第59話 はるまと必要な変化
「朝からそんなチョコばっかり食べて!虫歯ひどくなるわよ?」
母さんが怒ってるが、俺は今無性にチョコが食べたいんだ。
ゆうなちゃんがニコニコしながら見てる。
「ゆうなちゃん歌、微妙だったね。
変な動きしてたし…」
「もう!気にしてるのに!」
「まあでもみんな楽しんでるみたいだったし良かったよね」
「はるま君はなんで止める側にいたの?」
「止める側の人達も悪い人じゃないんだよ。
なんて言うかな。
不幸な人をゼロにしたいから、自由を許さないって信念があってさ」
「でも楽しいことが無いのがもう不幸じゃない?」
「それはそうなんだけどさ。
まあ、どら焼きの無い世界だからゆうなちゃんには向かないだろうね」
「それは私には無理ね。
こっちも食事は質素だったよ。
国が農作物の栽培を許してないから、あまりいいものは食べられないみたい。
魚とか肉とか普通にあるのはあったんだけどね」
「俺達が食べてる食事って、ものすごい人数が、
ものすごい年月を重ねた結果だからね」
「そうだよね。
同じどら焼きでもたくさん種類があるし、
みんなもっとおいしくしようって考えた結果なんだろうね」
「父さんが言ってたよね。
ハモなんて骨だらけの魚を、骨切りの技術を磨いたり、
死人が出るほど危険なフグの毒を避ける研究をしたり、
そういう人達の執念が、おいしい料理を作ってるんだって」
「そうだよね~無駄な探求の結果が、私達の幸せを生んでるんだよね」
「執念か…それが大切なのかも…」
「ゆうなちゃんはこれからどうするの?
そっちで何かするって決まってるの?」
「全然、またライブとかはするんだろうけど、
結局何がしたいのかあんまりわかってない」
「ライブが出来る世界を目指してるの?」
「好きにさせて欲しいって感じなのかなあ」
「政府と反政府が違う場所で、
違う部族みたいな感じで分けられたらさ。
全部解決するんだよ。戦いも生まれない」
「そうなのかな~それって諦めてるだけじゃない?
どっちも幸せでどっちも不幸みたいな感じにならない?」
「でもそれぞれが望んだ生活なわけだから、不幸ってのは俺達の価値観でしょ?」
「でもそれじゃ私達が呼ばれた意味がない気がする…」
「まあ俺もチョコが無い政府側はな~。
だからと言って反政府が全て良いのかって言われたら…」
「反政府じゃなくて、ノイズね」
「そうだよね…
そうか、反政府なんて相反するものだって思ってるうちは、何も見えないんだ。
そもそも対立してるように見えて、一つだけ考え方が違うだけなんだよね」
「無駄が必要かどうかってことでしょ?」
「まだ天狗に会ってもないんだよな~
父さんの器になりそうな人も出てこないし、
なんか手がかりが無くて、何したら良いのか全然わからない。
前みたいにゆうなちゃんを助けるぞ!の方がわかりやすくて良かったよ」
「まあ、奥さん聞きまして?
はるまさんったら、
お姉ちゃんが閉じ込められてる方が良いらしくってよ!」
「いや、違くってさ~、って誰に話してるのさ」
「我等に会いたいのか?ここにいるぞ?」
「いや、それも違くって~」
「あ!そうだ天狗さんに聞きたいことがあったの!」
天狗が嫌な顔をする。
最近失言が増えてるから、質問されること自体嫌がってる。
「聖女の力なんだけどね。
歴代の聖女の中に、シルちゃんを感じるの。
シルちゃん元気にしてるよね?」
「あ~そりゃそうだな。
聖女の力ってのは一つの塊なんだよ。
十二個に分かれた枝の先にある葉が聖女だと思えば良い」
「あ、そういうことか。
共有してるって感じね」
「聖女シルビアは元気にしてるよ。
今は航海中かな。
大陸を渡って平和のために、みんなで力を合わせましょうって」
「そうなんだね!」
「航海中と言えば、ルーナが海に出たところだな。
女帝と皇帝が会うのも時間の問題だな。
あの世界はそれで大きく動くよ」
「みんな良い方向に行ってるんだね」
「聖女シルビアが四人の聖女を粛清したってのがちょっと悪いことかな?」
「え。シルが選んだ十人の聖女を?」
「やっぱり聖女ってのは飲まれやすいからな」
「そうだよね。この力に溺れたら、悪い人も出るのかな…」
そのあと母さんが見てるニュースを一緒に見てた。
「ニュースは退屈だから嫌いだなあ」
「ママは天気予報が見たいのよ」
「あわや戦争か?と思われるほどこじれた領土問題ですが、
ここでまさかの、次回のオリンピックで決着を付けようという案が出ました」
「これは驚きですね。
お互い自国の領土だと主張していたわけですが、ここに来てスポーツですか」
「私には、決着がついた後でやっぱり嫌だと、
武力でひっくり返す未来が見えますがね」
「そうでしょうね。
ただ、各国が国民投票でその決議を行うことになりまして、
間違いなく進歩ではあるでしょうね」
なんか世界は動いてる…じゃなくてこれやっぱり修羅の世界の影響だよな。
武力でどちらが上かを示してきた世界が、スポーツ競技で雌雄を決する。
間違いなく、修羅の世界の思想が現実へ変化をもたらせてる。
国王の誰かが首相の器だったとか、そういう感じなんだろうな。
俺達が何もしていないように見えても、世界は少しずつ動いている。
「あ、そうか。
なら、あの合理性の世界で起こってることが、この世界ならどう当てはまる?
それを解決するように、合理性の世界をなんとか出来れば…」
「なに?合理性の世界?」
母さんが怪訝な顔をする。
「い、いや!ゲームの話!ゲームの!」
その後、風呂に入って布団で携帯片手にゴロゴロしてると、
ゆうなちゃんが話しかけてきた。
「あのさ。聞きたかったんだけど…」
「なに?なんか答えたくないなその顔」
「俺ごと貫け!っていうの…言ってみたかったの?」
「な!あの時はあれが最善だと思ってたんだよ!」
「なんか見たことあるシーンだなって思ってたんだよね」
「もう!そういうの無し!」
「あんな無茶なこと二度と言わないでね。
はるま君を犠牲にしないと世界が救えないなら、
私は世界の滅亡を選ぶよ」
いつもふざけたことばっかり言う姉のくせに、たまにこういうことを言う。
「わかったよ。ゆうなちゃんも気を付けてね」
そう言って俺は布団を頭までかぶった。
「はるま君、おやすみ」




