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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第二章 幸福

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第58話 はるまとチョコレート

「負傷者ゼロ、逮捕者もゼロです」


「はるま様に邪魔されたとはいえ、結果として負傷者ゼロははるま様のおかげです」


その言葉だけで、政府の人間が誰も傷付けたかったわけじゃないことがわかる。

やっぱりこの人たちは考え方が歪なだけで悪い人達じゃない。


「良かったよ。これで『殺せたのに』なんて責められたら、

俺はここにいられなくなるから…」


「殺すなんて、我々は不幸な人間を無くしたいだけです。

誰も傷付けたくなんかない。

野蛮人みたいなこと言わないで頂きたいです」


「ごめん。そうだよね。

君たちが俺の思う悪人じゃないことがわかって嬉しかったと言いたかったんだ」


「それは良かったです。

ただあの状況で一人の逮捕も叶わなかった。

我々の無能さもばれてしまいましたね」


司令官はおっさんなのに、その言い方を聞いてるとなんか可愛い。



「ゆうなちゃんは、元気に踊っていたわね。安心?」

ナナヨさんが、俺の採血をしながら話しかけてきた。


「そうだね。急に違う世界に飛ばされて、

なんであそこで歌って踊ることになったのか気になるけど、

ゆうなちゃんらしい感じもするし、安心はしたよ」


「ナギちゃんは歌姫として大人気だったのよ。

人に癒しをもたらすような不思議な歌声だった」


「へ~、娯楽は悪って世界だけど、ナナヨさんは歌好きそうだね」


「私は歌も踊りも好きよ?悪だなんて思ってないわ。


ただ…アマテラスが禁止するなら従うしかない。それだけよ」


「俺にはさ…納得いかないことに従う。その感覚がわからないんだよね」


「勉強するのが嫌だけど、親に言われるからとりあえずやる。みたいな感覚ない?」


「あ~意味はわかるよ。

でもうちは、父さんが納得いくまで話してくれたから…

なぜそれが必要なのか、なぜやらないといけないのか…」


「良いお父さんだったのね」


俺は父さんが良い父さんだったと言われて、すごく嬉しかった。

「そうだね!」


「良い顔。良い家族を持って、

なぜはるま君がはるま君になったのかがよくわかるわ」


俺は無性に嬉しくなった。

そうだ。

父さんがいて、母さんがいて、ゆうなちゃんと俺。

俺は幸せな家族で幸せだったんだ。


だからこそ、父さんのことが…宙ぶらりんの状態に胸が苦しくなるんだ。



「さて、今日は何するの?また襲撃?」


「それは無いわね。

あちらの活動の影もないし…しばらくここの生活を見てもらうって感じになるかも」


「それで、まずは食事ってことね」

俺はナナヨさんに連れられて、食堂に来ている。


実は俺はあまり食事に興味はない。

おいしいと感じるし、食べたいときもある。

今食べてるこの瞬間幸せだ~みたいな時もある。


でも、毎日の食事が楽しみ!みたいな感覚はない。

一年生の頃までは本当に食事が嫌で、顎が弱いと医者に言われたりもした。

おやつが硬いせんべいだけになった時があって、あの時は本当に父さんのこと嫌だと思ってたな。


「え?」

目の前に運ばれた食事に唖然とする。


「これは…何?」

お盆に乗せられた豆のような、グミのような、サプリ?


「それぞれの栄養状態に合わせてアマテラスが指定した食事よ」


「さすがに…これは…」


「私も最初は抵抗あったわね~

十年以上かけて最適化されていった結果、こうなったのよ」


口に放り込み飲み込む。

味も何もない。


まあ食事の好きじゃない俺にとっては、これも悪くないな。


シンシアと食べたべっちゃ汁が懐かしいと思ったり、

朝のかあさんのシチューが恋しいと思ったりもするかもしれないけど、

普段の食事としては俺はこれが好きだな。


いや、ちょっと待て…

「ス、スイーツなんかは?」


ナナヨさんが呆れたように笑って言った。

「食事がこれなのに、あるわけないでしょ」


「チョ、チョコが無い世界だと…」


「チョコレートなんて、もう原材料すら手に入らないんじゃないかしら。

まあ昔の味を懐かしいと思って欲しくなる気も…無くはないけど、

いや別にいらないかな」


俺は元の世界に帰ればチョコが食べられる。

俺はこの世界の住人には慣れないと本気で思った。


そう考えると、反政府に加担する気持ちもわからなくはないか?


「ゆうなちゃんは大食いで食べるの大好きだから、

食事がこれだってだけで、

もうゆうなちゃんがこちら側に加担したいのは確定だね」


「食事だけでそこまで?そんなに大切なこと?」


「そりゃそうでしょ。

食事が唯一の人生の楽しみだって人だっているよ。


俺達の父さんだって、知らない味を食べることが何より楽しいって言ってたし」


「そうなのね。食事の改善が課題か。

ゆうなちゃんのために出来ることを考えるわ」


「ちなみにゆうなちゃんの大好物はどら焼きね。こしあんの」


「確か小豆よね。小豆は大丈夫、手に入るわ。

あ~砂糖なんてどうやって手に入れるのかしら。

後は何が必要か。アマテラスに確認しないと」


これだけコンピューター技術が発展した世界で、

チョコどころか砂糖も手に入らないって…


そうか、難しく考えてたけどそういうことか…


「楽しい食事や最低限の娯楽を政府が認めること。

それがゆうなちゃんを味方にするだけじゃない。


反政府勢力と和解する道でもあるって、わかってる?」


「ちょっと何言ってるかわからないわ。どういうことかしら?」

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