第63話 はるまとコンピュータ
アマテラスの予測で、ノイズが襲撃するポイントは全て把握出来ているらしい。
来る必要は無かったが、少しでもノイズとかかわり、
ゆうなちゃんの状況が知りたかったので同行させてもらったんだ。
そして、驚いた。
最前線にゆうなちゃんがいたからだ。
何故戦闘を切り開く戦車の前に四人の少女が立つ?
理解出来ない戦略に頭を抱える。
素人なんてレベルじゃない。
わざとセオリーを無視してる?
それとも…合理性が欠片も感じられない。
「ゆうなちゃんが危なくなったら容赦なくイフリートで全部焼き払うからな」
「私達には人を傷付ける意思が無いと何度言えばわかって頂けるのですか」
この人達が人を傷付ける意思がないことは理解してる。
わかってるつもりだった。
チュドーン!
ゆうなちゃんの後ろの戦車が吹っ飛んだ。
「な!お前ら!」
「いえ、私達ではありません」
「全軍離脱!ゆうな様に危険が及ぶ可能性がある。
この場所は放棄する!撤退せよ!」
この慌てよう。
本当に傷付けるつもりはないんだ。
その可能性にさえ、戦場の放棄を選ぶ。
まだ信頼は出来ないが、彼らの行動を理解は出来る。
問題は、ゆうなちゃん達のやりたいことが全く読めないことだった…
いや違う、政府軍の行動だって理解出来ないじゃないか。
反政府軍と戦うのに、制圧が目的じゃない?なぜだ?
その行動原理が全く理解出来ないじゃないか。
「戦う理由ですか?アマテラスが算出したから…としか…」
「アマテラスはノイズの襲撃ポイントも戦略すら計算出来てるんだろ?
だったら戦いを終わらせないことに、なんで誰も疑問を抱かないんだ?
だいたいさ。最終的に放棄して制圧させるために戦ってるようすら見える。
それなら戦い自体引き起こさずに、明け渡せば良いじゃないか」
「放棄しているわけではなく……
いや、しかし。
殺さない。攻撃しないことが前提なら勝てないのは道理で…」
「それがそもそもおかしいって言ってるんだ。
なぜ勝てるわけがない条件で勝負を挑む?
なんで誰もおかしいと思わないんだよ!」
アマテラスが人間に何をさせようとしてるのか、さっぱりわからない。
AIが人を支配しようとしてるとか、政府の転覆を計算してるならまだわかる。
まさか、本当にそんなことが?
「ナナヨさん、アマテラスと話してみたいんだけど、出来る?」
「出来るわよ。ついてきて」
そんなに簡単なことなのか?
手続きとか、権限とか承認とかそういうのは無いのか?
合理性を追求したらシンプルになるのか。
「これに、質問とか打ち込むの」
これ…?
これって、父さんが初めて触ったパソコン、
大切な思い出だって見せてもらったことがある。
PC98って書いてる。確かにあれだ…と思う。
「こんな骨董品みたいなコンピューターなの?」
「そうよ。これに文字を打ち込んでエンターキーを押すの」
父さんに見せてもらったことがある。
開発する人とかが使う。
たしか…コマンドプロンプトって奴だ。
真っ黒の画面にコマンドを打ち込むとプログラムが実行されるってやつ。
ここに質問を?チャットみたいな使い方をするのか?
タッチパネルやグラフィカルなウィンドウはおろか、マウスすらない。
「これがインターフェースになっててスーパーコンピューターみたいなのにつながってるってことかな?」
「これが全てよ?」
「いやいやいや、あの町は?あれが全てコンピューターなんでしょ?」
「あ、それもそうね。
あまり細かく考えたことがなかったから。ごめんなさい。仕組みは知らないの」
「全然コントロールなんて出来てないじゃないか!
アマテラスの正体を全然理解出来てなくて、
どうやって思考をコントロールするのさ」
やばい、全然わからない。
理解のとっかかりが全くない。
いや違うな。
これまでも俺達は、賢者や天狗、愚者がいなければ、
こんなものだったのかもしれない。
世界のこと、何もわかってなかったんだ。
いや、考えろ。
ヒントを拾え。
何かあったはずだ。
あ、PC98!
これが父さんのパソコンと同じなら、そんな偶然あるわけない。
古いマックでもそれ以前のコンピュータに似たもの、
いやワープロでも良かったじゃないか。
なんで父さんの初めて買った、思い出のパソコンなんだ。
そうだ、今までもそうだった。
強烈な印象や、大切な物は別の世界の人格に影響が出る。
これが父さんの思い出のパソコンなら、
これを選んだのは父さんの器になる人だ。
「これを、ここに置いたのは誰?選んだ人でも、決めた人でも構わない。教えて!」
「さあ、これは最初からここにあったし、
これをアマテラスだと教えてくれた人は…
みんな、これがアマテラスだと思ってるから…」
それから俺はこのパソコンを調べてみた。
ネットワークにつながるケーブルらしきものも無い。
本体につながるのは電源と、ディスプレイ、キーボードのみ。
父さんがこの時代はWi-Fiが無かったとか、
いやそもそも無線技術自体がほとんどなかったって言ってた。
その部分だけ特別製で無線でネットにつながってる可能性はあるけど…
「ナナヨさん。町の中を、コンピューターを見せて欲しい」
「良いわよ。行きましょう」
これもだ。
なんでこんなに簡単なんだ。
見せられないとなっても当然だと思うんだけど、簡単に案内してくれる。
俺のことを特別待遇してくれてるだけなのか?
ここの人達は、全てにおいて隠すそぶりが無い。
なんでも開示してくれる。
それ自体が違和感だった。
一番近い建物に到着するとナナヨさんは、入り口に見向きもしないで、建物の壁面の梯子を上り始めた。
「こっちよ」
なんだ、屋上に何かある?
屋根に出た瞬間、俺は思わず声を上げた。
「なんだこれ!」
ペットボトルの蓋を反対にしたような器の上に、ビー玉みたいな物が浮かんでる。
それが、サッカー場ほどもある広大な屋根に、びっしり敷き詰められていた。
「これがコンピューターよ」
「コンピューターって意味わかってる?色々計算したりする演算装置だよ?」
「そうね。これがそれよ」
科学技術の違いか?
これが俺達の世界で言うコンピューター?
いや、だとしたらあのPC98はなんだ。
旧型と新型か?
ますます混乱してくる。
「全ての建物の屋根にこれがあるの。
元々は部屋の中にコンピューターが並んでたって聞いてるけど、
それがこれに置き換わったのよ」
「なんで屋根に?」
「それは…わからないわ」
屋根にってことは外に向いてるのか?
電波を飛ばしてる?通信してるってことかな?
「あ!そうか、そもそも食事を作るシステムとかってどうなってるの?」
「それも見に行きましょうか?」
食品製造する工場は俺が思ってる工場だった。
ただ一点違ったのが、コントロールする部分、
ようするにコンピューター部分にあったのが、あのビー玉だった。
「なんなんだよこれ。ビー玉がなんなんだ」
この世界が全てこんな感じで構成されてるんなら、
これ以上調べてもこの先にはたどり着けない。
今の俺には理解出来ない技術、その確信だけが深まった。




