第51話 愚者と許されざる者
「ルーナさんは、おねえさんなの?」
世界が変わっても、はるま君がイフリートを出せるように、
おねえさんの後ろにいた龍を、ルーナさんが呼び出した。
「同じ龍だよね?」
「神の加護を纏いし少女か。我はリヴァイアサン、水の精霊の一柱よ」
「私のこと知ってるんだね。やっぱり同じなんだ。
前に会った時に一緒にいた人と契約してるの?そしてルーナさんとも?」
「我の主は倉庫番殿だった。転生した主にも仕えている」
はるま君が驚いて声を上げる。
「おねえさんが恐竜?そしてルーナもってこと?」
「そういうことだよね。なんかつながった気がする。
パパに仕えて、
パパが眠った後もパパのために人生をかけて戦ってくれてるおねえさん。
魔王さんに仕えて、
魔王さんを殺してでも魔王さんの目的を果たそうとする恐竜さん。
シグルズさんに仕えて、
シグルズさんがいなくなった後も、
シグルズさんの目的のために戦おうとしてるルーナさん。
みんな同じなんだ。仕える相手や目的が違っても、見ている背中が同じなんだ」
「リヴァイアサン殿が、恐竜と言う方と契約していた。
私とその恐竜殿が、魂で繋がる存在だと言うことですか…
素直に理解はし難い話ですが、
リヴァイアサン殿がここに顕現してる以上、その通りなのでしょうね」
「私は誰なんだろう?ザルワーンの第一王女はどういう人だったの?」
第二王女のベルナさんが答えてくれた。
「姉のマリアベル、私達はマリアと呼んでいました。
暴君と言われる所もありましたが、乱暴なだけで民の幸せを第一に考える人でした。
私を女王にと、第二王女派のような者達も存在しましたが、
私自身はマリアに勝てるとも勝ちたいとも思っていなかったです」
そうか、たぶんこの世界は、シグルズさんとマリアさんが導くはずだったんだ。
でもいなくなったから…
きっとルーナさんとベルナさんにこの世界の命運がかかってるんだ。
「ルーナさんとベルナさん、この二人が世界を統べるんだと思う」
ルーナさんとベルナさんが同時に口を開く。
「私が?」
「二人が統べると言うより、二人が統べるべきなんだと思う。
シグルズさんとマリアさんの見たかった世界を作らないといけないんだ」
「不思議ですね。
なんだかわからない話ですが、ゆうな様の言葉は世界の真理のように感じます」
「合ってるよね?」
私は愚者に聞いた。
彼女は何も答えずにやりと笑った。
「でもちょっと不思議なんだ」
はるま君が真剣な顔で首をひねる。
「修羅の世界は、
他者よりも優れていることを証明するために命すらかける世界でしょ?
その割には、人が弱すぎる。
畜生の世界だったら俺はアリシアさんにだって勝てないし、
アーサーさんにすら勝てるかわからない。
俺には…王女を切ったアーサーさんの剣が見えなかったし」
「アーサーさんの剣より、はるま君の剣の方が早かったよ?」
はるま君が驚いて声を上げる。
「見えてたの?俺の方が早かった?」
「そうだね。でも確かにアリシアさんみたいな強者がいないのは気になってたよ。
命をかけて強くなりたい人がこれだけいる世界にしては強さが足りないって」
「それはそうじゃろ。あの強さは魔王一人の存在が始まりじゃからの」
愚者が嫌そうに答えた。
「奴の存在はイレギュラーよ。
お主らの父と同じ存在…この世にあってはならぬ者じゃ」
「パパがこの世にあってはならない存在?どういうこと?」
はるま君が怒鳴りつける。
「俺達も生まれてきちゃいけなかったってことか?」
「これは言い方が悪かった。謝罪しよう。
お主らの父はあってはならぬ存在に進化したとでも言おうかの」
「賢者、天狗、そして我等、お主の目にはどう映る?
普通に存在する普通の人だと思うかの?」
「サイズが俺達とは違う」
アリシアさんとシンシアの比較でも背の高さでしか見てなかったな。
はるま君はこういうところ、ちょっとずれてるんだ。
私は補足した。
「サイズは関係ない気がする。なんでも知ってるってのもそうだけど、
約定とか、なんだか私達とは違うルールで動いてる気がするわ」
「そうじゃ我等、厳密に言えば全て含めて我等じゃが、
お主らの言う世界の単位で見れば理の外で動いておる。
おそらく、主らには理解出来ん存在じゃ。
お主らの父親を除いての。奴にはそれが理解出来てしもうた。
特殊な条件下で奴は進化した。と言っておこう。それ以上は語れぬ。許せ」
「とにかく、パパがこの世界に許されない存在になったってことね。
そして魔王も、だからあれほどの強さを手に入れた」
「そうじゃな。
魔王が世界の深淵を覗いた結果、
それに従う者達と共に強き神話の力を手に入れだした」
そういえばアリシアさんが言ってた。
魔王と共に軍を出た後、神話の遺跡を探索したり、たくさんの冒険をしたって。
ずっと黙っていたルーナさんが声を上げる。
「その魔王と言うのは私達が知っている東の大陸の支配者のことですか?」
「すまんすまん。同じだと思って良かろうよ。
お主らが魔大陸の支配者と呼ぶ存在は、アヴァロン帝国の皇帝じゃ。
ゆうなとはるまが知る魔王とほぼ同等の存在じゃ」
「パパ、畜生の魔王、修羅の皇帝、同じ理の外の存在…」
この時、愚者の顔を見ていれば、
私はもっと早くにその事実にたどりついていたのかもしれない。
ルーナさんの顔色が悪い。血の気が引いていく。
「はるま様を子供扱いする部下を数万と抱える魔王と同等の存在、
この世界の皇帝に私達は勝てるのでしょうか…」
だがはるま君は、子供のように無邪気に言う。
「なんで勝てるかなんて話になるのさ!
戦うなんて誰も言ってないでしょ?皇帝だって」
「え?しかし皇帝はこの世界に宣戦布告を…いや違う、皇帝が現れた時。
我と対等にやりあいたくば、この世界の力を一つにしてかかってこいと言った。
西を平定したらやりあうと言ったのは、話し合うということかもしれない」
「だよね。俺達が知ってる魔王と同等なら、
その圧倒的な武力を単に振るうようなことはしない」
「では皇帝はなんのために…
西の大陸が争いを辞め一つになるのを待っている?まさか…」
「かもしれないね。私達の知ってる畜生の魔王は、
奴隷を解放しなければ国を滅ぼすと圧力をかけて待つような人だったからね。
まあただ、待てないと思えば数万の民と国を消し去るような人なんだけどね」
「なぜそのような…」
「まあわからないけど、
今はとりあえずこの国が平和に統一されるために、
ルーナさんが女王にならなくちゃ」
「わかりました。必ずや、陛下のためにも私が成してみせましょう」
腹が決まったルーナさんは、
アリシアさんやアーサーさんのような頼もしさを感じる女性になっていた。
「よし!
最終戦は、20万の兵の頂点に立つ大陸最強国家の王だ。
気を引き締めて行こう!」
はるま君が格好付けて最後においしい所を持って行った気がするが、
姉として大きな心で許してあげよう。
なんだかむかつくが…




