自由を許せ』
って言葉を間違えて理解したアマテラスが、
活力を与えるために人類に与えた非合理がアイドルの弾圧だった」
話をしながらエレベーターで下の階に降りた。
ロボに言われるままにはるま君が扉を開ける。
三×三、九個のカプセルが並び、眠っている人の顔が見える。
一つ空いているのはナナヨさんの分かな。
「あ!」
たぶん、この人がパパの器だ。
なんとなく波長を感じる。
この人が、世界を変えるためにコンピューター社会を設計した。
それが正しいのか、間違ってるのか、私にはわからない。
一つ用意された椅子、
何もわからないと言っていたナナヨさんは全部知ってるように、
しっかりとした足取りでまっすぐそこへ向かい腰かけた。
「はじめまして」
ナナヨさんの口調が今までと違う。
「私はアマテラスの管理を任されているナナヨよ」
「知ってるよ」
「いいえ、あなた達は何も知らない。
ごめんなさいね。
ナナヨとしての人格はここに来ないと接続されないの」
「あなたが、本当のナナヨさんってことなんだね」
「そう、ゆうなちゃんにはるま君、会えて嬉しいわ。
ずっと会ってみたいと思ってたの。
そして、そちらのレイちゃんにセナちゃん、ミオちゃんも、本当に嬉しいわ。
あなた達が、私達に足りない物を補ってくれる存在だと思ってた」
「どういうこと?ナギとナミ、その代わりが私達じゃなかったの?
レイちゃん、セナちゃん、ミオちゃんが関係してるの?」
「ナギちゃんはアイドル一の歌姫として、
ナミちゃんは最高のダンサーであるアイドル志望の女の子として選ばれたの。
必要なのはアイドルグループノイジーの一員なのよ」
「俺達は?」
「ごめんなさい。それだけは私達の唯一の嘘よ」
「嘘?なぜ?」
「あなた達がこちらの世界に来ることがあったとしたら、
ここまで来て欲しかったからよ。
私達が失敗していたとしたら、それを正してくれるのはあなた達だと思ったの。
思った通りたどり着いてくれたわ。ありがとう」
「私達はこれからどうすればいい?」
「出来ればノイジーに、私達へ参加して欲しい。
私達と同じように、生命活動を停止することになるけれど、
アマテラスの思考の一部にね」
「いやよ!そんなの!コンピューターの一部になるなんて!
脳の一部をつながれてるってわかっただけで吐きそうなのに!」
レイが珍しく取り乱す。
無理もない。理解が追いつかないし、人じゃなくなるって言われてるんだ。
「ミオとセナがそんなことになることは絶対許さないから!」
「無理強いは出来ないわ。
でも、私はこれから眠りにつく。
アマテラスがね。混乱して機能不全を起こしてるの。
彼ね。このシステムの全設計を担当した彼ね。
強過ぎるのよ。
完全な合理性を追求したアマテラスが機能し続けられないぐらいにね。
完璧な非合理性を求めてるって言うと何言ってるんだって感じだけど、
彼は一人一人が違うことを追求したいと願ってる。
現在のアマテラスではそれを受け入れることが出来ないのよ」
わかる。
他人が自分とは違うことを本当の意味で理解しろ。
パパがよく言ってた。
同時にそれが、思ってる何百倍も難しいことなんだよって…
アマテラスにはそれが難しすぎたんだ。
いや、人間にも難しい。
同じことを求める。
多様性なんて言いながらもどこかで枠にはめようとしてしまう。
何にも当てはまらない人の存在を許さない。
それが人間だ。
「スサノオに進化したって出来るとは思えない」
ナナヨさんが笑った。
「そうよ。スサノオは完璧を目指していない。
無理なことを無理だと割り切るためのアップデートよ。
だから事故の起こらないアマテラスの世界が事故の起こるスサノオの世界になる。
劣化だと思う人もいるかもしれない。
でもそれを許容しないと人は生きていけないのよ。
生存は出来ても人生を生きられない。
とにかく、これで一旦お別れ。
私達を再度起動しなければ、
関連する施設が止まるだけで、人はそのまま生き続けられるわ。
もし、私達が必要とされるなら、スサノオとして起動される日を待ってるわ」
そう言うとナナヨさんは目を閉じた。
「待って!」
はるま君が叫んだけど届かない。
ナナヨさんは反応しなくなった。
電気が消える。
空調が止まった。
カプセルは大丈夫なのか?と思ったが、
ナナヨさんが生きていないって言ってた。
このままでも大丈夫なような仕組みなんだろう。
たぶん、全てのテクノロジーが失われたみたいな状況なんじゃないだろうか?
「これでライブやり放題か?」
セナが能天気に言う。
「電気無い」
ミオの言葉の通りだ。
「音響とかも演出も、何も無しになるんだと思うよ」
「食事の問題もあるだろうし、治安維持や交通整備なんかも出来ないかも」
「影響は半端ないだろうな」
私達は問題点を数えきれないぐらい言い合いながら、
長い階段を歩いておりていった。
「コンピューターが完全に無いってのも問題なんだな」
あれだけ自由をと言っていたセナが、その事実を重く受け止め始めた。
「全てを自分でやらないといけない。
いじめなんてする暇ないぐらい刺激的な日常なんだろうね」
「とんでもなく皮肉だな」
「自由には責任が伴うか」
「そうだね。全部自己責任で…」
「そういう自由が欲しかったんじゃないと思う。
さんざんリーダーとして自由をあおっておいてなんだけど、
みんなにそういう生活させたかったわけじゃない」
レイはそう言いながら、太陽の光を全身に浴びながら外に出た。
なんとなく、映画なら、これが自由よって明るい気持ちで浴びる太陽な気がした。
実際は…複雑だ。
街はパニックだった。
警備の人達も、今まで指示を受けるだけで考えることが無かった。
それだけでも、有事の際に何も出来ない。
ボタンを押しても食事が出てこない。
何を食べれば良いのかもわからない。
ノイズの人達も同じだ。
音響が無いからライブが出来ないなんて言う人はいない。
そんなレベルの話じゃないからだ。
ライブどころじゃない。
手に入った自由は、ライブをすることすら考えられない状態を引き起こした。
何でも出来る自由は、何も与えてもらえない自由だった。




