第60話 ゆうなと歌姫の空席
「また怪しげな踊りになってるわよ!」
わかっちゃいるけど…わからない。
何が違うのかわからないけど、私のダンスがみんなと違うことだけはわかる。
長時間の特訓で、得られたものは何もない。
レイは本当に熱心に教えてくれる。
小さなライブは毎日のようにある。
小さいと言っても数千人は入るライブだ。
十万人規模のライブは一年以上計画してのことだったらしい。
「でも、ゆうなちゃんが入ってくれて本当に良かったわ。
やっぱり三人だと、楽しいより一人欠けて悲しいが大きくなるから…」
「ナギがいなくなった悲しみが出ちゃうってこと?」
「そうね。ナギは歌姫で私達の中心だったから…」
歌姫…私の歌はそれほどうまくない。
小学生の、本当にたまに練習があるぐらいの合唱団に入ってただけだ。
本当に必要なナギの空席を埋める力なんてない…
はるま君だったら、目的の為なら精霊王の力で無双するんだろう。
私にあるのは癒しの力、防御やアンデッド相手にしか通用しない。
私だけが、本当に役に立たない気がして嫌になる。
「さあ、出発しましょう!今日のライブも張り切っていくわよ!」
三人は両肩にぶら下げた銃を装填する。
レイが私に銃を差し出した。
それを手に取ろうとしたが、受け取れない。
なぜ、自分がこれを持つのか。
その意味も分からないのに、手にして良い物ではない気がしたんだ。
「どうした?」
答えられない。
言葉に出来ないこの気持ち。
違和感だらけで自分でも意味がわからない。
私達のライブは、政府軍を制圧してライブ会場にするところから始まる。
アイドルじゃなくて、反政府組織として生活圏を広げながら娯楽を提供する。
それが、ノイジーのメインとなる活動だった。
それが、私のやるべきこと?
違う気がした。
「なぜ、戦うの?」
レイが驚いた顔をした。
「もちろん、自由を手に入れるため」
「歌う。踊る。そのために勢力を拡大するの?」
「違うよ。自由に歌って踊れる世界を作るの」
「違わないよ。
自由に歌って踊れる場所は、政府の勢力が及ばない場所でやればいい。
なのに、政府の支配圏を武力で制圧する意味が私にはわからない」
「え?」
レイがびっくりしてる。
それに呼応するようにミオとセナもこちらを見て口を開いてる。
「え?」
私は彼女たちの疑問の意味がわからなかった。
「え?」
レイが気持ちを落ち着けるように服装を整えた。
「と、とりあえず、今日はゆうなちゃんは見てて、
言われてみればこっちにきてすぐのゆうなちゃんに、
いきなり戦えはやりすぎだったかもね」
なんだか納得いかないままだが、三人のそばで見てることになった。
銃撃戦が始まり、私は武器も持たずに最前線にいる。
なぜこんな危険な状況を当たり前に受け入れているのか。
今まで、私が出会った人達の中でも、
彼女たちの戦いに命を懸けるという行動に何かが足りないと感じていた。
戦場で戦いに疑問を抱く、という愚かな行為が自分の首を絞める。
集中もせず不用意に移動した私は、目の前に飛んできたミサイルに死を直感した。
自分からミサイルの軌道上に、身を出してしまっていたんだ。
「ゆうなちゃん!危ない!」
レイに突き飛ばされた私は、床に倒れ込む。
「キャー!」
振り返るとレイの肩から血が噴き出してる。
違う…腕が無い。
吹き飛ばされたんだ。
「レイー!」
私のせいで…。
私がなんの力もないせいでレイが、レイが…
急いで駆け寄ろうとした時、レイが叫ぶ。
「私のことは気にしないで!ミオとセナを助けてあげて!」
身体がビクッと反応する。
レイは腕があった場所から血をまき散らしながら、
片手で銃を構えて撃ち返している。
とてつもない痛みをこらえて銃を撃つ彼女の顔は痛みでゆがみ、真っ青になってる。
でも戦いを辞めない。
意味がわからないと思っていたが、彼女の戦う意思自体は本物だ。
「私達は絶対に負けられないのよ!」
私は一体何をしにここに来たんだ。
これ以上足を引っ張るわけにいかない。
戦いを止める為には戦わなければいけない。
魔王さんも、アリシアさんやアーサーさんだって、ルーナも皇帝だって、
戦いを終わらせるために、戦い続けて傷付き続けてた。
私も戦わなくちゃいけない時なんだと思った。
足元に転がるでっかい銃を手に取る。
「ゆうなちゃん!駄目!」
私にだって出来るはず!
とりあえず銃なんて全部このトリガーってのを押せば良いんでしょ?
とにかく力いっぱい押した!
とてつもない爆発音が巻き起こった。
耳を超えて、頭の芯に音が突き刺さる!
その瞬間私の後ろに控えていた味方の戦車がひっくり返る。
「あれ?」
「何やってんの!使い方もわからないのに使っちゃだめ!」
レイがすごく怒ってる。これはどうやら私がやったようだ。
でも、なぜだろう。
政府軍が引いていく。
「なんでだろう?
戦場を放棄して、撤退していくなんて。
今まで政府軍がこの程度で引いたことなんかないのに」
レイが不思議そうに状況を整理してる。
「まあ、わからないけど、たぶんゆうなちゃんがやったことが功を奏したのね。
被害もいつもより少ないし、とりあえずは、グッジョブよ!」
「ロケットランチャー後ろに撃つって、なんかお約束って感じだよな」
「お約束。狙いすぎ」
「狙ってないってば!
そんなことより!レイ!怪我を治さないと!」
ありったけの聖女の力をレイの肩に注ぎこむ。
聖女の力は知識の力、腕の形をイメージする。
私の中からあふれ出す力が、レイの身体を駆け巡り形になっていく。
レイが驚いて声を漏らした。
「ゲッ!何それ!腕が生えてきた!」
セナが叫ぶ。
「なんなのそれ!怖い!大丈夫なのこれ?」
ミオがつぶやく。
「副作用が心配」
「いや、大丈夫だから!聖女の力って言う。
なんて言うか。治療の知識の力だよ。
それより、レイごめんね。
レイが助けてくれなかったら、私死んでたかも」
「そもそも私達が巻き込んだんだから、命掛けで守らせてもらうわ!」




