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輪廻回廊369  作者: ヴァネット卿
第二部 第二章 幸福

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第57話 ゆうなと幸せの方程式

やばいやばいやばい。


急に歌わされてる。

「あ~ふれ出~る~思いが~私の全て~」


あからさまに怪訝な顔をされてる。


「オーバーフロー、こぼれる思いを受け取って~」


絶対思ったほど歌唱力無いなって顔だ。


「は~い、一旦そこまで~。


そうね。絶望的ってこともないし、

発声練習とかしていけばそれなりに良い感じになる歌声だとは思うわ」


絶望的でもない…


ここは主人公補正で、みんなが涙するほどの歌声で人の心をとらえる場面じゃ…



「大丈夫よ!誰もそんなに期待してないし!

ナギは歌姫ポジだったんだけどね」


心にグサグサさしてくる。

歌姫の代わりって…私も歌姫が良かった。


「うまくなる過程を見せるのもアイドルの仕事」


うまくないこと前提の感想は心をえぐる。


「大丈夫よ!じゃ次はダンスね」


………


「うん、なんていうか。面白い動きね」


歌ってる時よりみんなの顔が引きつってる。


なんだ面白い動きって…

可愛いとか綺麗とか言うところだろう。


面白い動きするアイドルってなんだ。



ただ、歌にも踊りにも集中出来てない理由が、

さっきから聖女の記憶?がざわざわしてる。


「ライブって、どれぐらいの人が入るの?」


「今回はね。十万人ぐらいかな?」


「じゅ、じゅうまん!?」


そんなライブ聞いたことない。


「まあ他に娯楽が無いからね。みんな楽しみにしてくれてるよ」


「うそでしょ。そんな規模のコンサートで、私をぶっつけ本番で出すの?」


「大丈夫よ。舞台に立つのがゆうなだってことに意味があるの。

次の世界を作る始まりの日になるわよ。


じゃーいっちょ行きますか!」


「え?歌詞も覚えてない」


「歌詞カード見れば良いわよ。大丈夫!気を楽にね」


コンサートでぶっつけ本番で歌詞カード片手に歌うアイドルなんて聞いたことない。


めちゃくちゃだ。

ママにもはるま君にもめちゃくちゃだと言われる私が、

ドン引きするぐらいめちゃくちゃだ。



ライブが始まり、レイが私を紹介する。

緊張で手を振ることしか出来なかった。


凄い歓声が上がる。

とてつもない熱気に圧倒される。

少しだけゾンビの群れを思い出してしまった。


歌詞カード片手に面白い動きでぎこちなく歌う私、会場中から笑い声が聞こえる。

でも不思議と嫌な気持ちにならない。


誰も馬鹿にして笑っていない。

笑顔で楽しんでくれてる。


失笑じゃないんだ。

娯楽の無い世界で、私のやることすべてがみんなの娯楽になってるんだ。


この状況が、みんなの楽しいを作ってるならと思えば心が晴れていく。


楽しい。みんなを楽しませたい気持ちがあふれてくる。

それに聖女の記憶が呼応する。

そうだ。聖女はみんなに幸せを与える存在だ。

この状況を、聖女が喜んでいるのがわかる。


素晴らしい歌声も無い、感動するダンスも無い。

でもそれで良いんだ。みんなの楽しいを作れれば。


そう思った瞬間、聖女の記憶があふれ出す。身体に光の幕が出来ていくのがわかる。


きっと聖女の力があふれてるんだ。


あふれ出す気持ち、その歌詞に呼応するように会場を光が包む。



そうだ。

パパとママに言われてた。

歌は上手に歌うことよりも歌詞を理解して、

その状況を思い浮かべながら歌うことの方が大切だって。


あふれ出した思いが私の全て。

そうだ、無駄だと思うはみ出した部分が私の全てで大切な人生なんだ。


歌が急にうまくなるわけじゃない。

でも、客席の雰囲気が変わったのが分かった。


私にしか出来ないこと。

それは、精一杯、今私が出来ることをやることなんだ。



会場の熱気がピークに達したその瞬間。


ドッカーン!


客席の一部で爆発が起こった。

その瞬間、客席の大勢が武器を取り出す。

みんな、わかってたように動き出した。


他のメンバーに目を向けると、歌をやめない。踊り続けてる。


そうか。私達が今するべきなのは戦うことじゃないんだね。


ライブを、楽しいを続けることなんだ。



銃撃戦が繰り広げられる中、一心不乱に歌い続けた。


弾丸が頬をかすめる。

そんなことはどうでも良いと思えてしまった。


撃たれる人もいる。でもきっとこれが私達の答えなんだ。


歌で戦いを止めるなんて、都合の良い奇跡は起こらない。


でも、それは同時に戦いなんかで歌は終わらないことの証明でもあった。


命尽きるその瞬間も楽しむことをやめない。それこそが答えだ!



そう思った瞬間、あちこちに土壁が飛び出す。

全ての銃弾を人に届く前に止めていく。


はるま君のベヒーモスだ!

見ると土壁の一つに人影が。


はるま君だ!


はるま君に会えたことが嬉しい。


はるま君は敵側なのかも?

でもどうでも良い。


イフリートさんの炎は優しくしても人を傷付ける。

ベヒーモスさんしかいないのは、はるま君が殺そうと思ってないからだろう。


きっとそれははるま君が誰も傷付けるつもりがないからだ。

それがわかれば、はるま君のやることに異議なんてあるわけがない。


戦いを止めるのははるま君に任せよう。

私の役目は楽しいを続けることだ!



気持ちがどんどんあふれてくる。

聖女の記憶がそれに呼応する。


覚醒して歌がうまくなるなんてこともない。

覚醒してみんなが戦いを辞めるなんてこともない。

覚醒なんてしないし、世界も何も変わらない。


ただ私の人生は最高だ!

それだけで十分だ!


他のメンバーに目をやると、全員最高の笑顔で踊っていた。


「みんな~楽しんでくれてありがと~!」

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