第65話 はるまとアマテラス
「わからない」
「なんてこと!アマテラスがこんな返答をするなんて!」
ナナヨさんがうろたえてる。
それはそうだろう。
完全だと思っているアマテラスが、わからないと答えたんだ。
完璧じゃないから答えられない。
俺はコンソールにこう打った。
「お前はなぜ間違えたのか」
その答えが、この「わからない」だ。
俺はあれから考え続けた。
アマテラスの正体が何なのかはわからない。
ただ、ノイズを排除したくない。
しかし、存在も許していない。
なぜかはわからないが、その矛盾に問題の核心がある気がした。
ノイジーというアイドルグループに執着する理由、
アマテラスが答えを出せていない何かがあるんじゃないかと…
俺は続けてキーボードを叩いた。
「お前は、何になりたいんだ?」
「ノイズを取り込み彼の言葉を理解出来るようになること」
ノイズってのはテロリストのノイズで間違いないんだろうか?
彼って誰だ?
何かが理解出来なくて迷ってる?
「取り込みたいノイズとは、はるまとゆうなのことか?」
「ノイズとは、私が受け入れるべきイレギュラー。
スサノオとなるために必要な候補は、ナギとナミ。
彼女らに代わる人員を要求する」
「代わりの人員とは?」
「不足している原因が判明していないため、答えを演算出来ません」
「ナナヨさん?俺とゆうなちゃんの名前が出てこない」
「わからないわ。私は所長から、
ナギとナミの代わりはゆうなちゃんとはるま君だと、聞いていただけで…」
この人は本当に何も知らない。
なんか重要人物っぽい感じだと思ったんだけどな…
「所長を呼んでくれないかな?」
ナナヨさんが所長を呼びに行く間にさらに質問を重ねる。
「お前の本体はどこにある?」
「本体の定義が不明、質問を推定。
処理の調整を行うための管理者のことだと予測、管理棟に存在。
CPUやメモリ等の処理を行う資源だと予測、全人類」
管理者?いや、今はそれよりも。
「全、人類?何を言っている?」
「あのビー玉は何だ?」
「ビー玉を天津珠と推測、
人と私、私と各種装置、世界の全てをつなぐ処理装置です」
「ひと…をつなぐ?」
「人をハッキングするってことか?」
「人間の意思決定への介入は禁止されています。
天津珠は人の脳の使われていない一部を、
アマテラスの一部として利用するために使われています」
「人の脳の一部を利用する?CPUみたいに?メモリみたいに?
そんなことが許されるのか…いや、今は倫理観を問うのはやめよう」
「禁止されているのは法律とかでか?」
「管理者により厳しく管理、制限されています」
管理してる人間がいる?
管理棟?は所長にでも聞くのが早いか。
「お前が理解したい彼の言葉とはなんだ?」
「人は不完全な存在のため、画一的な正解を持たない。
非合理を受け入れ、活力を与えるための自由を許せと彼は言った」
「お前にはそれが理解出来なかったということか?」
「理解しました。
しかし、彼は間違えていると言う。
私はそれが理解出来ない。
だからノイズを取り込む必要があります」
「理解したお前は何をした?」
「辞めたまえ!」
振り返ると所長が、後ろには武器を構える警備が、俺は身構える。
「君に勝てないことはわかってる。
戦う意思は無いんだよ。
でも、こればかりは無駄だとわかっていても戦う必要が出てくる」
「何か、隠してるってことで良いのか?」
「隠してはいない。
知ってることは全部話すよ。
ただ、それ以上やめて欲しい。それだけだ」
「わかった。とりあえず話を聞くよ」
ナナヨさんがコーヒーを入れて持ってきた。
俺はコーヒーが飲めないと伝えるとナナヨさんは驚いてコーラを持ってきてくれた。
俺の見た目は本来の小学四年生だ。
コーヒーなんて飲めるわけないとわかってもよさそうだが、
やっぱり彼女は最初の仕事が出来る印象とは違い、何か抜けている。
「それで、何を辞めて欲しかったのか教えてもらっても良い?」
「それは単純明快、
アマテラスがわからないという事柄に対する質問を控えて欲しい。
単純に、アマテラスを混乱させて欲しくないんだ。
彼女は、私達の神であり頭脳そのものなんだよ。
機能停止の可能性を許すことは出来ない」
まあ筋は通るか。
俺に彼らの生活を脅かす権利なんかない。
ここで何かやることがあったとしても踏み込むべき確証は持てない。
「じゃあ、管理棟ってどこ?」
所長は窓の外を指差した。
「あれですね。
あそこに入るのはナナヨ君が開けられます」
ナナヨさんが驚く。
「私がですか?」
「そうだ。君にはその権限があると聞いている」
「あと、ナギとナミの代役として、俺とゆうなちゃんはどっから出てきたの?
アマテラスからは俺達の名前が出なかったからさ」
「それは…もしかしたらその管理棟でわかるかもしれません。
私が言ったことですが、
私にもなぜゆうな様とはるま様なのかは知らされていませんので」
それ以上聞くことも無いと思った俺は、
ナナヨさんの案内で俺達は管理棟へ向かうことにした。
管理棟に近付くと声が聞こえる。
「管理者ナンバー7、ナナヨを確認」
開錠される音と共に自動ドアが開いた。
「管理者?なぜ私が登録されてるんでしょうか」
この人が何も知らないことに意味がありそうな気がしてきた。
なんだろう。
受付のようなタッチパネルの端末がポツンとあるフロア。
ナナヨさんが操作すると、各階の案内が表示される。
「文字化け?暗号化された情報がそのまま表示されてる感じね」
「とりあえず重要な物は最上階かな?」
「そうね。最上階に行きましょう」
その時、凄まじい地鳴りと共に爆発音が聞こえた。
「何?爆撃を受けてる?」
俺達は外に飛び出した。
「ノイズ!?なぜこんな所まで進行を許してるの?」
戦車のハッチが開き、ひょこっとゆうなちゃんが顔を出した。
「やあ!」
やあじゃないよ。
あいかわらず空気をつぶしてくれる。
「悩めるはるま君に合流するのが一番かなと思って!
お姉ちゃんの力が欲しかったんじゃないかな?」
まあ心強いと言えば、それは否定出来ないな。
俺は笑いながら答えた。
「なんでもいいよ。これから核心に迫るシリアスな場面だったんだよ」
後ろにはノイジーのメンバー三人がいる。
「ここから先に一緒に行くなら、
ここから出るまでは俺とゆうなちゃんを立てて休戦する約束をして欲しい」
全員うなずく。約束が守られる保証はないけど、
アマテラスを破壊するとか、取り返しのつかないことをされるのは困る。
俺達は気を取り直して最上階へ向かった。
エレベーターを降りると、大きな机が一つあった。
椅子がくるくる回ってる。
見ると小さなロボが座っていた。
俺を見てロボが驚きの声を上げる!
「オマエハ!」
このサイズ、絶対天狗系だ。
「ダレダッケ?」
「はるま。君は…天狗?」
「ハルマ!ハルマ!ユウナハ?
ソウワレラハテングトオナジソンザイダヨ!」
やった!天狗が現れたら回答編だ!
「ゆうなは私よ!やったね!これで色々わかるね」
ゆうなちゃんも同じ気持ちだ。
「父さんの器はここにいるの?」
「イルヨ!シタノカイ!」
「ナナヨさんのこと聞きたいんだけど、おねえさんだよね?」
「ソダヨ!カンリシャのヒトリ」
「管理者って?」
「管理者ってのは、アマテラスの前身を開発した九人の研究者の一人だよ。
奴もその一人だけど、彼女は実体として残って管理する者として選ばれたんだ」
急に普通に話始めやがった。まあ今はそれは良いか。
「普通に話せるんだね」
「ゆうなちゃん、今その話やめとこうか」
「セリフガナガイカラナ」
セリフが長いから普通に話すってなんだよ。
「私が…アマテラスの前身を開発した?そんな覚えはないわ!」
「ソリャソウダロ。オマエラの脳は完全にアマテラスに組み込まれてるからな」
「父さん達九人がアマテラスの前身を開発した。
そしてその九人を取り込んでアマテラスになった。
ナナヨさんだけは、身体を動く状態にしてアマテラスが動かしてる?
アマテラスは全人類の脳を利用したコンピューターってことだったから…
その思考を管理してるのが、その九人?」
「マア、ソンナカンジダナ。
ただ、ナナヨを動かしてるのはアマテラスじゃなくて管理者の方な」
「アマテラスが人?全人類?」
あ~しまった。
ノイジーの三人には刺激が強すぎたか。
ややこしい話になりそうだ。




